表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/80

森を抜ける


 焚き火の残り火が、かすかに赤く瞬いている。

 

 その近く、丸太に腰掛けたままうたた寝していたミレの肩を、俺はそっと揺すった。

 

「主……もう出発するのにゃ?」

 ミレは眠たげに目を擦り、背伸びをする。

 

 その動きに合わせて、腰から生えた猫のしっぽがぴん、と真っ直ぐに立った。

 

「あぁ。カエデ王国まではかなり距離があるらしい。そろそろ動こう」

 

 空はまだ暗い。

 それでも俺たちは寝袋を畳み、出発の準備を始めた。

 

 持ち出していたのは寝袋と電動鍋だけ。

 片付けはあっという間に終わる。

 

「行きましょうか、宝様」

「あぁ」

 

 焚き火の炎を完全に消し、俺たちは静かに森へ踏み出した。

 

(……朝方だっていうのに、やっぱり夕日は沈まないな)

 

 黒い空に浮かぶ夕日が、森全体を不気味に照らしている。

 

 夜が明ける気配は、まるでない。

 妖怪たちのいびきが聞こえる中、足音を殺して進む。

 

 獣道らしきものは続いているが、草が伸び放題で人の手が入った形跡はない。

 

(長い間、放置されていたみたいだ)

 

 そう思った、その瞬間だった。

 

 ――カラン。

 

 どこからか、骨が触れ合う乾いた音が響いた。

 妖力反応は中妖クラス。

 

 数は……二、いや三体か。

 

 ミレが即座に懐から短剣を抜き、俺たちの前に立つ。

 

「主、ここはわたちがやるのにゃ」

 

 普段の怖がりな姿からは想像できないほど、

 その瞳は鋭く、獣の光を宿していた。

 

 茂みの奥から、紫色の炎が揺らめく。

 左右から二つずつ、鬼火がミレへと迫った。

 

《『中妖』骸骨》

 

[『猫又妖術』土爪(どそう)

 

 紫の剣閃が一閃。

 鬼火はまとめて両断され、霧散する。

 

 その勢いのまま、周囲の太い枝が次々と切り落とされた。

 

「……見えたにゃ。そこ!」

 ミレは目を見開き、左の茂みへと飛び込む。

 

「コツ……コツ……」

 姿を現したのは、人間大の骸骨。

 だが――同時に、背後の茂みも動いた。

 

[『骨操妖術』骨柱(トーテムポール)

 

 白骨の指が地面に触れた瞬間、

 ミレを追うように骨の柱が突き出す。

 

 その一本が地面を割り、残酷なほど鋭利な白を露わにした。

 

「ミレちゃん!」

 

 レイラが声を上げ、武器に手を掛ける。

 

 だが、俺は静かにそれを制した。

 

「大丈夫です、レイラさん」

「ミレは……この程度でやられるタマじゃない」

 

 俺は知っている。

 彼女がどれほど強くなったかを。

 

[『猫又妖術』猫速(キャットラン)

 

 骨柱の頂点で、ミレの脚が輝く。

 

 膝を深く曲げた瞬間、

 周囲の空気が押し潰されるように歪んだ。

 

 そして――。

 

「貰ったのにゃ!」

 

 音を置き去りにする突進。

 

 踏み込みの反動で、骨柱と槍に亀裂が走り、砕け散る。

 

「にゃあっ!」

 

 短剣が頭骨に突き立ち、骸骨は崩れ落ちた。

 残る一体が背後から襲いかかる。

 

「……見えてるにゃ!」

 

 振り返りもせず放たれた紫の斬撃。

 光が白骨を通り抜け、二つの骸骨は輪切りになって地面へ転がった。

 

「ふぅ……どうにゃ、主!」

 

 振り返ったミレの瞳は、誇らしげに輝いている。

 

「あぁ……また強くなったな」

 ポップタウンを越えてから、明らかに別次元だ。

 

 中妖程度では、もはや束になっても相手にならない。

 

「すごいです、ミレちゃん!」

「えらいですね」

 

 レイラに撫でられ、ミレは喉を鳴らす。

 

「嬉しそうだね」

「うん! レイラさんに撫でられるの大好きにゃ!」

 

 その声は弾むようで、自然と頬が緩む。

 

 それから十数分ほど歩いた時――

 枝葉の隙間から、夕日が差し込んできた。

 

「あ、見て! 森を抜けられるよ!」

 

 霊の森を抜けた。

「抜けたー!」

「ちょっと不気味だったけど、楽しかったわね」

 

 暗い夕日の下、芝の広がる平原。

 軽く舗装された土の道が、どこまでも続いている。

 

 道の脇には、涙のような果実を実らせた低木が並んでいた。

 

「この道をずっと進めば、カエデ王国のはずだよ!」 「どんな国なんだろう……」

 

 麗華が目を輝かせた、その時――。

 

「……た、助けて……」

 

 か細い声が、風に乗って届いた。

 

「宝様……今の」

「あぁ、襲われてるな」

 

 距離は近い。

 

「盗賊団かも」

「よし、それならチャチャッと助けちゃお!」

 

「あぁ」

 

 俺たちは顔を見合わせ、同時に駆け出した。

 

 ――次の戦いは、もう始まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