ギルドマスター
夜の帳がゆっくりとポップタウンに降りていく。上妖が率いる襲撃軍との激戦を終えた町には、勝利の余韻が静かに漂っていた。
関所前の石畳には血と瓦礫が散乱し、戦場の跡が残る。そこに立つ仲間たちの顔には疲労以上の安堵と誇りが刻まれている。
「いやぁ……まさか、こんなに一気に片付くとはな」
野助が肩で息をしながらも、思わず笑みを漏らす。
「ああ、でも、俺たちの連携があってこそだ。諦めずに前に進めたからな」
壬生郎も同意する。
柳一は刀を鞘に収め、傷つきながらも凛と立っていた。
体中にいくつもの斬撃の痕があるにもかかわらず、目は鋭く光り、誰もが彼の圧倒的実力を改めて感じていた。
「襲撃してきた上妖は全滅だ。俺たちの勝ちだ!」
柳一の声が響き渡る。
「やったあ! 上妖軍を撃退できたんだ!」
冒険者たちが声を合わせて歓声を上げ、関所はまるでお祭りのような熱気に包まれた。
ミレは嬉しさのあまり小さく跳ねながら駆け寄り、俺の手を握った。
「ご主人! 私たち、上妖に勝てたのにゃ!」
「苦戦しましたが、なんとか勝利を拾えましたよ」
玲も控えめに微笑む。
「そうか。さすがだ、二人とも。信じていたぞ」
俺は全身傷だらけのミレの頭を優しく撫でる。
(ご主人になでなで……嬉しいのにゃ! 頑張ってよかったのにゃ♪)
戦闘で受けた傷の痛みを感じつつも、仲間たちの安堵の表情を見て胸が熱くなる。
「いやぁ、本当に強敵だったなぁ!」
野助が冗談混じりに肩を揺らす。
「ああ、でも見事な連携だったぞ、野助」
壬生郎も笑みをこぼす。
そのまま皆の輪に加わろうとしたが、俺は少し距離を置き、裏通りの小さな居酒屋へ足を向ける。
――――
――――――――
――――居酒屋――――
店内には、ポップタウンのギルドマスター・ケンジが座っていた。壬生郎の師匠であり、長柄武器の達人として知られる豪快な男だ。
「いきなり押しかけて悪いな、ケンジさん」
「構わんさ。若い奴の頼みは気前よく聞くもんだろ?」
ガハハ、と笑いながら、ケンジは豪快に焼き鳥を頬張る。その表情は戦いの余韻に関係なく、どこか安定感を感じさせる。
「それで? 頼みってのは何だ」
目線で俺に促しながら、焼き鳥を口に運ぶケンジ。
「……この写真の茶髪ロングの女子。高校生くらいの年齢だ。彼女を探してる。……一緒にこの世界に巻き込まれた、俺の幼馴染だ」
ケンジは少し黙り込み、無精ひげを生やした顎に手を当てて考え込む。
「ああ、あの子かもしれん。最近噂になってるぞ? 科学国家の工業区の方で、“恐ろしく速くて、ボインな女子”がいるってな」
「……恐ろしく速い、って部分は間違いない。たぶん、それだ。その国、名前は?」
ケンジは懐から一枚の紙を取り出し、簡易地図を広げながら指差す。
「ああ、魔術国家・マジュリア。西洋の魔導理論と妖術を組み合わせた研究が盛んな、いわば“科学国家”だ」
「科学国家……」
俺は地図を受け取り、真剣な表情で眺める。
ケンジは焼き鳥を置き、真剣な眼差しで俺を見つめる。
「ただし――気をつけろ。あの国じゃ、獣人への偏見がまだ根強く残ってる。お前とこの猫っ娘、ミレちゃんだったか? 目立たんように、これを貸してやれ」
そう言い、ケンジはフード付きのマントを差し出す。
「……何から何まで、感謝します」
「いいってことよ。見つかるといいなぁ……あんたの探してる仲間」
礼を告げ、俺は居酒屋を後にする。戦いの疲れとともに、仲間たちのいる広場へと戻る。
広場は勝利の宴で賑わっており、提灯の明かりに照らされた冒険者たちの笑顔が、戦場の緊張をすべて洗い流していた。




