士気の咆哮
夜の帳が下り、灯りが街を温かく包む頃、俺たちはマジュリアの関所前に集結していた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、風の音すら遠くで消える。
そこに立つのは、二十人の歴戦の冒険者たち。
男女の比率は半々、年齢は二十代から三十代前半ほど。
誰もがマジュリアで名を上げた実力者だ。
その先頭には、軍服に身を包み、背筋を真っ直ぐに伸ばすマルバ中将の姿があった。
整えられた髪、磨かれた軍靴、そして一点の曇りもない眼差し。
その佇まいだけで、全員の心を引き締める力があった。
「みんな……すごい覇気だね……」
ミレが少し緊張した声を漏らす。
「そりゃそうだ。全員がこの国の最前線を守る妖術師たちだからな」
俺がそう返すと、麗華が軽やかに笑った。
「ふふっ。でもマルバ中将が前に立つだけで、空気がピンとするね。あの人、言葉じゃなくて背中で導くタイプだよ」
「……確かにな」
その姿を見て、俺も思わず背筋を正した。
規律と信念で固めたような男――それがマルバだ。
「リナさんはどこ?」
ミレが周囲を見回すと、俺は顎で前方を示した。
「あそこ、最前列。マルバ中将と並んでる。挨拶をするみたいだ」
「挨拶? リナさんが?」
その時、マルバ中将が静かに手を叩き、隊全体の注意を集めた。
「出発前に、工業区代表のリナ殿より激励の言葉をいただく」
隊列の視線が一斉にリナへ向く。
彼女は一歩前へ進み、真っ直ぐに仲間たちを見渡した。
「本日は璃炎討伐作戦にご参加いただき、ありがとうございます」
その声は澄み渡り、夜気を震わせるように響いた。
「璃炎は怒りの象徴。その力は凄まじく、決して侮れません。しかし――皆さんと共にあるなら、私は恐れません。
共に、怒りの神格《璃炎》を打倒しましょう!」
その言葉を合図に、隊全体が雄叫びを上げる。
「ウオオオオオオオオオ!!!」
地が震えるほどの咆哮。
その熱気の中心にいるマルバ中将は、ただ一歩も動かず、全員の激情を静かに受け止めていた。
やがて、彼は短く一言だけ放つ。
「――行くぞ」
その言葉に迷いはなく、全員が自然と歩みを揃えた。
ブーツが地を踏み鳴らし、マジュリアの関所を越えて“怒りの岩肌”へ向かう。
火山地帯特有の硫黄の匂いが漂い、空気がじわりと熱を帯び始める。
レイラが額の汗を拭いながら呟いた。
「暑くなってきましたね……」
「ここは活火山だ。妖気と地熱が混ざり合っている。気を抜くな」
マルバ中将の低く通る声が響く。
その一言で、全員の意識が再び一点に集束した。
「……うぅ、暑いの苦手なのに……」
ミレが肩を落とすと、麗華が笑って背中を軽く叩く。
「大丈夫だよミレ。ほら、汗かくってことは生きてる証拠!」
「そ、そんな慰め方ある……?」
その和やかな空気を裂くように、マルバ中将が右手を上げた。
「全員、停止」
その声に即座に隊列が止まり、静寂が戻る。
「どうしました、中将?」
前列の女性冒険者が尋ねる。
マルバは目を細め、前方を鋭く見据えた。
「……妖気を感知。距離八十。二十体前後だ」
冒険者たちは一斉に武器を構える。だが、マルバは短く制した。
「待て。ここで戦えば妖力を消耗する。怒りの岩肌の内部には、さらに強大な妖が潜んでいる」
「でも、見逃せません!」と斧使いの若者が声を荒げる。
マルバは振り返らず、静かに言葉を返した。
「――見逃すわけではない。必要以上に力を使うなと言っている」
その声音には威圧も怒気もなく、ただ揺るぎない信念があった。
若者は息を呑み、無言で頷いた。
マルバ中将が懐からリボルバーライフルを抜く。
構えは無駄がなく、まるで軍人の礼式のように美しい。
「排除する」
引き金を引く。閃光が走り、轟音が夜を裂く。
「……さぁ……打っ放すぜ?」
低く小さく響いた声、それは獰猛に夜の空気を掴んでいた。
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