烈火の怒号
烈火の空間に、赤く長い三つ編みが靡きながら駆け込んできた。
「レイラ! ミレちゃん!」
それは、俺が先に行かせたリナだ。
スピードが飛び抜けて速い麗華に少し遅れて、璃炎の間に到着したのだ。
視界に飛び込んだのは、胸を貫かれ血を流すレイラ、焦げた空気、そして灼熱の中心に立つ璃炎。
(レイラ、胸を貫通……一刻の猶予もないわ)
「麗華ちゃん! 少しだけ、璃炎の足止めお願い!」
「了解!」
即答した麗華がレイピアを構え直し、烈火の神へと踏み込む。
その間にリナは大気の膜で熱を遮断し、一瞬でレイラの身体を回収した。
跳ねるようなバックステップで麗華と璃炎の戦場から離脱。
(……酷い損傷。すぐ治療を始めるしかない)
火口の隅へ滑り込みながら、リナは治癒術式を展開する。
一方、麗華は烈火の神と凄絶な白兵戦を繰り広げていた。
璃炎の拳が振るうたびに空気が爆ぜ、床の黒曜石が砕け、火口全体が振動する。
「忌々しい小娘が……今度こそ焼き殺す!」
[『炎行妖術』炎上拳]
拳が振り上げられた瞬間、拳そのものが火柱となって立ち昇った。
「焼け焦げろッ!!」
烈火の左ストレート。
麗華は身を滑らせるように横へ跳躍し、完璧に躱した――はずだった。
直後、拳から小型の炎塊が射出され、鞭のように軌道を曲げて追尾してくる。
「追尾拳撃……!」
即座にレイピアで貫き、打ち落とした。
だが――。
「っ……!? うそ、まだあるッ!」
背後で炸裂音。
振り返るより早く、爆炎が直撃し麗華の身体が火口の壁ごと吹き飛ばされた。
轟音と共に壁の黒曜石が大穴を開ける。
「かはっ……熱い……!」
背中が焼けるように痛む。息がうまく吸えない。
「腹立たしい小娘……次で終わりだ」
璃炎の胸元が脈動し、紅蓮が収束していく。三本の槍が形成された。
[『炎行妖術』炎の槍]
火口全体を灼く光。
それが三方向から音速で撃ち出される。
(少しでも……ペレセポネで受ける……!)
桜の陣を展開するが――。
バキィィン――!!
「え……嘘……」
三本は陣を粉砕し、容赦なく麗華の左胸へ突き刺さった。
「あ"っ……!!」
胸を貫かれ、麗華の身体が弾けるように跳ね上がる。
火口の床がひび割れ、亀裂が広がった。
「忌々しい……桜の小娘。ここで死ね」
怒りのまま振り上げられる巨大な炎槍。
避ける余力はもうない。
(……終わった。完全に懐を取られた)
死を受け入れたその瞬間――
「麗華ちゃん!!」
遠くでリナの悲鳴。
離れられない。その判断が迷いとなり、麗華の身体は動かない。
「さあ、一思いに死ね!」
赤い光が視界を埋め――。
(……宝。ごめんね)
覚悟を固めた、その一刹那。
衝撃は――来なかった。
「……え?」
恐る恐る顔を上げる。
そこには、炎槍を大剣で受け止める男の"背中"があった。
「遅くなってすまない、麗華」
「……宝……!」
そう、その男とはこの俺だ。
声が震える。安堵と悔しさが混じる。
その後ろから、慌ててマルバが駆け込んでくる。
「鬼哭団の皆さん、援護に参りました!」
真面目な声だが眉は青ざめている。
「鬼燈 宝……! 我が妖域で暴れ回っていたのは貴様か!! 腹立たしい!!」
璃炎の力が更に膨れ上がり、火口全体が赤く染まる。
だが――。
「その程度の圧で威張るな」
俺は大剣に力を込める。
次の瞬間、衝撃波が轟破し、璃炎の巨体が火口の壁ごと吹き飛んだ。
「ぐぉおっ!!」
璃炎が槍を地面に突き立て、なんとか停止する。
だが止まったその眼前には――
[『煉獄妖術』 地獄の雨]
無数の地獄の炎塊が浮かび、俺の後方から形成されていた。
一斉に射出されるそれは、まるでゲリラ豪雨のように璃炎の全身に襲いかかる。
「な……なんだこれは!?」
回避のため身を捻るが遅い。
次の瞬間、爆裂が弾け、璃炎の右腕が吹き飛んだ。
「があああ――!!」
怒りの神の悲鳴が火口に響く。
「俺の仲間をこんな姿にした。その報いだ」
宝の目が静かに、しかし底知れぬ怒気を宿す。
熱気より冷たい殺意が、璃炎へ向けて突き刺さる。
「……さぁ、覚悟しろ。お前には“地獄”を見せる」
火口が再び震動する。
紅蓮と殺気が激突し、空間そのものが悲鳴をあげた――。




