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レビア・カーディナル

 その声は、想像していたよりもずっと快活だった。


 宝はわずかに目を瞬かせる。


 威圧的な妖力の圧に備えていた身体が、肩透かしを食らったように緩む。


 だが――次の瞬間。


 空気が、変わった。


 宝の足元の砂が、微かに震える。


 水気のないはずの地面が、じっとりと湿り気を帯びたような錯覚。


 見えない深海が、この場に開いたような圧迫感。


(……来る)


 宝が直感する。


 その時、女が姿を現した。


 宝より頭一つほど高い背丈。


 長い蒼髪が、ゆったりと揺れる。


 そして――


 女は一歩前へ出た。


「あなたがレビアさんですか?」


 宝が問いかけると、女は胸を張り、満面の笑みを浮かべた。


「いかにも!」


 両腕を大きく広げる。


「ワタシこそが――」


 芝居がかった動作でくるりと回り、指先を天に掲げる。


「完璧究極の美の女魔導士!

 レビア・カーディナルだ!!」


 堂々たる名乗りだった。


 だが――


 宝たちが感じ取ったのは、その言葉以上のものだった。


 濃密な妖力。


 空気が水のように重くなる。


 肺に吸い込むだけで、身体の奥が圧迫される。


 まるで。


 巨大な水龍が、この場のどこかに潜んでいるような感覚。


 宝の背筋に冷たい汗が流れる。


(間違いない……)


(この女、とてつもなく強い)


 隣で麗華が小さく呟く。


「凄い人だね……宝」


「あぁ……オーラが桁違いだ」


 茜も真剣な表情で頷く。


「さっきから……水龍みたいな気配がする」


 レビアは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らした。


「ほう! どうやらワタシの美しさに見惚れてしまったようだな」


「いや違う」


 宝は即答した。


「アンタに聞きたいことがあって来た」


 レビアは面白そうに眉を上げる。


「そうか! なら何でも聞くといい!」


 胸を軽く叩く。


「この究極の女魔導士レビアが、直々に答えてやろう!」


 宝は真剣な目で問いかけた。


「水の神による干ばつの預言……それについて聞きたい」


 レビアの表情が、ほんの僅かに引き締まる。


「……ワタシが一か月前にした預言のことか」


「あぁ」


 宝は息を整え、言葉を続けた。


「『一月後、再び大いなる厄災が降り注ぎ、民は死に絶え、国は滅亡する』」


 静かな沈黙が落ちる。


 風が止まった。


 遠くで鳥の鳴き声が一度だけ響く。


 宝はさらに踏み込んだ。


「この干ばつは……聖女の家系が住む土地で起こるっていう話なのか?」


 レビアは静かに目を閉じた。


 しばしの沈黙。


 軽い調子だった空気が、いつの間にか張り詰めている。


 やがて。


 彼女はゆっくりと口を開いた。


「厄災は訪れる」


 その声は、先ほどまでとはまるで違った。


 深く、静かで、重い。


「だが……それが何かはワタシにも完全には見えなかった」


 宝たちは息を呑む。


 千五百年を生きる特妖。


 その預言でさえ、完全ではない。


 レビアは続けた。


「ただし一つだけ確定している」


 藍の瞳が鋭く光る。


「水に関する災害だ」


「水……?」


 麗華が呟く。


「それって……津波とか洪水の可能性もあるってこと?」


「その通りだ」


 レビアは静かに頷いた。


「干ばつだけではない」


「大洪水、海嘯、氾濫、あるいは――水そのものの暴走」


 その言葉に。


 宝の胸に重たい現実がのしかかる。


(一ヶ月以内に止めなきゃ……)


(俺たちは処刑される)


 沈黙が場を包む。


 その空気を破るように、レビアが口を開いた。


「何やら……特別な事情があるようだな」


 宝は覚悟を決めた。


「俺たちは、その厄災を止めるためにこの国に入った」


 レビアは宝をじっと見つめた。


 長い沈黙。


 深海のように静かな時間。


(この者たちなら……)


(あの御方の乾きを埋められるかもしれない)


 レビアの口元が、ゆっくりと緩む。


「分かった」


 そして彼女は言い放った。


「ワタシもキミ達に協力しよう」


「いいんですか!?」


 麗華が思わず声を上げる。


 レビアは肩をすくめた。


「あぁ」


「ワタシもこの国を救いたい人間の一人だ」


 宝は深く頭を下げた。


「ありがとう、レビアさん」


 レビアは満足そうに笑い、胸を張る。


「ふふっ」


 そして指を一本立てた。


「ワタシがいれば――」


 自信満々に言い切る。


「一億人力と思っておいてくれ!」


 その言葉には、冗談の響きがありながらも。


 圧倒的な実力に裏打ちされた確信があった。

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