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途絶えた火種


 奴の炎が紅から、憎悪と怨嗟を凝縮した “黒炎” へと変貌する。その瞬間、火口全体が悲鳴を上げるように震え、地表の岩盤がバキバキと音を立てて割れた。

 黒炎が吹き荒れ、まるで大気そのものが燃え尽きるような焦熱地獄が広がっていく。


「腹立たしい……ここで焼き殺してくれる」


 璃炎の声はもう獣の咆哮だ。黒炎が奴の背後で龍の姿を象り、天を裂くような咆哮を上げる。


「『死絶妖術』……」


 肌が焼ける。いや、焼けているのは肌だけではない。俺の“存在そのもの”が否応なく削られていく感覚。まるで死神に首根っこを掴まれたようだ。


(気配の質が変わった……これが璃炎の本当の姿)


 テスラ王の資料にも記されていない、三つ目の妖術。

 璃炎は“死を司る神の骸”を素材に造られた存在。その肉体に染み付いた死の権能が妖術という形で顕現しているのだ。


(名前からして即死系か……厄介だな)


 次の瞬間、視界が黒炎で埋まる。


 璃炎が空気を蹴った。

 否──空間を“死”で押し潰しながら直線的にワープしてきた。


「恐怖の中で死ねぇぇ!!」


 剛腕から漏れ出すオーラだけで、俺の全神経が「この攻撃は即死」と判断する。

 振り抜かれた黒炎の左腕が、世界をえぐり取るように迫る。


「遅いな。それじゃあ俺には届かない」


 俺はほんのわずか首を傾けただけだ。

 すぐ横で、空間が“死体”になったようにバリッと崩れ落ちて消える。


(やはり接触判定か……。触れたら即死。それに概念そのものにも死を付与できる)


 飛び退き、麗華の隣に着地する。


「宝、大丈夫?」

「問題ない。だが当たれば流石にヤバいかもな」


 返した瞬間、璃炎が再び消えた。


「逃がさん……! 確実に殺す!!」


 視認不能。

 黒炎の残光だけが空に焼き付く。


 本能で体をずらしたその刹那──


「甘いぞ!!」


 璃炎の背中から黒炎の“無数の腕”がうねり出た。

 十、二十……いや百か。全てが槍のように伸び、麗華へ殺到する。


 俺は即座に両腕に炎を纏わせ、拳で黒炎を破壊しながら突っ込んだ。


(よし、入った!)


 璃炎の目が勝利を確信したように見開かれる。だが──


「危ないとは言ったが、死ぬとは言ってねぇよ?」


 俺は無傷のまま腕を振り払う。

 直後、璃炎の妖術に“死”が訪れた。


「な、なんだこれは……!? 我の死滅が……死んだ……だと!?」


(やはりこの炎で……死絶妖術そのものを壊した)


 これが俺の二つ目の妖術。


「『破壊妖術』──相手の妖術を破壊する」


 即死も概念操作も、死そのものですら潰し切る“断絶”の力。


 璃炎だけではない。後方で見ていたリナもマルバさんも、揃って息を呑んだ。

 だが麗華は心当たりがあるように小さく頷く。


「妖術を破壊する妖術なんて……そんなもの、存在していいの!?」

「規格外……だな」


 俺は大剣に炎を込め、担ぎ上げる。


「さぁ、第2ラウンドだ」


 地面を蹴った瞬間、視界が消える。


「ぬぅ……っ!?」

(見えぬ……! 速すぎる……!)


 璃炎が叫ぶより速く、俺は黒炎の渦の中心に斬撃を叩き込んだ。


 炎を纏った斬撃が、天地を割るように火口全体を真っ二つに裂く。


「オラァッ!!」


 璃炎は慌てて両腕を交差させ、怒号を轟かせた。


[『炎行妖術』獄炎大結界インフェルノラビリンス


 巨大な朱色の神殿が出現する。

 柱の一本一本が燃える彫刻のように煌めき、結界全体が「絶対不滅」を示すように軋む。

 それは存在しない者すらも滅ぼす攻撃を防ぎうる程の絶対的防御。


 だが──


「そんなチンケな壁で、俺の炎を止められるかよ」


 大剣を振り下ろしただけで、神殿は粉々に砕け散った。

 耐久も理屈も全て無視し、力だけで“存在ごと”押し潰す。


「がァァ……!?」

(馬鹿げた……なんという……力だ……!)


 璃炎の身体が両断され爆発的に吹き飛び、火口の外壁ごと破壊して消えるように飛んだ。


 大地は裂け、火山は全壊。

 空は赤から、静かな夕暮れ色に変わってゆく。


「やっぱり……何度見ても規格外だね」

 震え混じりの麗華の声。


「ここまで、強いのか……」

「あの大結界が……真正面から……」

 マルバとリナは言葉を失っていた。


 土煙が晴れると、両断された璃炎の残骸の傍に赤い結晶が転がっている。


 俺はそれを拾い上げる。


「璃炎の戦利品か」


 完全に絶命している璃炎を見下ろし、息を吐く。


「あんなにあっさり……倒しちゃうなんて」

 胸を押さえながら麗華が歩み寄ってくる。


「まぁ、強敵ではあったな」


 崩れた火口から見える夕日が、戦いの終わりを静かに照らしていた。

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