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ラグナドール

 リナは俺の覇気を込めた視線を、微動だにせずまっすぐに受け止めていた。

(間違いない……この女は強い)


 視線のやり取りを終えると、リナは太ももの前で両手を揃え、静かに深く頭を下げた。

「申し遅れました。マジュリア工業地帯、科学部門責任者の兒堂リナです」


 俺たちも名乗る。

「俺は宝、こっちは仲間のミレだ」


「よろしくお願いしますにゃ!あ……」

 元気いっぱいに挨拶したミレは、自分の語尾の「にゃ」に気づき、一瞬顔色を変える。獣人迫害が根強いこの国で、冷たく扱われるかと怯えたのだろう。


 だがリナの表情は柔らかく、優しかった。

「獣人迫害の思想は持っていません。だから怯えなくて大丈夫よ」


 ほっとしたミレはしっぽをピンと立て、リナに抱きついた。

 リナは少し笑みを含みながら話を続ける。

「ところで、あなたたちが私を探してここまで来たのよね?これからどうするの?」


「この世界から帰らないといけない。でも、まずはこの世界の情報をもっと集めたい」


 机の上のフラスコや試験管の横で、ひときわ目を引く一枚の紙があった。

『異世界研究報告書』と書かれている。


「これ、異世界のレポートか?」

「もしかしたら、この世界のことが書いてあるんじゃない?」


 俺はレポートを手に取り、麗華とともに文字を追う。

最上部に記された『ラグナドール(S08)』と、その下の『S4A4B2』というコードに目が止まった。


「これ、この世界の名前と世界コードかもしれないな」

「そう思う」


 肩越しに覗き込んだミレが首をかしげる。

「この英語と数字の羅列、なんにゃ?」


「世界コードは、一部の研究者や特権階級しか知らない秘密だ。ミレが知らなくても当然だよ」


 俺は"A"の文字を指でなぞりながら説明する。

「ここにある『A3』は、この世界が『Aランク』の世界を約四割ほど素材にしていることを意味している」


 ミレは目を丸くして訊く。

「Aランクの世界って……?」


「Aランクの世界は、生と死、善と悪、滅亡と創造……二極を超越した、最上位に近いレベルの世界だ。

ちなみにBランクは普通の物理法則や歴史が安定した世界。Sランクは神話や概念を自在に書き換えられる、最も高い階層の世界だ」


 ミレはさらに驚いて耳を立てる。

「そんなものを素材にできるなんて……どうなってるにゃ?」


 リナは机の隅に置かれた黒い鉱石製の日時計のような模型を手に取った。

「この日時計は、複数の世界を集め、『スターライト』という結晶の形で素材にする道具よ。

例えば『死』の世界を凝縮すれば、触れたものが終焉を迎える結晶になる。『創造』の世界なら、無から物が生まれる結晶に」


 ミレは目を見開いた。

「そんな危険なものをどうやって扱ってるにゃ?」


 俺は答える。

「だからこそ、Aランク以上の強力な世界でないと安定しない。下位の世界に持ち込めば、一瞬で世界が崩壊し、存在した記録すら残らず消えてしまうんだ」


 リナは日時計を元に戻し、俺たちを真剣に見つめた。

「あなたたちがここに来た理由……もしかして、この日時計と関係があるのでは?」


 麗華は顎に手を当て、初めてこの世界に来た時のことを思い出す。

「確か、宝と歩いていたら突然、光の渦に吸い込まれて……気づいたらマジュリアの王城裏で倒れていた」


 リナはその言葉に反応し、顔を上げる。

「その光の渦は、この日時計と、この世界を支配する女帝の妖術が関係している可能性が高いわ」


「妖術……この世界の異能力のことよね?それが私たちがゲートを作ったことと関係あるの?」


 リナは引き出しから宝玉を取り出し、俺たちに見せる。

「女帝の妖術について話す前に、あなたたちが妖術についてどれくらい知っているか教えてほしい」


 麗華は考え込む。

「妖術の理解度か……確か、妖怪に対する恐怖や畏怖の感情が妖力の発生源だったよね」


「その通り」


 麗華は嬉しそうに両手を挙げる。


 リナはチョークを手に取り、黒板に五芒星を描いた。

「妖力はそのまま妖術の源になる。妖怪たちはそれぞれ固有の妖術を持ち、発動させるのよ」


 五芒星の先には『火』『水』『土』『木』『金』の文字が並ぶ。


「この妖術を特殊な勾玉に封じ込め、人間が扱いやすく調整したのが五行妖術。多くの冒険者や妖怪がこの五行属性を利用している」


 俺は戦った妖怪たちを思い出す。

「俺たちが戦った妖怪の多くも、五行属性を使ってたな」


 リナは続ける。

「しかし、一定の実力者は独自の固有妖術を使う。上位の妖怪はほとんどがそうね」


 麗華は納得して頷く。

「つまり、私たちがここに飛ばされたのは女帝の妖術が私たちの世界に影響を及ぼしたから、ってことだね」


「ええ、飲み込みが早いわね」


 だが、俺の頭に重大な問題が浮かぶ。

「女帝を倒さなきゃ元の世界に帰れないってことか?」


「そうよ、でもそれだけじゃない」


 リナは言葉を続ける。

「女帝の妖術があなたたちの世界まで影響を及ぼしたことで、他の世界からも人が巻き込まれる可能性がある」


 その言葉は、不法な異世界渡航、つまり異世界への侵略の可能性を示していた。


「もしそうなったら、この世界のやばい奴らが他の世界に行っちゃう……」


「そう。世界群全体の崩壊を招き、大量の不自然な世界崩壊が起こる、最悪の事態に発展するかもしれない」


 麗華は深刻な表情で口元を押さえ、俺は冷たい汗を流す。

(これは俺たちだけの問題じゃない。麗華や俺の故郷までも壊れてしまう)


 ミレは涙を浮かべ、俺の服を握りしめる。

「主様……どうするにゃ?」


 俺は強く答えた。

「女帝を倒すしかない。それ以外に道はない」


 リナに尋ねる。

「このことは、この世界の人たちも知っているのか?」


「ええ、一部の上位実力者は知っている。私たちも防ぐために戦っている。ギルドマスターやパーティリーダーたちも動き出している」


 リナは真剣に俺たちを見据えた。

「あなたたちを、この事態を解決しようと奔走している私の友人のもとに案内したいのだけど、いいかしら?」


 そう言って渡されたのは、白い壁に茶色の屋根。庭に咲く人魂のような花が印象的な、学校のような建物の写真だった。


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― 新着の感想 ―
独特な設定が素晴らしいと思います。続きも期待しています。
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