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城下町

 マジュリア国の国王・テスラ一世から、マジュリアを裏から支配する神格・璃炎の情報を受けた俺たちは王城を後にし、城下町の宿屋に向かっていた。


 マジュリアの城下町はさすが科学国家と言うだけあり、テレビにラジオ……電磁管による充電式電灯まで存在していた。街を照らす光は夕闇を押し返すように強く、しかしどこか温かい。その光の下で行き交う人々の姿は活気に満ち、まるで未来都市を思わせる。


「にしても、すごい技術力にゃ……マジュリア」

 あまりの技術力に、先程まで見覚えの無い景色に怯えていたミレも、感嘆の声を漏らす。小柄な彼女の瞳は、まるで宝石のように光を反射していた。


「あぁ、明治あたりの文明の筈だが電磁管にテレビまであるからな」


 現代の東京と比べたらまだまだだが、それでも明治時代頃と考えれば破格の文明力を持っている。レンガ造りの家々と、ネオンのように輝く電磁灯。その融合はどこか幻想的で、俺たちの世界には決して存在しない「異なる歴史の道」を感じさせた。


「前に一度、城下町にショッピングに来たことがあるんだけどね? テレビだけじゃなくてゲーム機とかもあったの! それもDSくらいの性能だったよ!」


「まじか……破格の文明力と聞いていたが、それ程までに進んでたんだな。」


 笑顔で話す麗華の姿は街の光に照らされ、黒髪の艶やかな流れが夜風に揺れる。その立ち姿は凛としていて、戦場では鋭利な刃のように鋭く、しかし日常の中では誰よりも眩しい。彼女の存在が一行の中心にあることを、誰もが自然に理解していた。


 電磁灯が照らす街中を進んでいると、突然馬車を引いていた馬骨が止まった。


「どうしたのにゃ?」


 不思議そうに首を傾げるミレにリナが教える。


「馬車は大きい分、市街地では危ない為使用が一部区間で禁止されているの。」


 どうやら馬車で移動できるのはここまでらしい。


「本日はテスラ王の勅命に応じて頂き、誠に感謝いたします」


 馬骨の手網を握りながら、御者が深々とこちらに頭を下げる。


「こちらこそ、とても素晴らしい情報を頂けたことに感謝します」


 御礼の言葉を言いながら、麗華が御者に向けて頭を下げる。その所作は優雅で、指先の動きにまで気品が宿っていた。剣を握る時と同じく、彼女は一切の無駄を許さない。


 御者が縄を波打たせ、馬骨を操縦し去っていった。


 太陽は沈み、電磁管が城下町を明るく照らしている。あちこちで電子看板が点灯し、客を引き寄せようとその光を放っている。まるで夜の大地に星が降りたような光景だった。


「今日はここに泊まるにゃ?」

「えぇ、工業区から王城はかなり離れてるから、帰ってる途中で深夜になってしまうのよね」


 城下町を歩くこと10分程度。俺たちが辿り着いたのは少しこぢんまりとした雰囲気のクラシック風の宿屋。


「やはり……ホップタウンとはかなり違うな」

「あっちは木で出来た感じだったのにゃ」


 木造西洋風の扉を開き、俺たちはホテルの中に足を踏み入れる。


――――ホテル・ペラリカ――――


 ホテルに入り最初に出迎えたのは、赤色の長く立派なカーペット。そして天井から垂れ下がるオシャレなシャンデリアだった。煌めく光が仲間たちを包み込み、それぞれの美しさを際立たせる。


「なんか、すごいクラシックな雰囲気だね」

「あぁ、初めて泊まる雰囲気の宿だな」


 普段は剣を振るうリナでさえ、目を輝かせながら内装を見回していた。その横顔は柔らかく、戦場で見せる冷たい刃の表情とは違う。


「麗華さん、来るの初めてにゃ?」

「うん、殆ど工業地帯で寝泊まりしてたからね」


「それじゃあ、早速チェックインするか」


 俺は全員分の冒険者証明書と妖術師免許(これは麗華、リナ、レイラだけが持っていたもの)を受け取り、麗華と共にホテルの受付に向かった。


「五人ですか……空いているお部屋が一部屋しかありませんが大丈夫でしょうか?」

「あぁ……大丈夫だよな? 麗華」


 麗華やミレたちも年頃の女子だ、もしかしたら男と一緒の部屋は気まずいかもしれないと思い、一度確認は取っておく。


「うん! のーまんたいだよ!」


 俺の心配は無用だったようで、麗華はウインクしながらグッジョブを返してきた。光を受けてウインクする仕草は、悪戯っぽくもどこか華やかで、胸が高鳴る。


「ということなので、その部屋でお願いします」


「畏まりました……では、こちらがお部屋の鍵となっております」


 渡された鍵に着いていたプラスチックのプレートには"306号室"の文字が書いてある。


「想定はしていたけど、城下町ではプラスチックも普及しているのね……」


 興味深い表情でプレートを見るレイラ。普段は冷静沈着な彼女の表情に小さな驚きが浮かんでいる。鋭い魔術師であると同時に、こうした未知への好奇心を失わない姿は、人間らしい温かみを感じさせた。


(まぁ、俺たちの世界の当初のドイツもこんなものがあったかは分からんがな)


 多分無かったはず……。そんな事を思いながら、俺は麗華たちの後ろを着いていくように階段を上る。


 ホテルは全体が吹き抜け構造になっており、月明かりが全フロアを優しく照らしていた。全ての階に一定間隔でシャンデリアやロウソクスタンドも設置されており、かなり豪華な造りだ。


「なんだか、外から見た感じだと少し控えめそうに見えたが……内装はそこそこ豪奢だな」

「まぁ……城下町だからね」


 外見からは想像もできない内装に驚きを隠せないでいると、306号室に到着した。


「306号室……ここだな」

「客室も豪華なのかな〜、すっごい楽しみ!」


 麗華が目を輝かせながら鍵を回し、客室の扉を開ける。そして、我先にと真っ先に入っていった。


「……! す、すごい!」


 部屋に入るなり、麗華が感動の声を上げる。


 部屋の広さはホップタウンの旅館とそこまで大差はないが、内装はロウソクやシャンデリア……さらには床に敷かれたカーペットで豪華な仕上がり。


 テーブルにはボウル状のバスケットが置かれ、リンゴにオレンジ、ラ・フランスと瑞々しいフルーツが詰め合わせられている。


「すごい……! こんなの初めて見る」

「マジュリアのホテル、凄いきらきらしてるのにゃ」


 廊下や大広間と遜色ないほどの華やかな造りに、二人が感動の声を漏らしながら部屋のあちこちを堪能する。その無邪気な仕草に場の空気が柔らぎ、緊張感がほどけていく。


 一方で、リナとレイラは五人分の荷物を仕分けていた。戦場での冷徹な判断力を持つ彼女たちが、今は日常の些細な作業をこなす。その姿もまた、戦いの裏にある人間味を感じさせて美しかった。


「まだ何も食べてなかったし、早速夕飯だな」


「科学国家の晩御飯……どんなのが出てくるんだろう」

「なんだか、わくわくするのにゃ」


 見たことない土地での美味しいグルメを想像した二人がごくりと唾を飲む。


「確か、一階にバイキングがありましたよね」

「だな、多分入場可能な時間帯になってるだろうし……行ってみるか」


 やったー! と、麗華とミレの嬉しそうな声が部屋の中で木霊する。光に弾むような笑い声が、戦いの日々を忘れさせるほどに爽やかに響いた。


 この時、実は俺もこの国の料理がどのようなものか気になっていたのはここだけの内緒だ。

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