科学部隊
翌朝、チェックアウトを済ませた俺たちはホテルを後にし、再び王城へと向かっていた。
「またお城に行くのにゃ?」
「あぁ、マルバ中将から科学部隊の見学に来ないかと招待されたんだ」
マジュリア王国騎士団・科学部隊。ドイツの蒸気機関を応用した機械兵を中心に構成されるサイボーグ軍団。
この世界で最高峰の武力を誇ると評され、進撃する姿はまさに“鋼の死神”。その名の通り、見る者に圧倒的な威圧感を与えるという。
馬骨の馬車に揺られながら、俺たちは妖馬の蹄の音を聞きつつ、科学の城を目指す。
「サイボーグの軍隊か〜出会うのが楽しみ!」
「科学国家とまで言われるマジュリアの技術の最高峰……興味深いですね」
麗華は目を輝かせ、巨大な金属の巨体を想像する。隣のリナは、サイボーグに関する妖怪の情報を調べ上げていた。
「恐らく、鉄鼠と呼ばれる妖怪が利用されてるわね」
「鉄鼠? ネズミの妖怪か?」
俺の問いに、リナは灰色の鋼のような光沢を放つネズミの写真を見せてくる。
姿かたちは普通のネズミだが、その毛並みは異様なほど重厚で光沢を帯び、普通の生物ではないことを訴えていた。
「鉄鼠は中妖に分類されるネズミ型の妖怪です。鋼のように鋭い毛並みで、剣や槍などの攻撃を弾き返すことができる」
「工業地帯の水を長年飲み続けたネズミが妖怪化した……という説もあるわ」
麗華の目が輝く。
“あらゆる武器の攻撃を弾くネズミ”――その可能性に心を弾ませていた。
「あくまで素材に使われているだけでしょうけど、実物を見られるかは分かりません」
リナの返答に、麗華は少し肩を落としたが、興味は衰えない様子だ。
馬車は王宮前で止まる。
「到着したみたいだな」
「五大帝国の一角を担う国が誇る技術……どんなものなのか、見る前から胸が高鳴ります」
普段は冷静なレイラさんも、頬をわずかに赤らめ、声を弾ませている。
馬車を降りると、正門前に軍服の男性が一人立っていた。
「本日はお越しいただき、感謝申し上げます」
レイラさんが落ち着いた声で左手を差し出すと、男性は握手を返す。
「歓迎します、鬼哭団御一行」
「さぁ、こちらへどうぞ」
案内された先には、城門横の訓練場。太陽の光を反射する砂地のグラウンドに、整然とした空気が漂う。
中央に立つのは、堂々たる風格のマルバ中将だ。
「よくお越しくださいました、鬼哭団御一行」
「こちらこそ、お招きいただき感謝します」
敬礼を交わし、俺たちは訓練場の一角へと案内される。
壁に空いた四つの穴――そこから現れるのだろうサイボーグたちに、麗華の目がキラリと光る。
「早速お見せします。我が国の技術の結晶です」
中将がハンドサインで指示を出す。トンネルの奥から機械特有の駆動音が響き渡る。
「来たか……本当にサイボーグみたいだな」
「きゃー! どんなのが出てくるんだろ! 楽しみすぎて待てない!」
テンションを上げる麗華を横目に、トンネルから巨大な機械兵が次々と姿を現す。
有に三メートルに届く巨体。鋼鉄の装甲が光り、両腕には赤熱化した刃とガトリング砲。背中には核弾頭を思わせる二連ミサイル砲。
「こちらが軍式鉄鼠戦闘機銃・甲です」
「鉄鼠の鋼の装甲に、妖怪・鎌鼬の力を練り込み、赤熱の刃とガトリング砲の弾丸には銀河を崩壊させる力を付与しています」
中将の言う“銀河”とは、無限を内包し、自在に定義を変えられる世界のこと。ラグナドールの小規模妖域も同じ性質を持つ。
「一国の小隊が持つ力じゃないな」
「凄すぎるのにゃ……」
その破壊力に、ミレは恐怖すら覚えた。
麗華は目を輝かせ、リナとレイラも四方八方から観察を続ける。
「装甲の関節も補強している……宇宙の崩壊にすら耐えられそう」
「上妖レベルの力を持たせております。強力な妖怪も相手になりますので」
一台でも国の安寧を保証する性能。周辺諸国からすれば、まさに存亡の危機級だ。
続いて中将は、ゴマ一粒を用意する。
サイボーグのガトリング砲で撃ち抜く実演――瞬きする間もなく、連射される弾丸はすべてゴマを貫く。
「精密……凄まじい」
「連射で、ど真ん中を撃ち抜くなんて……」
左手の刃、背中のミサイルも披露され、精密かつ力強い攻撃が視覚で理解できる。
時間はあっという間に過ぎ、太陽は真上に。
「今日はありがとうございました。大変有意義でした」
「鬼哭団の皆様に我が国の技術をお見せでき光栄です」
固く握手を交わし、マルバ中将の誓いの言葉を受ける。
「璃炎討伐、我々も最大限支援します。共に戦いましょう」
「あぁ、もちろんだ」
こうして訓練場を後にし、俺たちは再び馬車で帰路に就く。
「凄い技術力だったね、宝」
「あぁ、味方してくれれば戦いも楽になるだろうな」
しかし、あのサイボーグ軍団が、後に壊滅的被害を受ける未来があることなど、この時の俺たちは知る由もなかった。




