孤児院
リナが一枚の写真を差し出す。そこには、茶色い屋根と白い壁を持つ建物が写っていた。
麗華はそれを食い入るように見つめ、瞳を輝かせる。
「なんだか学校みたいだね」
「はい。この建物は、工業地帯が運営している孤児院です」
「孤児院……私みたいな子たちがいるのかにゃ?」
ミレは興味深そうに建物を見つめ、しっぽをゆらゆらと揺らす。
「ええ。親のいない獣人や妖怪との混血児、人間の捨て子たちを保護しています。私の友人は、十二歳以下の子どもたちの世話をしているんです」
「獣人や妖怪と人間の子供かぁ……会ってみたいな〜」
麗華は幼い子どもと接するのが好きだ。声も自然と弾む。
(そういえば、麗華は昔から幼稚園くらいの子と遊ぶのが好きだったな……)
俺がそんなことを思っていると、麗華が首を傾げた。
「宝、私の顔になにかついてる?」
「いや、すごく嬉しそうだなと思ってさ。麗華、小さな子が好きだろ?」
「だって、可愛いもん!」
麗華は満面の笑みを浮かべる。
「ところで、ここから孤児院まではどれくらいだ?」
「それは気になるにゃ。夜には妖怪が出るし、退治もしなきゃいけないのにゃ」
「安心してください。ここから徒歩三十分ほどです。今から出ても夜までには着きます」
リナの説明に、ミレは安堵の表情を浮かべた。
俺は椅子から立ち上がり、懐の皮袋から戦利品を取り出し、拠点の倉庫に収納していく。
「よし、準備ができたらすぐ出発だ。近いとはいえ、早いほうがいい」
「そうだね。何があるかわからないし、貴重品はここに置いておこう」
麗華も胸元から桜の刺繍入りの小袋を取り出し、桃色の収納庫にしまった。
「私も準備するのにゃ!」
「私はポーションの残量を確認しますね」
二人もそれぞれ武器や医療品を点検し始める。
――十数分後――
「準備はいいか?」
「もちろん! ポーションも包帯も完璧だよ!」
「私も武器の手入れはばっちりなのにゃ!」
ミレは研ぎ上げたダガーナイフを掲げ、耳をぴんと立てる。
「宝様、出発前に少しいいですか」
リナが俺を呼び止め、赤く輝く勾玉を差し出した。
「これは……」
「妖力を安定させる勾玉です。宝様ほどの実力者には不要かもしれませんが、念のために」
「ありがとう、リナ」
俺はポップタウンで買った組み紐に勾玉を通し、首から下げる。
「赤い勾玉……似合ってるよ、宝」
麗華がウインクし、親指を立てた。
「ありがとな、麗華」
こうして俺たちは休憩所を後にする。その背を、麗華がうっとりと眺める。
(本当にかっこいいな……)
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
麗華は首を横に振り、俺の隣へ駆け寄った。
「孤児院、どんな子がいるのか楽しみにゃ」
「みんないい子ですよ」
鬼火が並ぶ霞の路地を進む。
――孤児院――
霧と鬼火に包まれた工場道を歩くこと十分。風の流れが変わる。
「広い場所が近いな」
「孤児院がもうすぐです」
霞が晴れ、鬼火が薄暗い路地を照らす。
その先に建つのは寺子屋のような白壁の建物。屋根は焦げ茶色で、花壇には青い炎のような花が咲いている。
「あれが孤児院にゃ?」
「ええ、友人が運営している場所です」
近づくと、五、六歳ほどの子供が四人駆け寄ってきた。
「あ! リナさんだ!」
「一緒にいるお姉ちゃんたちは誰だろう……」
「可愛い……!」
麗華の胸が高鳴る。
「いい子にしてた?」
「うん! レイラ先生の言うことちゃんと聞いたよ!」
「ぼくも! おやつの時間守ったんだ!」
麗華はスキップで近寄り、子供たちに笑顔を向けた。
「初めまして。私は麗華、リナさんの仲間だよ」
「よろしくお願いします、麗華お姉ちゃん!」
俺とミレも麗華に続く。
「この孤児院の管理者、レイラという人に会いたい。今いるか?」
「うん! 机でお仕事してる!」
その時、扉が開いた。
「リナちゃんたち、来たかしら」
現れたのは、腰までの青髪をポニーテールに結い、澄んだ青藍の瞳を持つ女性。豊かな胸元をあらわにした魔術師風の服が印象的だった。
「リナいらっしゃい……あら? その人たちは」
俺たちの姿を見た青髪の女性は、不思議そうな顔で首を傾げた。
それに対し、リナが俺たちの方に手を向ける。
「紹介するわね、茶色髪の子がマジュリアの冒険者の麗華ちゃ?、隣の赤髪の子が麗華ちゃんの幼なじみの宝様、その隣の猫耳の子がミレよ」
俺たちはリナに促されるまま、自己紹介をする。
「俺はホップタウンから来た宝だ、よろしくなレイラ」
「同じく、ホップタウンから来たミレにゃ……よろしくお願いしますにゃ」
それを聞いたレイラが自らの服の裾を掴んで持ち上げ、上品に頭を下げた。
「孤児院の管理人を任されている、レイラ・アイスロッドです。よろしくお願いします」
「ずっとここで立っているのも疲れるでしょう、皆さん中へどうぞ」
「あぁ、感謝する」
「ありがとうございます!」
俺たちはレイラさんに連れられ、孤児院の中に入って行った。




