襲来軍大将
共に敵陣深くまで攻め込んだ柳一に、地中を食い破る芋虫型の上妖――ノヅチを任せた俺は、そのまま襲撃軍の敵将の元へと走り抜けていた。
道中、無数の中妖クラスの妖怪たちが我先にと飛びかかってくる。ざっと見積もっても五十体以上――。
その凄まじい数は、まるで生きた山の如く、俺の進撃を阻もうと蠢いていた。
「アイツを倒せば出世だ!」
「ここで殺れぇっ!」
己の力を過信し、愚かにも我先にと飛びかかってくる妖怪たち。
『愚か者ども……力の差すら理解できんか』
俺はすれ違いざまに両手を振り下ろすと、妖力の炎が炸裂し、群れはたちまち灰と化した。無数の悲鳴も、怒号も、瞬時に消え失せる。
「俺の進路を邪魔するな」
突如、眼前に現れたのは五メートルを超える巨体の巨人妖怪。その巨顎に拳を叩き込むと、衝撃で大地が裂け、やつは地平線の彼方まで吹き飛んだ。
「な、なんだアイツは!?」
「大坊主を……殴り飛ばしやがった!」
「何度言わせる、邪魔だ」
近衛部隊と思われる四体の上妖が立ち塞がるも、俺は微量に残った妖力を練り上げ、瞬時に燃え上がらせた。彼らは文字通り、炎に飲まれて跡形もなく消えた。
そして、視界の先に鎮座する最後の一体――敵将と目される上妖の姿。
藍色の肌に赤い瞳、山伏のような装束を纏い、尖った耳が威圧感を増す。手には凝縮された水球をまとわせた錫杖を持っていた。
「さあ、上妖。最後はお前の番だ」
「近衛が一瞬で消し飛んだか……何者だ、アンタ」
《『上妖』皅良》
全身から溢れる妖気は、この襲撃における上妖の中でも群を抜いている。
『鬼燈 宝。今からお前を焼き殺す男だ』
「ずいぶんと物騒な自己紹介だね」
皅良の声が静かに響く。
錫杖に宿った水球が波打ち始め、やがて無数の巨大な“水の腕”へと変形する。
[『海流妖術』 奈落の手]
「海の腕に掴まれて溺れ死ぬ。これは苦しいよ?」
その瞬間、音速を超える速度で数百の水の腕が俺を包囲。全方位から押し潰すように迫る。
「それが妖術? 甘すぎるな」
こんなもので俺が倒れるわけがない。手を軽く払うと、風圧だけで迫る水の腕は掻き消され、皅良の顔に愕然とした表情が浮かぶ。
(こんなはずは……この技は、かつて軍事国家を一撃で滅ぼした私の奥義……ただの風圧で破れるわけがない……)
皅良の思考は、戦場の速さに追いつかない。
「遅すぎる……大将がこれとはな」
皅良が俺を視認する前に、すでに俺はその懐に入り込む。無防備そのもの。攻撃してくれと言わんばかりだ。
「せめて一撃ぐらいは耐えてみろ」
拳に炎の妖気を纏わせ、思い切り振り下ろす――。
「はあッ!」
俺の拳が皅良の腹を貫き、近くの大木へ叩きつける。木は粉々に砕け、平原が丸ごと吹き飛ぶ。
「ぐっ……はぁ……!」
(な、なんだこの破壊力……!?)
皅良の息が荒くなる。
血を吐きながら倒れ込む皅良。無数の驚愕と絶望の念を吐き出す声が戦場に響いた。
『……大将撃破。思ったより、あっけなかったな』
あまりにあっさりした幕引きに、少し物足りなさを覚える。しかし、その思いを胸に押し込み、仲間たちの戦う関所前へと戻る。
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――――関所――――
関所に戻ると、そこには上妖を打ち倒した柳一たち、そしてミレと玲の姿があった。
「ご主人! 私たち、上妖に勝てたのにゃ!」
ミレが飛びつき、無傷でないものの晴れやかな笑みを浮かべる。
「苦戦しましたが、なんとか勝利を拾えましたよ」
玲も笑みを見せる。
「そうか。さすがだ、二人とも。信じていたぞ」
俺は全身傷だらけのミレの頭を優しく撫でる。
(ご主人になでなで……嬉しいのにゃ! 頑張ってよかったのにゃ♪)
野助と壬生郎も、戦いの疲れを押し殺しながら笑みを浮かべていた。
「いやぁ、それにしても強敵だったなぁ!」
「ああ、だが見事な連携だったぞ、野助」
他の冒険者たちも負傷はあるが満足げな表情。柳一の勝利宣言に、皆は歓声をあげ、関所は一時祭りのような熱気に包まれた。




