#61 跳躍
死闘を描いた門を開くと、丁寧に手入れが行き届いた花園が顔を見せる。
その中央には、剣と盾を携える初代国王の石像が建っていた。
太陽すらも貫かんとする剣の切っ先は、どこまでも誇らしく天に伸びている。
「この人が、初代国王」
「勇ましいな」
「跳躍の台座は石像の裏にございます」
俺たちが石像の裏に回ろうとしたその時……。
「待ってください……!」
聞き覚えのある、優しいがとても凛とした声が中庭に響き渡った。
声のした方を振り向く。
「嘘……! ほんとにっ!?」
「夢じゃないのにゃ……?」
そこに立っていたのは、世界を渡る旅の支度を済ませたレイラさんとリナだった。
「レイラさん!」
「リナさんも!」
二人が石像前まで駆けて来る。
「良いのか? レイラさん」
レイラさんには孤児院があったはずだ。
「マルバ中将とマグラギルドリーダーが背中を押してくれたのです」
「マグラさんが?」
「えぇ、孤児院はマジュリアのギルドがレイラに変わって管理することになったわ」
「レイラは名誉保育士という事で、遠隔での管理が認められたの」
"名誉保育士"、一度だけその役職の名前を聞いたことがあった。
孤児院での偉大なる功績が評価された者のみに送られる特別な称号であり、この権限を持つ者は孤児院の遠隔管理が可能になる。
「マジュリアのギルドハウスには、うんがい鏡を眷属にしている妖術師も居るので、孤児院とのコミュニケーションも可能です」
そういうことなら、俺たちと一緒に来ても問題は無さそうだ。
「良かったのにゃ……! お別れしないで良かったのにゃ……!」
ミレはあまりの嬉しさに顔を涙で濡らす。
「それじゃあ、行きましょうか……宝様」
「あぁ、これからもよろしく頼むぞ、レイラさん、リナ」
二人は力強く頷く。
「それでは、いい旅になることを願っています」
「あぁ、今までありがとう、マジュリア」
俺たちは台座に乗り、視界は光に包まれた。
――――。
俺たちが光に消えた後、マルバ中将は初代国王の石像を見上げていた。
「先代の英雄方……マジュリアの歴史は、進みましたよ」
太古の昔に旅立った英雄たちに言葉を投げる。
璃炎の撃破により、ラグナドールの歴史は大きく動き始めた。
――――伏魔殿――――
ラグナドールの中央に位置する京の都を思わせる和風の邸宅・伏魔殿。
ラグナドールを作った、この世界の世界神が住まう支配者の領域。
璃炎撃破の影響は、伏魔殿にも影響を及ぼしていた。
「酒呑童子様」
天守閣に現れたのは紫の鎧を着込んだ歴戦の大男。
男の名前は憎鋼。このラグナドールに五体しか存在しない妖将に分類される妖怪だ。
「璃炎が倒されました」
「ほう? 死にかけであったが、ついにか」
すだれの向こうから聞こえてきたのは尊大な威圧感を放つ女帝の声。
「マジュリアの妖術師がそれ程の力を付けていたのか?」
「マジュリア軍に加え、異界からの戦闘者の連合軍によるものでございます」
「例の鬼の炎帝か?」
男が頷く。
「ふふっ……面白くなっていたのぅ」
簾が開き、女帝が出てくる。
歩み出る彼女は、杯を揺らしていた。
着崩れた衣の奥、胸元に宿る圧倒的な豊かさが、場の空気を満たしている。
それは卑猥でも艶やかでもない。
ただ――逆らうという選択肢を、最初から奪う存在感だった。
(何度観ても凄まじい存在感だ……。逆らうという選択肢すら思い付かぬ)
この憎鋼は次元の神の骸を元に作り出された憎しみと金。そして次元を司る神。
(百回戦ったとて……百回とも惨殺されるだろうな)
そんな彼を持ってしても、逆らおうという選択肢を与えないほどに酒呑童子は絶対的だった。
「鬼燈 宝。お主はどれ程の器か……」
酒呑童子が盃を揺らし、酒を呑む。
「妾に見せてみよ」




