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柳一、出陣

 

 岩場近くでの戦いは命を削る激闘の末、ミレと玲が紙一重で勝利した。

 一方、関所の正面口では、警察隊支部隊長・田所が率いる隊が、増援として現れた妖怪たちと熾烈な戦闘を繰り広げている。


 このポップタウン防衛戦は、野助と壬生郎が巨大化した妖怪・ワロドンを、ミレと玲が超音波の妖怪・山童を打ち倒し、防衛陣営が優位に進んでいた。


「戦況はこちらが優勢、今のうちに残りの主客を叩くでござる、宝」

 柳一が低く唸るように告げる。

 

「了解だ、この絶好のチャンスを逃す手はない」


 俺も答え、戦場の真ん中で闘志を滾らせていた。


 俺と柳一は、行く手を阻む増援の中妖クラスの妖怪群、そのど真ん中を切り裂きながら、敵陣奥深くへ進撃していく。


「止め、グゲェ!!!」

「なんて太刀筋だ、ガバァ……!」


「俺の行く手を阻む者に待つのは、両断の末路のみでござる」


 柳一の声が鋭く響く。

 隣を並走する柳一は、ポップタウンで一桁しかいない《上妖》の称号を許される冒険者だ。

 

 適当な実力の妖怪で固められた増援部隊など、この男の前では紙切れ同然、すれ違いざまに切り刻み、奥へ奥へと進む。


 その時、柳一が叫んだ。

 

「宝! 思い切り上へ飛べ! 説明は後だ!」

「了解!」


 俺は地面を蹴り、跳躍する瞬間、巨大な芋虫のような妖怪が地面を食い破り、地表に現れた。


《『上妖』 ノヅチ》


「出たでござるな、三体目の上妖」


 柳一の瞳が鋭く光る。

 

 下を見ると、柳一は刀を正眼に構え、ノヅチと睨み合っていた。


「ボォォォォォ!!!」

 ノヅチが雄叫びを上げると、体側面の穴から反射光が一瞬漏れた。

 

「ボォォォォォ!」

 

[『地食妖術』 地食い虫(ガイアワーム)


 直後、穴から十数体の細長いワーム状妖怪が飛び出し、周囲を襲う。


「その程度で、この柳一を取れると思うな」


[『柳葉剣術』 柳太刀(やなぎたち)

 

 刀身が柳の葉を思わせる緑色に変化し、飛びかかるワームを片端からブツ切りにする。


「ここは任せたぞ、柳一」

「承知!」

 

 一度の跳躍でノヅチを飛び越し、俺に目配せして言葉を交わすと、俺は妖怪の群れの奥に漂う、強大な気配へと走り込む。


――――ノヅチ戦――――


 敵将を討ち取らんと、宝を見送りつつ柳一は妖怪の群れに刀を向ける。


「さて、戦友に頼まれたんだ。ここで俺が死に伏す訳にはいかぬ」


 地面を食い破り飛び出す芋虫型のノヅチ。

 妖術は「捕食」と「複製」。


(側面の穴から己を複製し、地面を破りながら奇襲……並の冒険者では感知すら不可能だな)


 柳一は冷静に分析する。


 痺れを切らしたノヅチが小ぶりの複製を大量に飛び出させ、俺を捕食しようと襲いかかる。


「痺れを切らした攻撃が俺に当たると思うな」


[『柳葉剣術』 風断ち(かぜたち)


 襲いかかる複製を風の斬撃で両断、飛んだ風の刃がノヅチ本体の腹を深く裂き、鮮血が舞い上がる。


「ボォォォォォ!」

 ノヅチが絶叫に近い雄叫びを上げる。その直後、背後に気配――反射的に背後を薙ぎ払う。


(奇襲か……目の前の弾幕を囮に、本命を背後から放つ……上手いな)


 踏み込んだ瞬間、脇腹から小型ノヅチの牙が突き出す。


「ぐっ……!」


 柳一の血が口から溢れ、膝をつく。


(まさか、背後も布石だったのか……)


 大口を開けるノヅチが迫る、柳一は死を覚悟する。


(すまない、一真……俺もそちらへ逝く)


――――


――――――――


 その瞬間、一面真っ白な世界にぽつんと立つ一真の声が響く。


「そんなにあっさり諦めてんじゃねーよ、勝負はまだ着いてねぇだろ?」

 柳一は目を見開く。


「助からない、なんて思ってんじゃねぇ」

 一真の眼光が真っ直ぐに柳一を貫く。

 

「安心しろ、お前は俺たちの中で一番強え。だから重く考えるな。想いを刀に乗せろ」


 一真の言葉が柳一の意識を戦場へ戻す。


――――


――――――――


「諦めるのはまだ早い、そうだよな、一真」

 

 柳一の剣に、力と覚悟が宿る。


 眼前に大口を開けるノヅチ。動きは遅く、かつての力を超越した柳一には、攻撃は間に合う。


「俺を、今までと同じと思うな」


[『柳刀妖術』 柳風斬華(りゅうふうざんか)

 

 音速を超える青々しい柳の居合が、ノヅチの大口を上下に両断する。


「俺の剣の前に、敵は無い」

 

 轟音と共にノヅチは地面に斃れ、機能を完全停止。


「感謝するぞ……一真」

 

 柳一は脇腹を押さえながら座り込み、残る最高戦力討伐を俺に託した。

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