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最悪の夢

ポップタウンの防衛をご主人と誓い、私たちは各々の布団に入った


冒険者としてデビューしてから硬い床に藁蓑を敷いて、適当なボロ布を掛け布団に眠っていた為、こんなふかふかな心地のいい布団は数ヶ月ぶりだ


ミレ心「今度こそ、大丈夫な筈にゃ」

ミレ心「ご主人は、あんな冷酷な人間じゃない、私の目に狂いは無いのにゃ」


私はこちらに背を向けて横になる主の姿を見ながら、ぼんやりとあの頃の記憶を思い出していた


幸せな日々を突如として蹂躙された、あの日の絶望と深い悲しみ


それをぼんやりと脳裏に浮かべたまま、私は暗い部屋の中で目を閉じた


ぱちぱちと、薪が焼けるような音が聞こえてくる

それに、なんだか焦げ臭いような匂いに混じって誰かの叫び声も聞こえてくる


ミレ「ここは……何処なの?」

ミレ「近くで火事が起きて……?」


私は焦げ臭い匂いと人の声がする方向へ、重い足を何とか動かして歩いた


近づく度に、人の叫び声が、肌を焼く熱気が私に押し寄せてくる


ミレ「この、光景……」


私はやっと、自分が置かれている状況、そして光景に気が付いた


いや、正確には


目を逸らそうとしていた光景を、無理やり目に焼き付けられた


ミレ「ぁ……あ"ぁぁ!!!」


私の目に映ったのは、轟々と燃える木造の民家

そして、作物を毟り取られて、無惨な姿に成り果てた畑だった


私は、この光景を知っている


ミレ「きっと……何かの嘘だよ」


私は目の前の状況を否定したくて、この状況を嘘だと自分を納得させたくて


燃え盛る村の中に入っていった



しかし、それは悪手だったと村に一歩足を踏み入れただけで気がついた


屈強な装備で武装した巨漢たちが手に持つ銃器で、化け猫の村人たちを無差別に撃ち殺している


ミレ「あ"ぁ……いやっ……こんなの嘘に……」


撃ち殺される人の顔を、私は見てしまった


いつも私に爽やかな笑顔で笑いかけてくれていた、隣の家のお兄さん

その表情は絶望と苦悶に塗れていて、撃ち抜かれた胸から赤い血が飛び散る


ミレ「嘘に決まっ……決まって」


私は否定したかった、目の前の悪夢のような現状を、つい先日まで笑いあっていた人が、無惨に殺される現実を、


ミレ「こんなの……嘘……」

ミレ「だ、だって」

 

私は、見たくない目の前の光景にめまいがし、震える手で壁にもたれかかろうとした


その時、生ぬるい感触が、私の手を包み込む


ミレ「ぇ……何、この感触」


私は、自らの手についた生暖かいそれを見る


ミレ「い……嫌っ!」

 

そこには、大量の血が飛び散り、壁を真っ赤に染め上げていた


同じものが、私の手にも付いている


ミレ「っ……こんな、こと」

 

女性「キャァァァァ!!」

男性「やめてくれ!妻だけは!ギャッ!!」


男性が目を見開いたまま、脳天に風穴を空けられて仰向けに倒れた


倒れた男性を中心に血が地面に広がる


女性「ぁ……貴方!!」

軍人「黙れ化け猫女!」


ドンッという銃声が響いたと同時、女性も倒れた男性に折り重なるように、血を撒き散らしながら倒れ込む


目の前で、また人が殺された

 

ミレ「い"……い"やっ……うぷっ」


私は目の前の惨状を目の当たりにして気分が悪くなり、口を抑えながら倒れ込んでしまった


ミレ「はぁ……はぁ」


そうしている間も、目の前の地獄の光景は終わるどころかさらに苛烈になっていく


共に遊んだ子達が軍人に乱暴に腕を引かれて攫われ、それを止めようとした親はこの目の前で射殺されていく

 

ミレ「み"、……んな゙……う"っ……」

 

黒光りする銃口を見た私は猛烈な吐き気に襲われて、立てなくなってしまった


軍人2「おい、こっちにも女が居やがるぜ」

軍人3「いい頃合の年齢じゃねぇか」

 

私の存在に気が付いた軍人たちが、下卑た笑みを浮かべながら銃を構えて近寄ってくる


ミレ「い……いや……来ない……で」


私はただ、恐怖に震えながら後ずさりするしか出来なかった

 

冷たく黒い、複数の銃口と下卑た眼光が、私を隅から隅まで舐めまわすように見つめる


ミレ「や……殺さな……いで」


軍人3「こいつ怖がってやんのwww」

軍人2「顔も良いし、売るかwww」


軍人が白い手袋に包まれた、その悪意に満ちた手で私を掴もうとした、その時


ミレ母「私の娘に触るな!」


お母さんが、農具の鎌を持って軍人と私の間に割って入るように立ちはだかる


軍人2「あぁ?何だこの女」


ミレ「お母……さん?」

ミレの母「ミレ、お母さんが守るから……」


その時だった

 

ドンッという一発の銃声が辺りを支配する

 

お母さんの身体から赤が散り、私の顔や身体に飛び散り、母親はその場に崩れ落ちるように倒れた 


ミレ「え……お母……さん?」


冷たい黒い銃口から、弾丸を放ったのであろう煙が出ている


私が、母を撃ち殺されたと認識するのに、数秒の時間が掛かった


その時間は私の人生の中で、最も長く感じる時間


ミレ「い……嫌だ……お母さん!」


私は凶弾に撃ち抜かれ、崩れ落ちた母親の服を握りしめてしがみつく

お母さんの身体から流れた血が、地面を、私を赤く染めていく


ミレ「嫌っ……!嫌だ!死なないで!お母さん!」

ミレ「やめて……、お願いだから、私をひとりにしないで!!」


私は泣き叫びながら、既に冷たくなってしまったお母さんに抱きつく

涙に濡れる私の目には、赤く染った母親と、命を狩り取ろうとする黒い銃口が映った


ミレ「お母さん!!!」


私は半ば悲鳴のような声を上げながら飛び起きる


ミレ「はぁ、はぁ……あれ?」


しかし、そこはご主人と一緒に寝ていた旅館の一室、その布団の上だった


私は、とてつもない量の汗をかいて、掛け布団をくしゃりと握りしめている


ミレ「ゆ、、夢?」


私は肩で息をしながら、薄暗い室内を見渡す


確かに、ご主人と一緒にチェックした旅館の部屋だった


ミレ「……あの夢、リアルだったな」


匂いも音も、そして血の感触も、まるで本物のように感じた悪夢

その内容を思い出そうとするだけで震えが止まらなくなる


ミレ「……まだ、夜中だよね」


窓の外を見ると、空にはまだ月が浮かんでいた


ミレ「明日は大切な防衛戦の本格的な話し合いをするんだ、早く寝ないとね」


私は、あの最悪の夢を見ないことを祈りながら布団に潜り、再び目を瞑った

 

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