ホップタウン
風妖精の森林を抜けた時、日は沈みかかっていた
空が綺麗な茜色に染まり、草原の地平線に夕日が沈んでいく
ミレ「凄いスピードにゃ……」
宝『こっちの方向で合ってるか?』
ミレ「合ってるにゃ!、この感じなら夜になるまでに着くにゃよ」
俺は夕日に照らされる草原を全速力で走り抜けて、日が完全に落ちるまでにホップタウンの関所にたどり着くことが出来た
――ホップタウン・検問――
日が完全に沈み、当たりを暗闇が包み始めていた頃、俺たちは木造の小屋のような場所に到着した
ミレ「ここがホップタウンの検問にゃ」
ミレが検問と呼ぶその建物は、木で造られたログハウスのような形状で、中に国王軍の兵士が待ち構えて居る
そこに向かうように大きなカバンを背負ったいかにも商人といった人々が行列を作っていた
宝『ここで通行証を見せる感じか?』
ミレ「通行証と入国料を払えば入れるにゃ」
そう言うミレの声は、少し怯えに似たような声色を孕んでいた
宝『怯えてるようだが、どうしたんだ?』
ミレ「……!な、なんでもないのにゃ」
俺の呼び掛けに弾かれたように反応したミレは、僅かに焦るようにそう返す
この反応を見れば、様々な異世界を渡り歩いてきた俺からすれば、その事情を察するのは容易な事だった
宝『理解した、皆まで言わなくていいぞ』
ミレ「にゃ、?」
衛兵「次の者、前へ出ろ」
その時、検問の衛兵から俺たちに声が掛かる
宝『検問の手続きは俺がするから、ミレは俺の背中で休んでいればいい』
ミレ「何から何まで、ありがとうなのにゃ、」
俺は衛兵の指示に従い、衛兵の前に歩を進める
衛兵「通行証と入国料を」
近くの看板には、一律500銭と書かれている
通行証はこの世界に来た時からジャケットの胸ポケットに入っていた
宝『これでいいか?』
俺はミレから受け取っていた通行証と1000銭と共に俺の通行証を衛兵に渡した
衛兵はじっくりと通行証を見定めるように凝視し、俺に渡してきた
衛兵「通ってよし、次の者、前へ」
宝『感謝する』
衛兵がこの感じだ、恐らくこの国は獣人に対しても寛容なんだろう
ミレ「大丈夫だったのにゃ?」
宝『あぁ、この国はいい国だな』
俺はホップタウンの検問をくぐり、ホップタウンに足を踏み入れた
文明開化の始まりたてと言ったような雰囲気の、和風な雰囲気が残る庶民の街と言った印象だ
ミレ「そろそろ大丈夫にゃ、自分で歩けるのにゃ」
宝『そうか』
ミレは俺の背中から降りて、隣に並び立つ
こうしていると誰かの隣に立っていると、幼馴染の麗華の事を思い出した
ミレ「どうしたのにゃ?、何か考え事にゃ?」
宝『ん?、あぁ…少しな』
ミレが聞きたそうな表情で俺の目を見てくる
宝『一緒にこの世界に飛ばされてきた幼馴染のことが気になるんだ』
ミレ「一緒に飛ばされてきた幼馴染にゃ?」
その話を聞いたミレは懐から僅かに荒さが目立つ写真付きの紙を取り出す
ミレ「最近、この街の周辺に異世界の者が飛ばされて来たって噂で冒険者の話題はもちきりにゃ」
ミレ「もしかしたら、あなたの幼馴染の事かもしれないのにゃ」
そこには、腰まで伸ばした特徴的な茶髪をなびかせながら歩く女子高生の姿が写っていた
宝『多分、俺の幼馴染だ』
ミレ「やっぱりにゃ?、うぅ……」
ミレが脇腹を抑えて僅かにうめく、その周辺には血が滲んでいた
宝『すまん、情報集めの前にまずは回復だな』
俺は周辺を見渡し、病院や回復アイテムの店らしきものを探す
俺や麗華みたいな異能力者ならオーラを使って身体の欠損や傷を再生できるが、ミレからは異能力オーラは感じない
宝(恐らくミレはまだ異能力者じゃない)
宝(つまりは治療が必要だ)
視界の端に、特徴的な形の瓶が描かれた看板が掲げられている店が映る
宝『道具屋はあれか』
ミレ「そうにゃ」
俺はミレの手を引きながら噴水広場の方向に建っていた道具屋に入る
――アイテムショップ――
入ってみた道具屋の内装は、木を基調とした雑貨屋のような雰囲気だった
店の隅には特徴的な宝石や龍の頭を象ったような頭巾が置かれていた
宝『ここが道具屋、』
ベイド「ベイドの道具屋にいらっしゃい、いい品が揃ってるよ」
店の奥から、いかにも気のいいスキンヘッドのおっさんといった風格の店主が姿を現す
俺はカウンター近くに置かれているピンク色の液体が入った便三つを店主の前に置いた
宝『これを貰えるか?』
ベイド「回復のポージョン3本、450Gだ」
懐の皮袋から450Gを出して店主に渡す
店主「あいよ、まいどあり」
俺は店主から三本のポーションを受け取って、道具屋を後にした
――噴水広場――
ミレ「本当に良いのにゃ?」
宝『あぁ、手伝う前に死なれては困るからな』
俺はミレに回復ポーションを渡しながら噴水の縁にふたりで座る
ミレ「命を救って貰ってポーションまで、申し訳ないのにゃ」
宝『その分手伝ってくれれば良い、それに仲間は絶対に死なせたくないんだ』
ミレは少し頬を赤らめながら、回復のポーションを飲み切った
脇腹の傷が塞がったミレがホップタウンの地図を俺に見せるようにして広げる
ミレ「それで、これからどうするのにゃ?」
宝『まずは冒険者ギルドに行く、そこならさらに情報があるはずだ』
その時、空腹を伝えるように俺とミレの腹が鳴る
ミレ「は……恥ずかしいのにゃ///」
宝『そういえば夕飯前に飛ばされてきてから何も食ってなかったな』
俺はミレの手を取りながら噴水から立ち上がる
宝『まずは腹ごしらえだな』
酒場に向かおうとした俺の手をミレが引き止める
宝『どうした?』
そして、伏し目がちにこう言ってきた
ミレ「夕飯代は私に出させて欲しいのにゃ」
ミレ「命を救ってくれたのと、回復ポーションのお礼にちょっとは役に立ちたいのにゃ」
宝『良いのか?』
ミレがこくりと頷く
宝『それじゃあ、ご馳走になろう』
それを聞いたミレの顔がぱぁっと明るくなる
ミレ「それなら、おすすめのお店があるのにゃ!着いてきて欲しいのにゃ!」
ミレはしっぽを振りながら俺の手を引き、暖かそうな雰囲気の屋台のような場所に導く
その店からは肉を焼くような美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる
宝『美味しそうな匂いだな』
ミレ「冒険者の間で人気な、定食屋にゃ」
ミレが楽しげに瞳を輝かせながら俺の手を引き、暖簾をくぐった