春桜閃光
胸の中心を貫かれたレイラさんが、糸の切れた人形のようにうつ伏せへ崩れ落ちた。
氷の世界を粉砕し、その中心を突き破ってきた璃炎の左腕は、まだ彼女の体内でじりじりと灼熱を放つ。床の氷は一瞬で蒸発し、白い蒸気が噴き上がった。
「腹立たしい女だった……だが、それも終わりだ」
焦げつくような声とともに、璃炎の足が烈火のように赤々と燃え上がる。
振り上げられた足の熱で空気が悲鳴を上げ、火口の岩盤がぐらりと揺れた。
次の瞬間、レイラさんの頭部は炎と爆圧で粉砕されるはずだった――。
しかし、爆炎の中で桃色の花びらがふわりと舞い落ちた。
[『桜燐妖術』春の営み]
桜の陣が瞬時に展開し、炎神の足を絡め取る。
灼熱の炎は触れた端から花弁へと変換され、火口の地面に淡い桜の雨が降り注いだ。
「させないよ!!」
炎の裂け目を滑るように飛び込んだのは麗華。腰まで伸びる茶髪が爆風になびき、次の瞬間二刀のレイピアが稲妻のように閃いた。
[『桜燐妖術』花吹雪]
花の竜巻を伴う斬撃が噴出し、火口全体が桜と衝撃波で暴れ狂う。
床の岩盤が格子状に割れ、柱のように見えていた溶岩の塊が一瞬で崩れ落ちる。
巻き込まれた璃炎の下半身は何百もの斬撃に刻まれ、たまらず後方へ吹き飛んだ。
着地の衝撃で火口が大きく陥没し、熱風が押し寄せる。
「桜の小娘、この女魔道士の仲間か!」
怒りに燃える赤い双眸。その怒号だけで周囲の岩壁が震え、溶岩の滴が雨のように降る。
「そうだよ。だから、あなたには退場してもらう!」
麗華は怯まずに構え、足元の花弁を巻き上げて一気に加速した。
[『桜燐妖術』桜太刀]
光の矢のような突進と共に、巨大な桜の太刀が生成され、その刺突が火口を貫く勢いで放たれた。
璃炎は咄嗟に腕を差し込むも、押し込まれる形で火口の床を深く削りながら後退する。
「腹立たしい……!」
怒気と共に璃炎の片腕が膨張し、巨岩のように肥大化した。
麗華は太刀ごとそのまま掴み上げられ――
「なっ、うそっ!」
次の瞬間、地面へ叩きつけられた。火口全体が雷鳴のような衝撃音で揺れ、巨大な亀裂が中心から走っていく。
「がはっ!」
肺の空気が全て押し出され、麗華の背中から血が飛び散る。
(まずい……肋骨が……!)
それでも麗華は根性で後方へ跳躍。璃炎は逃がすまいと腕を広げ、周囲に無数の炎塊を召喚した。
[『炎行妖術』燃焼塊]
「燃え尽きろ!! 小娘!!」
全方向から迫る炎塊が火口の地形をえぐり、空気を裂きながら追尾してくる。
軌道は複雑で高速。避けるたびに岩壁が爆ぜ、火花と溶岩が雨のように降り注ぐ。
「速い……そんな上に避けにくいって……!」
麗華は折れた肋骨をかばいながらも、追尾をすべて振り切り、逆に懐へ踏み込む。
「お返しだよ!」
[『桜燐妖術』花吹雪]
花嵐が火口の中心で爆発し、視界が桜一色に染まる。
だが――璃炎は真正面から拳の連打で突破してきた。
[『炎行妖術』発火拳]
「小癪なァッ!!」
炎拳の乱打が桜の嵐を破壊し、空間が炸裂する。
火と花の爆風が衝突し、周囲の岩壁が崩落していく。
「っ……! なら!」
麗華は拳の隙間へ滑り込み、美しい桜光を迸らせた。
[『桜燐妖術』春の一閃]
閃光が火口を切り裂き、璃炎の胸元を袈裟懸けに断ち割る。
神の身体が大きく弾かれ、裂けた火口の壁へ叩きつけられた。
地響きが鳴り、火口の天井から溶岩石の塊が雨のように落ちる。
(ここで決める!)
麗華は妖力を胸に集中させ、最大の花嵐を放つ。
[『桜燐妖術』花吹雪]
暴風のような桜の大嵐が璃炎を包み、壁ごと飲み込む。
あまりの圧力に火口の床が抜け、溶岩が下から噴き上がる。
「……終わった?」
そう思われた一瞬――。
「身の程を知れェェ!! 小娘があああッ!!」
激怒の咆哮が花嵐を吹き飛ばし、火口全体の空気を焼き払った。
怒りの神を包む炎圧は以前の数倍。周囲の岩が熱だけで溶け落ちていく。
「ひっ……! なに、この圧……!」
麗華の膝が思わず震える。
(まずい……。本気で……怒らせた……)
「小娘。貴様から先に焼き殺す……!」
火口を揺らす声。
その瞬間、麗華は理解した。
――いま自分は、本物の“怒りの神”を前にしているのだと。




