猫又
倒れ込んでいたミレも、山童の超音波に吹き飛ばされ、木に腹を叩きつけられ地面に崩れ落ちた。
「不味い、意識が……」
玲の声がかすかに響く。
「っ……ぅ……! ゲホッ!」
身体に重く響く衝撃に、ミレは血反吐を吐きながら痛みに耐え、意識を取り戻す。
「玲さん……無事にゃ……? ゲホッ」
内臓とアバラを軋ませる痛みに全身が悲鳴を上げる。しかし、ミレは気力で体を支え、ゆっくりと立ち上がった。
ゴポッ――口から溢れる血の音。
「ゲキキ!」
山童の嘲笑交じりの鳴き声が戦場に響く。
ミレは顔を上げ、玲のいる大岩の方へ視線を送った。
「ぐっ……離せ……!」
「グキキ!」
大きな手に喉を掴まれ、苦悶の表情を浮かべる玲。面白おかしく笑う山童。
「なっ……玲さ……ゴホッ!」
大声を上げるミレの喉から、再び血が溢れ出す。
「逃げ……ろ……ミレ……が…ぁ」
玲の声はどんどん細くなり、苦しげな息継ぎが戦場にかすかに響く。
「玲さん!」
ミレはダガーナイフを抜き、瞬間的に山童の背後へ接近する。
背中を深く切り付け、鋭い蹴りで引き剥がした。
「この! 玲さんから離れるのにゃ!」
「ギギャァァァァ!!!!」
悲痛な叫びが超音波となり、ミレの体を吹き飛ばす。
「がっ……うぅ!」
地面を転がり、痛みに顔を歪めながらも立ち上がる。
「早く……応援を……がぁ!」
喉を掴まれる玲が苦悶の声を上げる。
「ゲキキ!」
山童が嘲笑うように、腹を膨らませ、口を大きく開く。――大技の構えだ。
(あの構え、またあの大技にゃ!?)
ミレの心が跳ねる。
「くっ……」
玲は絶望を覚えたように唇を震わせる。
涙を浮かべたミレは、仲間を守る決意を胸にダガーナイフを握り直す。
「やめるのにゃ! 玲さんに手を出すな!」
感情の極限に達した瞬間、足から紫色のオーラが噴き出し、猫のようにしなやかに変化した。
「ゲキ!?」
山童が一瞬たじろぐ。
「なっ……そのスピードは」
玲も驚きの声を上げる。
山童が口を開く刹那、ミレは音速を超える速度で間合いを詰め、玲を蹴飛ばす手から救い出す。
足の変化は完全覚醒の兆し――両足から紫のオーラが燃え上がり、体躯は化け猫の如き俊敏性を帯びる。
「これは……私の、一番理想的な妖術なのにゃ……」
山童は怒りで顔を歪め、腹を膨らませ最大の叫びの構え。
「それはもう、撃たせないのにゃ!」
ミレの覚醒により、強さの次元が一気に跳ね上がった。
[『猫又妖術』 猫速]
腹が膨らむ前に、ミレは山童の懐に入り込み、刹那の剣閃五撃で全身を切り刻む。
「ギギャァァァァ!」
悲鳴と同時に山童が超音波を放つも、ミレは音速を完全に超越して躱す。
「今のあなたには、私は捉えられないのにゃ」
化け猫の如き俊敏性と身のこなしで、超音波すら置き去りにした。
鋭い眼光が山童を貫く。
「これで終わりなのにゃ、もう、私の大切な人を傷つけるな!」
[『猫丸妖術』 化け爪]
数多の猫の魂を宿したダガーナイフが一筋の斬撃となり、山童を縦に両断して完全に消滅させた。
「はぁ、はぁ……勝ったのにゃ」
足の変異は妖力の霞と共に解除される。
「凄まじい強さだったぞ、ミレ。助けてくれて、ありがとうな」
ヨロヨロと近づく玲に、ミレは抱き返す。涙が溢れ、喜びと安堵に震える二人。
こうして、ミレと玲の活躍により、二体目の上妖も撃破。
次は、俺と柳一が上妖を率いたトップ層の妖怪二体と正面衝突する番だった。




