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トタンの小屋

マジュリアの冒険者ギルドで幼なじみの麗華とひさしぶりの再会を果たした俺たちは、その足で麗華が使っている工場の休憩所へと向かうことにした。


 街中に規則正しく並ぶ蒸気機関の装置たち。鬼火が灯すランプがぼんやりと闇を照らす中、麗華が口を開いた。


「いやぁ…こんなに早く会えるなんて、正直びっくりしたよ」


 静かな夕暮れを背に、麗華の声はあたたかく響く。


「私もこの国の城の裏で倒れてたところを作業員の人に助けてもらったんだよね、それからはマジュリアで宝の情報を集めてた」


 その言葉に俺は小さく頷く。


「それと同時進行でこのギルドに所属して、装置の素材集めや妖怪退治に駆り出されてるんよ!」


 楽しげに話す麗華の笑顔に、俺は故郷へ戻ったような安心感が胸に広がった。


「何だか嬉しそうだにゃ」


 ミレが不思議そうに俺を見上げる。


「この世界に飛ばされてきた俺の幼なじみと再会できたんだ。そりゃ嬉しいさ」


 納得したようにミレが小さく頷く。

その横で、麗華の瞳がキラキラと輝き出す。


「この子、めちゃくちゃ可愛い! 宝、こんなに可愛い子どこで拾ってきたの!?」


 声に弾む彼女の姿は、この世界に来る前とまったく変わっていない。


(数日離れただけで、こんなにも恋しくなるなんて)


 俺は内心でつぶやいた。


「宝がいつもより穏やかな顔をしてるなんて珍しいね。何か良いことでもあったの?」


 キョトンとした表情で尋ねる麗華に、俺は柔らかく答えた。


「数日離れて、麗華のことが恋しくなってる自分に気づいた。俺も丸くなったなと思ってさ」


 その言葉に、麗華の頬がうっすらと赤く染まった。

胸元をそっと押さえながら、彼女は小さな声で返す。


「私も宝がいなくて三日間、不安で仕方なかった……私たち、同じ気持ちだったんだね」


 赤らんだ頬に映える緑の瞳。

鈴を転がすような軽やかな声。


 俺はその声に、この世界でずっと探していたものがあると確信した。


(そうだにゃ……主様はこの世界に一緒に飛ばされた幼なじみ、麗華さんを探すために冒険者ギルドや私たちに協力してくれているのにゃ……)

(上妖の群れと戦ってくれる優しく強いご主人と一緒にいられる麗華さんは、ほんとうに幸せ者だにゃ)


 お互いの異国での体験を語り合いながら歩いていると、やがて粗末な鉄製の小屋が見えてきた。


 トタン板で補強された壁や扉。

その周囲には、仕事帰りの作業員たちがパイプを燻らせてたむろしている。


「お疲れさまです!」


 麗華の明るい声に、一同が一斉に盛り上がる。


「麗華ちゃんじゃねえか!」

「もう依頼終わったのか? 相変わらず仕事が速いなあ」


 人気者の彼女の元には、疲れも吹き飛ぶような声援が飛ぶ。


 そんな中、左目元に深い傷跡を刻んだ男が、俺の方をじっと見つめていることに気づいた。


「麗華のお嬢ちゃんよ、その男は誰だい」


 声の主は、くたびれた渋い声で問いかけてきた。


「ああ、俺がずっと探してた幼なじみだ。今日この街にやってきたばかりでな」


 男は俺の姿を頭の先から足元まで鋭い目でじっくりと吟味する。


「若くて男前じゃねえか。そんないい男、ほかの女子に取られないうちにゲットしておくのが吉だな」


 その言葉に麗華は顔を真っ赤にして、顔の前で両手を振った。


「そ、そんなこと言わなくていいから、ギャルドさん!」


 男は茶化すように笑い、パイプを手に工場へ戻っていった。


「もう、ギャルドさんったら……あ、ここは私が使ってる拠点のことだよ」


 頬を赤らめていた麗華だったが、俺の視線に気づくとすぐに元気を取り戻した。

そしてトタンのドアを開け、俺たちを小屋の中へと案内する。


――――工場小屋――――


 扉を開けた麗華が手を差し伸べ、俺たちを中へと促した。


「ようこそ! ここはちょっとした宿代わりに使ってる道具小屋だよ!」


「お邪魔しますにゃ……」

「お邪魔するぞ」


 俺とミレは自然に促されるまま、小屋の中へ足を踏み入れる。


 鉄錆の香りと、ほのかに染みついたオイルの匂いが鼻腔をくすぐる。


 壁には四着ほどの作業着と軍手が丁寧に干されていた。


「ここが麗華さんの拠点か……倉庫そのままなんだにゃ」


 見慣れぬ道具の数々に興味を隠せないミレに、麗華は微笑んで答えた。


「宿泊証がなくて困ってたら、マシンリーダーのギャルドさんがここを貸してくれたんだ」


 さっき茶化していた目元に傷のある作業員のことだろう。


「今日は疲れただろうし、ゆっくり休んで」


 麗華は湯気の立つホットミルクにハチミツと砂糖を溶かしながらそう言った。


 その時、小屋の裏口が“ガチャリ”と静かに開いた。


「おかえりなさい、麗華さん……? あら、あなたたちは今朝の新聞に載っていた……」


 そこから現れたのは、長い赤髪を三つ編みにまとめ、知的な印象の赤いフレームのメガネをかけた女性だった。

黄色い瞳が鮮やかに光り、白衣を羽織った科学者のような佇まい。


「ああ、おかえり、リナさん。彼は宝、私の幼なじみなんだ」


 麗華の説明に、リナはすっと歩み寄ってきた。


(にゃ……いつの間にこんなに近づいていたんだにゃ?)


 気配に気づかなかったミレは驚きを隠せない。


(ミレも上妖を一人で倒せる実力者、この女は相当強そうだにゃ)


 俺は少しだけ覇気を込め、リナの瞳を見据えた。


「上妖の群れを撃退した“鬼の王”とは……非常に興味深い」


 メガネの左端を指で上げるリナの目は、俺の覇気を受け止めても微動だにしなかった。


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