女魔道士の生い立ち
工業地帯の外れにある孤児院。
俺たちはそこでリナの友人である女魔道士――レイラの協力を得ることに成功した。
交渉を終え、縁側に腰を下ろしているとリナが告げる。
「レイラは、上妖の中でも最強格と言われているのよ」
「上妖最強クラス……。アイツら並みか、それ以上ってことか」
俺は思わず、ホップタウンを襲った四体の上妖を思い出す。瞬殺こそしたが、奴らの力は俺の元の世界でも十分脅威になり得た。
あの町の冒険者たちからすれば、絶望そのものだったはずだ。
(そんな連中を超える実力者が、今ここにいるのか……)
胸の奥が熱くなるのを自覚しつつも、表情は平静を装う。だが隣に座るミレには、あっさり見抜かれていた。
「主様……興奮が隠しきれてないにゃ」
「仕方ないだろ。武に生きる者として、強者を前にして心が躍らない方がおかしい」
俺の言葉に、ミレも小さく耳を動かす。
「まぁ……レイラさんのことは確かに気になるにゃ。リナさんとは友人って言ってたけど……」
そう呟き、少し唸ったあと、ミレはレイラへ向き直った。
「ねぇレイラさん、ひとつ聞いていいかにゃ?」
「ええ、どうぞ」
「リナさんとは、どこで出会ったの?」
素朴な問いに、隣でハーブティーを楽しんでいたリナが微笑む。
「そういえば話してなかったわね。……私たちは同じ学校の同級生だったの」
レイラは膝の上に置かれた花冠を撫でながら、遠い日の空を思うように語り始めた。
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――――レイラの学生時代――――
レイラ side
私たちが学んでいたのは、ラグナドール五大国のひとつ――魔術師国家エッツェンの魔術学校。
私は氷エルフの代表として試験に挑み、首席で合格した。
けれど入学してからの私は、常に魔術書に没頭し、一人で過ごすことが多かった。
人付き合いが得意ではなく、休み時間も机に向かってばかり。先生や同級生からは「魔術は優秀だが孤立している生徒」と見られていたと思う。
そんな私を変えたのが――リナとの出会いだ。
二年に進級した最初の日。席に着いたばかりの私に、彼女は気さくに声を掛けてきた。
「あなた、レイラ・アイスロッドよね?」
突然の言葉に驚きながらも答える。
「ええ。氷エルフの代表よ」
「私は兒堂リナ。よろしくね」
差し出された手を握った瞬間、私の世界は少し変わった。
共に学んでいく中で知ったのは、リナの卓越した才能だ。
魔術も優秀だったが、それ以上に化学の分野で突出していた。複雑な化学式を瞬時に解析し、存在しない物質を式から構築してしまう。
私ですら驚くほどの発想力と実行力を、彼女は当然のように発揮していた。
そんな日々は順調に過ぎていったが……卒業を一か月後に控えたある日、事件は起きた。
担任の教師が、忽然と姿を消したのだ。
「レイラ! 大変よ、先生が……行方不明なの!」
その報せを告げたリナは、肩で息をし、今にも泣きそうな顔をしていた。普段どんな危機にも冷静な彼女が、である。
当然学校は休校となり、私たちは朝から晩まで町中を探し回った。図書館、闇市、教師寮、国境付近……思いつく場所はすべて当たった。
それでも、先生の行方は杳として知れなかった。
「結局……見つかりませんでしたね」
「生きているのかも分からない……胸が張り裂けそう」
不安を抱えながらも、私たちは首席として卒業した。リナは魔法科学者に、私は臨時教師に就任したが、捜索はやめなかった。
だが半年後、リナが突然エッツェンを旅立った。先生を探すためだと分かっていた。
けれど私は心配でならなかった。大切な友を失うかもしれない――その恐怖が、私を駆り立てた。
だから私は職を辞し、リナの後を追ってエッツェンを出たのだ。
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宝 side
「それで、同盟国だったマジュリアの工業地帯で再会し……この孤児院を始めたんです。元々、子供が好きでしたから」
語り終えたレイラは、駆け寄ってきた男の子の頭を優しく撫でる。
「それで今もマジュリアに?」
「ええ。最先端の科学国家だから情報も集まりやすいし、先生の手掛かりも得られるかもしれないから」
リナが空になったティーカップを盆に置きながら答える。
「先生のためにそこまでできるなんて……すごいにゃ」
ミレが目を輝かせて二人を見つめる。その直後だった。
――ドゴォォォォォン!
凄まじい爆発音が、孤児院の玄関から響き渡った。
「な、にゃ!?」
「妖怪かもしれない!」
麗華が子供たちを抱き寄せ、爆音のした方を睨む。
同時にレイラとリナは視線を交わし、立ち上がった。
「行きましょう、リナ」
「ええ、犠牲者が出る前に」
二人は何の迷いもなく駆け出す。その背を、俺たちもすぐに追った。




