レイラ・アイスロッド
俺たちはレイラさんに促されるまま、孤児院の中へと足を踏み入れた。
「ここが……この世界の孤児院にゃ?」
「畳敷きでこの広さ……子供たちはのびのび暮らせそうだな」
内装は、外から見た印象の通り。まるで歴史の教科書で見た寺子屋そのままの畳座敷だった。
「ほんとだ、なんか教科書に載ってた寺子屋そのままだね」
麗華が緑の瞳をきょろきょろと動かし、珍しいものを眺めるように見回す。
「ここに来る子たちは、今まで窮屈な環境で生きてきました。せめてここにいる時だけは、自由にのびのびと育ってほしい。その思いで、この造りにしたのです」
先導しながら説明するレイラの声は、子供たちを本気で想っていることを伝えてきた。
「なんだか……すごい居心地が良いにゃ」
「うん……和の空気に包まれてるみたい。安心する」
そう言いながら進むと、白い睡蓮が描かれた襖が現れる。
「こちらの部屋へどうぞ」
丁寧な所作で襖を開け、俺たちを招き入れるレイラ。
「お邪魔します!」
「お……お邪魔しますにゃ」
俺たちは白睡蓮の部屋へと足を踏み入れた。
「わぁ……すごい」
「過ごしやすそうなお部屋にゃ……」
二人が同時に感嘆の声をあげる。
畳一面の書院造り。落ち着いた雰囲気に満ちる部屋の奥には、『五行輪廻』と記された掛け軸が飾られていた。
「まさか工業地帯に、こんな建物があるなんて……」
俺が思わず呟くと、レイラが答える。
「日本という国の昔ながらの内装にすることで、小さな子たちに安心感を持ってほしいのです」
その姿は、まるで聖母のようだった。
「それでは……そろそろ本題に入りましょう」
俺たちは部屋中央の座布団に腰を下ろす。
「リナ。本日はどんな御用で?」
レイラが穏やかだが真剣な声色で問いかける。
「レイラ。確か酒呑童子とその配下の討伐を目標にしていましたよね」
「ええ……少しでも親を失う子を減らしたいのです」
その声には、命を投げ打ってでも成し遂げようとする決意が宿っていた。
「集落を襲っているのは、酒呑童子に支配されている妖怪たちだよね?」
麗華の問いに、リナが頷く。
「ええ。鬼の女帝・酒呑童子とその配下は、更なる妖力を求めて人間を襲っているのです」
麗華はハッとした表情を見せた。
「妖怪の力の源泉は、人間から恐れられる感情……」
「それもありますが、もっと強い方法があります」
レイラの言葉が場を重くする。
「それは、人間を殺すこと。恐怖を与える以上に、殺害は膨大な妖力をもたらすのです」
「に、人間を……」
麗華は青ざめて口元を押さえる。
「ええ。この孤児院の子たちはみな、妖怪に親を殺され、行き場を失った子ばかりです」
悲しみを湛えつつも、その瞳には静かな怒りが燃えていた。
「あなたたちも、酒呑童子を倒したいのでしょう?」
レイラが身を乗り出し、俺に問いかける。
「ああ、最終目標はそれだ。だが、まだこの世界については知らないことが多い。今は情報を集めているところだ」
「それなら……こうしましょう」
レイラは胸元を抑え、必死の面持ちで続ける。
「私の知識と戦力をあなたたちに託します。その上で――共に酒呑童子を討ちましょう」
「えっ……自ら戦うの!?」
麗華が思わず声を上げた。
「戦いに身を投じれば、命を危険に晒すことになる。それでもいいのか?」
俺は真剣に問い詰める。
「もちろんです」
レイラの決意は揺らがない。曇りなき瞳が真っ直ぐに俺を射抜いた。
「妖怪が蔓延る世界です。戦わなくても、明日生きていられる保証などありません。
それなら戦い、子供たちの涙を一人でも減らしたい。――命を投げ打ってでも」
その答えを聞いた瞬間、俺は自分の問いが愚問だったと悟った。
「レイラさんの覚悟、確かに受け取った。これからよろしく頼む」
俺は彼女の手を握り、固い握手を交わす。
「レイラが一緒に戦ってくれる……心強いわ」
リナが嬉しげに微笑む。その目には、彼女を案じる優しさも滲んでいた。
「レイラさん! よろしくお願いしますにゃ!」
「私からも! これからよろしくお願いします!」
ミレと麗華は弾む声で喜びを表した。
だがその胸の奥では、レイラの命懸けの決断に深い尊敬を抱いていた。




