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夜営の明かり

 茜たちが鍋を囲み、楽しげに料理をしている少し離れた場所で、俺はリナと並んで薪割りをしていた。

 大剣を肩口まで振り上げ、振り下ろすたび――乾いた破裂音が森の奥まで響き渡る。

 

 ガンッ、ガンッ、と。

 刃が木に食い込む衝撃が、腕を通じて骨にまで伝わってくる。

 

「……あと十八本くらいは割っておくか」

「そうですね。夜は冷え込みますから」

 

 短く言葉を交わし、再び剣を振るう。

 

 自分で割ってみて、改めて実感する。

 

 ――この世界の木は、異常だ。

 

 見た目は樫やブナと大差ない。 

 だが刃を当てた瞬間の抵抗感が、常識を逸脱している。

 

(太陽を……叩き割ってるみたいだな)

 冗談ではなく、本気でそう思うほどの硬度。

 

 それでも剣を振り下ろすたび、芯から割れる感触が腕に残る。

 

(……割るたびに、この爽快感)

 疲労よりも、むしろ快感が勝っていた。

 薪を掴み、剣を落とし、また次へ。

 

 そんな俺の手元に、リナの視線が向けられる。

 

「どうですか、宝様」

「どう、とは?」

 

 顎で示されたのは、割られ積まれていく薪の山。

 

「この世界の木は、いかがですか」

 俺は一度剣を地面に立てかけ、手元の木材に目を落とした。

 

「……ここまでの強度を持つ木材は、滅多にないな」

 割れた断面は滑らかで、密度が異様に高い。

 見た目以上に、内部が詰まっている。

 

「建材にしても、武器の柄にしても、一級品だ」

「やはり、そうなのですね」

 リナは納得したように小さく頷いた。

 

 そのとき、風に乗って甘く香ばしい匂いが流れてくる。

 

 茜たちの方だ。

 

「すごい……入れるだけで加熱してくれるの!?」

「うん! 鍋の底で火加減も調整してくれるんだよ!」

 

 魔導電鍋をコンロにセットし、水を張る音。

 軽やかな会話が、森の静けさに溶け込んでいく。

 

「まずは具材を切り分けよっか!」

「はい!」

 

 茜の声は明るい。

 

 まな板に当たる包丁の音が、規則正しく響く。

 

 じゃがいも、にんじん、玉ねぎ。

 どれも均等で無駄がない。

 

「上手だね、茜ちゃん」

「こっちの世界で……自炊していたので」

 

 褒められて、少し照れたように笑う茜。

 その仕草一つで、胸の奥が温かくなる。

 

 隣では、麗華が鼻歌交じりに牛肉を切っていた。

 

「こう見えても、料理得意なんだよ〜♪」

「本当に上手ですね、麗華さん」 

 即席のキッチンに並ぶ二人。

 

 エプロン姿が妙に板についている。

 さらに隣では、ミレとレイラさんがサラダを担当していた。

 

「私が果物を切りますから、ミレちゃんは盛り付けを」

「了解にゃ!」

 

 茜色の梨、緑色のいちご。

 見慣れない果物が、鮮やかに切り分けられていく。

 

 皿の上に並べられたそれは、まるで絵画のようだった。

 

「上手ですよ、ミレちゃん」

「えへへ……ありがとうにゃ!」

 褒められて、ミレのしっぽがぴんと跳ねる。

 

 その光景を見て、俺は小さく息を吐いた。

 

「……茜たちが楽しそうで、よかった」

「宝様は、本当に茜ちゃんを大切にされていますね」

 リナの声は、穏やかだった。

 

「あぁ。血の繋がった妹だからな」

「……ずっと、探していたんですよね」

 無言で頷く。

 

 幾つもの世界を渡り歩き、見つからなかった存在。

「今こうして……一緒に飯を食えてる」

「それ以上の幸せは、ありませんね」

 

「宝〜! ご飯できたよ〜!」

「おう、今行く」

 薪を抱え、焚き火の元へ戻る。

 

 赤々と燃える炎の上、黒い鍋が吊るされていた。

 

「はい、宝の分!」

「ありがとうな、麗華」

 

 木のボウルに注がれたビーフシチュー。

 湯気が立ち、優しい香りが鼻腔をくすぐる。

 

「いただきます」

 

 一口含むと、身体の奥まで染み渡る温かさ。

 

「どう? 美味しい?」

「あぁ……最高だ」

 

「やったー!」

「お兄ちゃんが喜んでくれた!」

 二人がハイタッチするのを見て、思わず笑ってしまう。

 そこへ、色鮮やかなサラダが運ばれてきた。

 

「森のサラダです」

「いただきまーす!」

 果物を口に入れると、爽やかな甘さが弾けた。

 

「……美味いな」

「やったのにゃ!」

 

 焚き火の音、笑い声、温かな料理。

 異世界の夜は静かに更けていった。

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