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バイキング

 荷物を軽く片付けた俺たちは、バイキングが待っている一階の食堂に向かった。

 ミレには猫耳と猫のしっぽが隠れるようにサイズがジャストなローブを着せている。


「これで大丈夫にゃ?」

「あぁ、耳やしっぽさえ見えなければ問題ないと思う」


 食堂は余裕で100人以上入れることが出来るであろうほどに広く、全てのテーブルの上を華やかなシャンデリアが照らしていた。

 白銀の光を反射するグラスと皿の群れ、花瓶に飾られた見た事のない金色の菊が空気に彩を添える。


「あれって確か……ハグルマギクだよね」

「ハグルマギク?」


 聞いた事のない名前に、俺は思わず聞き返す。


「うん、柱頭が歯車みたいな形をしてるからそう呼ばれてるみたい」

「花言葉は"品質安定"。工業地帯ではもの作りの神からの贈り物と言われていて縁起のいい花なんです」


 麗華とリナの説明を受け、俺はまじまじとハグルマギクを見つめる。

 黄金の花弁が工業都市の明滅する光に溶け合い、まるで文明そのものを祝福しているように咲き誇っていた。


「いい花だな」


「……あの、宝様」

 その時、レイラさんが少し困った様子で声を上げる。


「どうしたんだ?」

「ミレちゃんが見当たらないのですが……」


 そういえばミレの声がしないと思い周りを見渡す。

 すると、ミレは既に俺たちの分の席を確保していた。


「主様! 席確保しておいたのにゃ!」


 どうやら周りの客の背の高さに埋もれて見えなかったようだ。


「ナイスだよ! ミレちゃん!」


 全員でミレが確保した席に移動する。


「それにしても、こんな人混みの中よく見つけられましたね」

「猫だから目がいいのにゃ!」


 ミレは瞳をキラキラと輝かせている。

 その愛らしさに、俺は思わず頭を撫でる。


「よくやったミレ。上出来だ」


 嬉しそうな表情でこちらを見上げてくるミレ。保護欲のようなものが込み上げるのを感じた。


「ミレちゃんが席を確保してくれたし、料理を取りに行こうよ」

 麗華が「すぐにでも料理を食べたい!」と言わんばかりに目を輝かせる。


「そうね、城下町の料理なんていつ以来かしら」

 リナの声も僅かに華やぐ。


 バイキングと言っても、自分で料理を選ぶのは俺たちのいた世界と一緒だが――違う点がひとつあった。


「?……バイキングと聞いたが料理が無いぞ?」


 そう、テーブルらしき場所を見ても料理は並んでおらず、鎮座していたのは自販機のような形状の機械だった。

 すると、リナが俺に見せるように謎の機械を操作する。


「マジュリアでのバイキングは、ここから食べたいものを注文するんです」


 リナが「ケリヤ」と表記されているボタンを押す。


 すると、取り出し口からじゃがいものぶつ切りと紫色のステーキが盛り付けられた皿が出てきた。


「頼んだ料理がここから出てくる、これがマジュリアでのバイキングのしくみです」


「なるほどな、理解した」


 俺は「シュニッツェル」と書かれたボタンを押す。すると、受け取り口から仔牛の肉を揚げた料理が現れた。


「シュニッツェル……たしかドイツの肉料理だね」

 俺が持つトレーを覗き込んだ麗華が、横からひょっこり顔を出す。


 彼女によると、シュニッツェルは仔牛の肉を叩いて平べたくし、パン粉を絡めて揚げた料理らしい。


「仔牛か、食べたことないな。どんな味か楽しみだ」


 セットで付いてきたウスターソースとジャーマンポテトも受け取り、料理を持って机に戻る。


 仔牛の肉をひと口頬張ると、淡白で柔らかな旨味が舌に広がった。

 薄衣のサクサクとした歯触りと、軽く香る油の芳醇な香り。

 瞬間、思わず目を細める。


「美味いな……ドイツにはこんな料理があるのか」


 あまりの美味さに、俺はあっという間にシュニッツェルを完食してしまった。


「あの、ドイツとは……」

 不思議そうな顔でリナが尋ねる。


 このラグナドールにドイツという国は存在しない。無理もないか。


「俺たちが居た世界にあった国だ。このマジュリアにそっくりな国だったぞ」

「マジュリアにそっくり……ですか?」


 首を傾げるリナたちに、俺は続ける。


「あぁ、蒸気機関が盛んで、丁度こんな感じの料理が出ていた」

「さすがに自動ドアとか電磁管とかは無いけどね?」


 リナたちは興味深そうに頷きながら聞き入っている。


「宝様と麗華ちゃんが暮らしていた世界に存在する国……興味が湧いてきました」


「俺たちの世界に行くために、酒呑童子ってやつに勝たないといけないみたいだけどな」


「主様が暮らしてた世界……私気になるにゃ」

「それなら、私達も全力で力を貸すしかありませんね。宝様と麗華様の世界……とても興味深いですから」


 リナに続き、レイラさんとミレも決意に満ちた瞳で俺と麗華を見つめる。


「それじゃあ、まずは璃炎を倒さないとね」

「えぇ、この兒堂 リナ。元素の科学者として、全ての知識を捧げることを誓います」


 リナが胸に手を当てる。

 程なくして、麗華たちも全員が料理を完食した。


「美味しかった〜♪」

「初めて食べたけど、凄い美味しかったにゃ!」


 麗華とミレも満足げな声を上げる。


「あ、もう提灯の刻ですね」


 提灯の刻とはラグナドールで使われる時刻であり、人間界での午後九時から十一時にあたる。


「もうそんな時間? 早くお風呂入っちゃう?」

「明日も早くなりそうですし、それが良いでしょうね」


 麗華とリナは腰元のポーチからタオルと寝間着を取り出す。


「格納型のポーチか?」

「ちゃんと宝の分もあるよ、はい」


 俺は麗華から手渡された着替えとタオルを受け取った。


「ありがとうな」


「鍵は共有ポーチに入れておくので、先に出た人が取り出して使ってくださいね」

「了解ですにゃ!」


 レイラさんとミレも着替えを取りだし、女湯へと歩いて行った。


「この世界の大浴場、ホップタウンのは入った事があるが、マジュリアは初めてだな……ん?」


 麗華たちと別れて大浴場に向かうが、俺は浴場の方から妖気を感じ取った。


「風呂場から妖気……妖怪が入浴してるのか?」


 この世界では妖怪でも普通に風呂を使用する。

 警戒しつつ、俺は男湯に足を踏み入れた。

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