教会騒動
薄暗い路地を抜けると、目の前に三階建ての建物が現れてきました。
赤レンガの壁。そして風見鶏。
アンティークな雰囲気が趣深い。
「ここが、主が言ってた宿屋にゃ」
「宝様はまだ戻られていませんね」
左右の大通りを見渡す。
街も暗くなり、労働終わりの農夫に商人が行き交うが、その中に宝様たちの姿はない。
忙しなく店仕舞いをする中、妖力を纏っている二人組の男性たちがいました。
見るからに冒険者と言ったような風体の、ロングソードを装備した中年の男性。
十中八九。経験豊富な冒険者でしょう。
「にしても驚いたよなぁ……」
「あぁ、いきなり教会で爆発が起きたと思ったら、デカい狼まで現れたしよ」
教会で爆発。巨大なオオカミ。
そのふたつのワードが、私の頭から離れない。
(今日……宝様達が向かったのは教会。そして、巨大なオオカミ)
強力な妖怪による襲撃を受けたか。
あるいは……。
「教会側から攻撃を受けた……ね」
リナが隣で口を開く。
首席の科学者としての鋭い眼差しが風景を突き刺す。
「話を聞いてみる価値はありますね」
「えぇ、」
ミレちゃんが眉を下げながら袖を掴む。
「どうしたのにゃ? レイラさん」
「大丈夫です。少し気になったことができたので、先に部屋に戻っていてくれませんか?」
不安を煽らないよう、柔らかく。
ミレちゃんは少し安心したのか、コクリと頷いた。
「分かったのにゃ、先に荷物をまとめておくにゃ」
「お願いね。私達もすぐに追いかけるから」
ミレちゃんをエントランスに見送り、私はリナの元に戻ります。
彼女は既に、冒険者たちを捕まえていました。
「すみません、お聞きしたいことがあるのですが」
「おぉ、どうした姉ちゃん」
薄く顎髭を生やした男性が答える。
「先程話されていた教会での爆発について、少し教えていただけませんか?」
「気になんのか?」
「まぁ、町中大騒ぎだったからなぁ、そりゃあ情報のひとつやふたつ欲しくなるか」
隣のメガネをかけた男性が頷く。
「つい半刻前の事なんだがな、東城下町の広場近くにある教会が突然崩れたんだよ」
「崩れた……?」
リナちゃんが眉根を寄せる。
「あぁ、それも少しの崩落とかじゃなくて、跡形もなく消し飛んだ感じだったんだ」
教会といえば、私も街を歩く時に一度見たことがありました。
十メートルを超える。
圧倒的な存在感と神々しさを放つこの街の象徴であり、神話の聖地。
それが、跡形もなく吹き飛んだ。
「それは、戦闘に巻き込まれたという事ですか?」
「多分な」
「それで、崩れた直後に巨大なオオカミが鎧を着た何かと戦ってたんだよ」
先程言っていた巨大な狼とは、これの事でしょう。
しかし、そこに付け足されたのは鎧を着た存在の新情報。
「鎧を着た……何か」
「あぁ、それも上妖にしては化け物じみた妖力で誰も近づけなかった」
(確か……教会は宝様と麗華ちゃん、茜ちゃんが向かっていましたね)
そこで巨大な狼か鎧の存在、あるいはその両方が襲撃し、宝様たちはそれを跳ね除けるため応戦した。
その結果、教会が跡形もなく吹き飛んだ。
(ですが……ここは街の中です)
妖将。つまり神からの司令無く妖怪が街に襲撃してくることは、あまりないと思いますが。
(独断で動いた……もしくは)
「特妖クラスの妖怪からの命令、ですか」
「教えてくれてありがとうございます」
「おうよ、また何かあったら言ってくれよな」
そうして、男性たちは去っていきました。
宝様たちを狙った教会への攻撃。そして、地区で分担された宗教文化。
この土地に根付いた問題は、想像以上に深いようです。




