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残火の追悼


 マルバ中将が手配した馬車に揺られること三時間。

 擦り切れた意識に夕焼けが滲む頃、俺たちはようやく城下町へと帰還した。


 昨日も来たはずの場所なのに――璃炎との死闘を越えた身体には、まるで数日ぶりの帰還に思えるほど懐かしい。


「やっと帰ってきたね、ここに」

「……あぁ。まずはテスラ王に討伐完了を報告しなきゃな」


 馬車を降りた中将が、門前の衛兵に深く敬礼する。


「マジュリア軍中将、マルバ・レギオン。ただいま帰還しました」

「マルバ中将! 璃炎戦、お疲れ様でした!」


 衛兵たちは背筋を正し、全身で敬意を示した。

 その視線には、化け物と化した妖怪を相手に死線を越えた者を迎える畏れと尊敬が混じっていた。


「皆様、テスラ王の御前へご案内します。どうぞこちらへ」


 俺たちは先導され、静まり返った城内へと足を踏み入れた。


――――マジュリア城――――


 ステンドグラスを通った夕陽が、長い廊下に淡い金の模様を描く。

 戦う前はただ豪奢に見えた赤い絨毯も、今は妙に温かく見えた。


「この先に王がいらっしゃいます」


 衛兵が両手で巨大な扉を押し開ける。

 その向こうで待つのは、重々しい沈黙に包まれた王の間。


 俺たちは玉座の前に進み出て、跪いた。


「ただいまお戻りいたしました、テスラ王」

 マルバ中将が恭しく頭を垂れる。


「璃炎の撃破、心から感謝する。……マルバ、鬼哭団の者たち、そして――散っていった妖術師たちよ」


 王の視線が、俺たちの後ろに置かれた形見へと向いた。

 その目に宿る寂しさに、胸がきゅっと締め付けられる。


 彼らは、俺たちの命を繋いで散っていったのだ。


「みな、実に優秀な妖術師でした。彼らの犠牲と勇気があったからこそ……璃炎を倒すことができたのです」


 俺がそう告げると、テスラ王はそっと目を閉じ、深く、長い息を吐いた。


 ――この人は、国を背負っている。

 その重さが、一つの沈黙で伝わる。


「参謀よ」

 王が隣に控えていた男へ命じる。


「金は惜しむな。国のために戦った彼らの慰霊碑を建ててやれ。……丁重に葬ってやってほしい」

「はっ。陛下の御命、確かに承りました」


 参謀が衛兵を引き連れて退出すると、王は俺たちに正面から向き合った。


「鬼哭団一行。璃炎を直接討ち倒したと聞いている。……マジュリア王国の名において、心より感謝を述べよう」


 次の瞬間、玉座の間の空気が変わった。


「望みがあるなら、一つだけ述べよ。できうる限りの礼を取ろう」


 ――来た。

 俺の中では、答えはもう決まっていた。


「では……ヒノキへ渡るための《世界超越の台座》をお貸し願いたい」


 次元を超え別世界に跳躍するための、五大帝国に存在する特別な装置。

 王城裏に置かれているあれがなければ、俺たちは酒呑童子の元へ辿り着けない。


「その程度でいいのか?」

「はい。俺たちの目的は酒呑童子の撃破。別世界への跳躍が必須です」


 テスラ王は静かに頷いた。


「分かった。台座はお前たちに貸し与えよう。跳躍を望む時、好きに使うがよい」

「感謝いたします、テスラ王」


 こうして璃炎討伐の報告を終えた俺たちは、王城を後にする。


――――城下町――――


 夜の帳が降りる中、揺れる街灯に照らされた広場に、ふと違和感を覚えた。

 そこにあったのは――巨大な石碑と、供えられた無数の花々だった。


 昼間に命令を受けた参謀が、すぐに動いたのだろう。

 たった数時間で慰霊碑が建つとは、この国の本気が伝わってくる。


「……みんな、勇敢だったね」


 麗華がそっと呟く。声は震えていた。


 石碑に刻まれた名前たちが、蝋燭の灯に揺れながら浮かび上がる。

 その光が、まるで彼らの魂がそこに佇んでいるかのように見せた。


「あぁ。……彼らが時間を稼いでくれなかったら、レイラさんもミレも助けられなかった」


 胸の奥に、じわじわと熱いものが広がる。


「本当に……ありがとう」


 俺は懐から残りのポーションを三本取り出し、石碑の前に静かに置いた。


 ――これは、命を繋いでくれた仲間たちへの、ささやかな礼。


 夜風が吹き、蝋燭の炎がふるりと揺れた。

 まるで彼らが「行け」と背中を押してくれているように。

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