森の主
さらに森の奥に進んだ俺は、流れてくる殺気が今までとは比べ物にならないと感じる
宝『いよいよお出ましだな、この森の主の』
殺気の元に近づいていく度に、森は薄暗さと血の匂いを増していく
そして、周囲には主に食い荒らされたであろう魔物の亡骸が大量に転がっていた
宝『こんなことを出来る主か、出会うのが楽しみだ』
魔力により最大限に巨大化した植物を抜けると、少し広い空洞にたどり着いた時、それは居た
その巨軀は優に3メートルはあり、背中からは巨大な岩の塊が突き出している
口元には獰猛な牙を生え揃わせ、森へ入ってきた冒険者たちに鋭い爪を向けていた
その周辺には数人の冒険者が熊に引き裂かれて転がっている
ミレ「や……やばいにゃ」
その中に1人、生きている冒険者が居た
岩熊「グルルォォォォ!!!」
岩熊が生き残りの冒険者にその豪腕を振り下ろす
俺は咄嗟に生き残りの冒険者を姫抱きにして岩熊の豪腕から救い出した
宝『安心しろ、見殺しにはしない』
ミレ「にゃ……!」
標的を失った剛腕は地面を抉り、森の地面を一撃の元に叩き割る
宝『なるほど、風精長以上はあるな』
岩熊「グルォォォォ!」
熊は獲物を取られたことに激昂し、叩き割った地盤をその剛腕で投げつけてきた
宝『だが、俺相手にその程度はあまりにお粗末だ』
俺は飛んできた地盤を指先で軽くキャッチする
岩熊「ガゥ!?」
ミレ「にゃ!?」
ミレ(なんてパワーなの)
投げつけた地盤の塊を軽く止められた岩熊は驚きの吠え声を上げる
宝『この程度、俺の世界では常識だったぞ』
俺は飛ばされてきた地面の塊を岩熊目掛けて全力投球で投げ飛ばした
岩熊「ガゥゥ!」
それが見事な程に熊の頭に直撃し、岩熊は木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ
俺は岩熊を吹き飛ばした隙に俺は助け出した冒険者のダメージを見る
ミレ「凄まじいパワーにゃ……うっ……」
助け出した冒険者は白髪のロングヘアに綺麗な紫色の瞳を持った猫の獣人の少女だった
クマの爪が牙で裂かれたであろう傷が太ももと脇腹に深く刻まれて血が流れている
宝(この傷浅くはない、放っておけば危ないな)
俺は懐から布を取りだして少女の脇腹と太ももを縛り付けて止血した
ミレ「あ、ありがとうにゃ」
宝『まだ終わっていない』
俺が森の奥に視線を送ると、左足を引きずりながら戻ってくる岩隈の姿があった
恐らく、先程の一撃で足が潰されたのだろう
宝『あの一撃で終わらない分、まぁまぁタフみたいだな』
俺は立ち上がり、猫の少女を俺の後ろに隠しながら岩熊と向かい合う
ミレ「気を付けるにゃ、あいつは上妖クラスにゃ」
怪我を負った脇腹を抑えながら猫の少女が心配の声を上げる
宝『上妖、殺気の風エルフの長老レベルか』
岩熊「グォォォ!!」
怒り狂った岩熊が俺目掛けて突進してくる
その突進の風圧だけで地面は裂け、風妖精の森の全体が激しく振動した
宝『まだ軽すぎる』
それを俺は軽めの蹴りで岩熊の突進の勢いを完全に殺し、そのままはるか遠方に蹴り飛ばした
岩熊「グォォォォ!!!」
木々を薙ぎ倒しながら、岩熊ははるか遠方まで吹き飛び、その速度だけで空間が亀裂を生んだ
ミレ「き……規格外にゃ、こんな冒険者、聞いたことが……」
額を割られた岩熊がのそりと起き上がる
宝『今のでも死んでないか、上妖の中ではタフな方なのかもしれないな』
岩熊「グォォォ!!」
その時、雄叫びを上げた岩熊の背中のトゲが激しく隆起する
岩熊[土妖術 棘岩飛]
そして、怒りの雄叫びと共に複数の巨大な背中の岩のトゲを飛ばしてきた
時間を超越したように空気を引き裂きながら、岩のトゲが飛んでくる
宝『これがお前の技か、あの狼や風のエルフ程度なら簡単に引き裂ける』
宝『だが、俺を殺すには到底足りない』
俺は飛んできた岩のトゲを軽く叩いて粉々に粉砕し、その破片をひとまとめにする
岩熊「……!!!」
