清純
悲鳴のした道奥へ駆け抜けると、そこには異様な光景が広がっていた。
屈強な男たちに囲まれ、震える女性。
傍らには少し大きめの馬車が停められている。
「女ァ……ちょっと着いてこいや」
「嫌っ……やめてください……!」
男たちは全員覆面姿。
短剣、刀、弓――武装は統一感がなく、明らかに寄せ集めの盗賊団。
だが、ただのチンピラではない。
(……全員、妖力を纏っている)
数は三十。
奥の馬車の中には、妖怪特有の気配が一つ混じっている。
(使役妖怪か……)
「お兄ちゃん……あれって……」
「あぁ、悲鳴の主だな」
女性はシスターのような服装をしており、
胸元にはロザリオが揺れていた。
(神官職……いや、聖職者系か)
それを見た瞬間、茜が一歩前に出た。
「私、行ってくる!」
「ちょ、茜ちゃん――!」
制止する間もなく、茜は盗賊団の前へ歩み出る。
「……まぁいいだろ。見捨てても後味悪いだけだ」
茜が、盗賊団の中央に立つ巨体の男に声を投げる。
「その人に、何してるの?」
リーダー格らしき男。
身長は二メートル超。
筋肉の塊のような身体に、大斧を担いでいる。
「あ"ぁ? なんだメスガキ」
脅しの声。
周囲の男たちの視線が一斉に茜へ向く。
隙間越しに見えたのは、
女性の両腕を拘束する側近の姿。
「その人、嫌がってるよ!」
「関係ねぇだろうが!」
怒号が迸る。
周囲の男たちも一斉に殺気立つ。
「引っ込め雌ガキ!」
「身包み剥いで売り飛ばすぞ!」
「まずは頭割ってやらァ!」
一人の大槌が、茜に振り下ろされた。
――空気が爆ぜる音。
一直線の軌道。
ただのチンピラの振りではない。
「それ、当たると思ってるの?」
茜は一歩下がるだけで、槌を躱す。
大槌は空を切り、地面を陥没させた。
「な……速ぇ……!」
「ゴラァ!」
鉄剣、短剣、刀。
一斉に斬撃が降り注ぐ。
「当たらないよ」
茜は滑るようにスライディングし、股下を抜ける。
振り返った瞬間、
その手には夕日を模した湾曲短剣が握られていた。
「囲めぇ!!」
「数で潰せ!!」
三十の肉体が一斉に迫る。
妖力を纏った武器が、空気を裂く。
(典型的な数の暴力……)
だが――。
茜の短剣が、オレンジの光を帯びた。
[『夕日妖術』朱暮斬]
逆光の斬撃。
夕焼け色の閃光が翻り、世界が一瞬、反転したように見えた。
次の瞬間。
盗賊団の胴体が、一斉に裂ける。
血が噴き、肉体が崩れ落ちる。
「ガ……ッ」
「ぐ……」
誰一人、反応すらできていない。
「……嘘だろ……」
リーダー格の男の顔色が変わる。
「あとは……あなただけだよ」
茜の視線が向いた瞬間、男の戦意は完全に崩壊した。
「わ、分かった!! この女はやる!!」
手網を放り捨て、男は一目散に逃走する。
「……なんだ、続けないんだ」
茜は拍子抜けしたように短剣を納めた。
そこへミレが駆け寄る。
「茜さんも強いのにゃ!」
「えへへ、ありがと」
「……あ、あの……!」
助け出された女性が、深く頭を下げる。
「助けていただき、ありがとうございました!」
「無事でよかったです!」
「気をつけてね!」
――だが。
(おかしい)
俺の中で、違和感が膨らむ。
(僧侶……いや、聖女クラスの装備と雰囲気)
(希少職だ。護衛なし? パーティにも属さず?)
(この時間帯に単独行動?)
あり得ない。
近くの国は、カエデ王国しかない。
「……なぁ、ひとついいか」
「はい」
「カエデ王国に向かってるのか?」
「はい」
「目的、同じだね!」
「なら同行しない?」
「……良いな。それ」
俺は聖女を見つめながら、確信していた。
(この女――ただの被害者じゃない)
物語は、ここから一段深い層へ入る。




