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ミレの懇願

ミレを連れて旅館に入った俺たちを、松や竹で彩られた庭が出迎える


水のせせらぎの中に、ししおどしがカコーンという音が聞こえてくる


ミレ「ここが今日泊まる旅館にゃ?」

宝『あぁ、旅館『碧麦』というらしい』


エントランスに入ると、こじんまりとして落ち着いた雰囲気を漂わせていた

優しげなヒノキと畳の匂いが俺の鼻腔を擽る


女将「いらっしゃいませ」


少し待っていると、和服を身にまとい、茶色の髪を一つにまとめた若い女将さんが、俺たちを出迎えてくれた


宝『二名で泊まりたいんだが、良いか?』

女将「大丈夫ですよ」


女将さんの前に木製ボードと予約用の紙が現れ、俺はそこに二人分のサインを記入する


女将「部屋は欅の間でございます」

女将「どうぞごゆっくり」


部屋の鍵を渡してくれた女将さんは、廊下の奥の方へと歩き去っていった


ミレ「この旅館、初めて来たのにゃ」

宝『だな、成り行きで入ったがとても良い旅館だ』


受付近くに置かれていた旅館内の地図を頼りにミレを連れて、赤いカーペットが敷かれた客室に続く廊下を歩いていく


その足元をほんのりと照らすのは、道の両脇に置かれた行灯だ


宝『これは、鬼火の行灯か?』

ミレ「そうにゃ、この世界の光源は殆どが鬼火の行灯や提灯にゃ」


鶴や松、梅などが描かれる襖が複数ならんだ廊下を歩くこと数分、

俺たちは目的の部屋である、欅の間に到着した


俺は欅の葉が全面に描かれた襖戸を空け、部屋の中に入る


宝『まずは荷物をまとめる、話はそれからだ』


部屋の内装は、中央に四角の机がひとつに旅館に置いてあるような座布団


天井からは行灯によく似た照明器具が吊るされており、その中には白い鬼火がゆらりゆらりと揺れながら部屋の中をぼんやりと照らしていた


ミレ「これが……欅の間」

宝『和風でとても良い部屋だ、心が落ち着くな』


ミレは格子戸から漏れる月明かりと、ぼんやりとした鬼火の明かりに照らされる美しい部屋の内装をうっとりと見つめていた


その隣で、俺はせっせと持ってきた荷物を整理しつつまとめていく


宝『さて、ひとまずはこれくらいでいいだろう』


部屋の内装を堪能したミレは、座布団に座る


ミレ「それじゃあ、早速ポップタウンへの襲撃についての話をするにゃ?」

宝『あぁ、どういうことか聞かせて欲しいな』


俺は真剣な面持ちのミレの前に、冷蔵庫のような場所に入っていた麦茶を置く

そして、ミレの前に向かい合うように俺も座布団に座った


ミレ「まず、これはあくまで冒険者たちの中で囁かれている噂なのにゃ」

ミレ「けど、その話を証明するような現象も起きてるのにゃ」


ミレは懐から少し色褪せたような三枚の写真を取り出し、机の上に置いた


それら全てにはこの世界の妖怪と思われる存在と、装備を固める冒険者と強烈な妖気を帯びている妖怪らしきものが写っている


ミレ「これは、二週間くらい前に大麦平原で撮られた写真なのにゃ」


大麦平原とは、この国の前に位置している俺がこの世界に飛ばされた時にたどり着いた平原のことだ


宝『初級のエリアにしては、かなりの重装備だな』


俺が実際に戦ったからわかる、あそこは強くても中妖の下位クラス、つまりあのオオカミくらいの力を持つ妖怪までしかいない


ミレ「その通り、普段ならこんな装備はオーバーキル以外の何物でもないのにゃ」

 

しかし、その写真に写る人物たちは上妖と戦うとでも言いたげな装備で身を固めている


それが意味することは


宝『上妖クラスが襲撃してくる可能性がある、ってことか?』

ミレ「そうなのにゃ」


上妖とは、ミレを助けた時に戦ったあの熊と同等か、それ以上の力を持つ妖怪のこと


簡単に言うと、そこそこ強い部類の妖怪だ


宝『そいつらが街に襲撃か』


実際に一戦交えたからこそ分かる


あのレベルの妖怪が複数体この街に襲ってきたりすれば、まずポップタウンは壊滅だろう


ミレ「上妖クラスを狩れる冒険者は、現状この街には三人しか居ないのにゃ」

宝『なるほどな……』


その言葉が意味することは、圧倒的な戦力不足


宝『そこで、俺に協力してもらい、ポップタウンへの襲撃を撃退して欲しいというわけか』


そう言うとミレは座布団から降りて、畳に額をつけて土下座した


ミレ「君の助けになると言っておきながら、図々しいことは承知なのにゃ!」

ミレ「だけど、この街だけじゃこの危機は乗り越えられないのにゃ……!」


ミレの声は上妖が街を破壊し、人々を蹂躙してしまうかもしれないという恐怖に震えていた


それでも、声を真っ直ぐにして、ミレは俺にその想いを伝える


ミレ「今から応援を要請しても、恐らく間に合わないのにゃ……だけど、私はこの街のみんなに死んで欲しくないのにゃ」

ミレ「だから……どうか……私と一緒に、この街を助けて欲しいのにゃ!」


ミレは震えつつも凛とした強い声で、俺に向けて言った


宝『そういう事なら、断る理由はない』


俺はゆらりとオーラを立ち登らせながら答える


宝『俺も、この街が好きになった』


宝『相手が格上と分かりながら街を守りたいというその想い、確かに受けとった』


そして、俺は畳に跪いているミレの手を取る


宝『俺も力を貸そう、必ず妖怪からポップタウンを守り切るぞ』


ミレ「……っ!……ありがとう、ございますにゃ……」


ミレは涙を流しながら、何度も俺に頭を下げる


宝『上妖だかなんだか知らないが、俺の仲間を傷つけようとするなら』


宝『何人たりとも破壊し尽くすだけだ』


俺は来たる襲撃の日に備えて、闘気を練り上げ 



 





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