ミレ「あの岩のトゲを、はたいただけで……」
驚愕の視線を送る岩熊に、俺は破片の塊を作り出した左腕を向ける
宝『お前に見せてやる、能力の使い方を』
直後、瓦礫を煌々と燃える獄炎が包み込む
宝『この程度名前をつけるまでもないが、この世界風に言うならば』
俺は左の掌から一気に炎を噴出した
その炎が瓦礫の塊をまるでミサイルのように押し出して発射する
宝[火妖術 炎瓦礫玉]
その炎の玉は宇宙を焼け爛れさせ、崩壊させながら空間を引き裂き、岩熊へと飛んでいく
ミレ「な……なにあれ、あんな強力な魔法見たことがないにゃ...」
岩熊「グォォォ!!!」
岩熊[岩石妖術 大地の盾]
岩熊の雄叫びを合図とするように、地面から惑星の近くが隆起し、その身を守る盾となる
それは惑星爆発程度なら容易に防げるであろう強度と防御性能を誇っていた
宝『ただの炎ならそれで防げるだろうな』
宝『だが、これの前では』
炎に包まれた瓦礫の玉が隆起した岩の壁に衝突し、まるで豆腐のように軽々と貫く
宝『無謀だ』
岩熊「グォォォ!!!」
岩の壁を容易く粉砕したそれは、岩熊の腹に豪快に命中し、貫通した
岩熊「ゴ、、、ォォォ……」
腹に風穴を空けられた岩熊が轟音を立てながら地面に斃れる
〔G:5000、☆3『岩熊の地殻棘』×2〕
宝(周囲からの敵意と殺意は無しか)
周囲の襲撃が無いことを気配で確認した俺は、岩熊の亡骸の近くに落ちていたトゲを拾い上げる
宝『これがあの熊の素材か、確かに強度の高い良い岩石だな』
俺は岩のトゲをストレージのようなものに収納し、猫の少女に向き直る
宝『さて、お前は大丈夫か?』
ミレ「は、はいにゃ!助けてくれてありがとうございますにゃ!」
名前を聞いていなかった俺は、少女のその名を聞いてみることにした
宝『そういえば名前を聞いていなかったな』
ミレ「私はミレ、琴爪 ミレにゃ」
猫の少女は琴爪ミレと名乗り、俺にもう一度頭を下げてきた
ミレ「命を助けて貰って、本当に感謝するのにゃ、ありがとうございますにゃ、これはお礼なのにゃ」
ミレは懐から綺麗な紫色の宝石を取り出して、俺に渡してきた
その宝石は繊細ながらも、芯のある凛とした紫色の輝きを放っている
宝『この宝石は、』
ミレ「道中の宝箱で見つけた紫妖結晶にゃ」
俺は受けとった紫色の結晶を懐に仕舞う
ミレ「あと、もうひとつあるのにゃ」
宝『あの結晶以外にもか?』
そう聞くと、ミレはモジモジしながらもこくりと頷き、俺の顔を真っ直ぐ見てきた
ミレ「私を、君のパーティに加えて欲しいのにゃ」
宝『俺のパーティにか?』
ミレは控えめに、けれども力強くしっかりと頷いて、俺の手を握る
ミレ「まだ役に立てないけど、微力でも君の力になりたいのにゃ」
ミレは、真っ直ぐな瞳で俺に訴えかけてきた
宝『お前はこの周辺に住んでるのか?』
ミレ「はいにゃ……」
俺としてもまだこの世界において分からない事ばかりだ、正直な所本当にありがたい
宝『本当にいいのか?』
ミレ「私みたいな獣人を助けてくれた君のために、私の命を使いたいのにゃ」
その決意の籠った声と真っ直ぐな瞳からは、ダイヤモンドすらも柔らかいと錯覚させるほどの、強い決意を感じ取った
宝『分かった、俺との旅は過酷になるが、この世界について色々教えてくれ、ミレ』
ミレ「……!」
俺の返答を聞いたミレが嬉しそうにしっぽを振りながら瞳を輝かせる
ミレ「はいにゃ!、私の全ての力を使って、君の助けになるのにゃ!」
そうと決まればと、俺はミレを背負う
宝『だが、その出血は放置しておけば致命傷になる、まずは近くの村に行って回復するぞ』
宝『ここから近くに、病院みたいな場所がある村は無いか?』
俺の問いかけにミレがこの周辺の地図を懐から取りだして、見せながら答える
ミレ「ここから一キロくらい先の場所に、ホップタウンって国があるのにゃ」
宝『なるほど国か、そこなら病院もあるかもな』
俺は、ミレがウィンドウに共有してくれた地図を見ながら、ホップタウンに向けて走った