妖怪喰い
「お前たち人間が使ってるのはなぁ……」
ワロドンが両腕を広げ、戦場を見下ろす。
「オイラたち妖怪の妖術を真似て作った、
火・水・木・土・金――五行の模倣品だけだぁ!」
「そんなモンで、オリジナルに勝てるわけがねぇよぉ!!」
地面に転がる野助を見下ろし、嘲笑が響き渡る。
その一歩一歩が、地面を震わせる。
――踏み潰される。
そう思った、その瞬間。
背後から、閃光のような一撃が走った。
「だからと言って――俺たちは、諦めんぞ!!」
壬生郎の槍が、ワロドンの右脾腹を完全に貫通する。
「ギィィィッ!? いだぃぃぃ!!」
妖怪の絶叫。
赤黒い妖血が噴き上がる。
「これで終わりだ!
地獄で他の妖怪どもに伝えてこい――
ポップタウンに、手を出すな!!」
壬生郎は槍を振り下ろそうと――した。
だが。
「……なーんちゃって」
その声に、背筋が凍る。
貫かれたはずの脾腹。
裂けた肉が、音もなく塞がっていく。
「……何っ!?」
「潰れちゃえぇぇぇ!!」
ワロドンの身体が、爆発するように肥大化する。
数メートル――いや、それ以上。
[『拡大妖術』巨大化]
「全身……巨大化だと……!」
寝返りの遠心力を乗せた巨大な腕が振り下ろされる。
直撃。
壬生郎の腹部に叩き込まれ、
肋骨が砕ける音が戦場に響き渡った。
「ガフッ……!」
裏拳が追撃となり、壬生郎の身体は地面に叩きつけられる。
大量の血が地面を濡らす。
「ゴホッ……ゲホッ……!」
「壬生郎!!」
野助の叫びも届かない。
ワロドンはさらに巨大な拳を振り上げ、今度は野助を狙う。
「ググッ……! ガァァァ!!」
鉞で必死に受け止めるが、
野助の両足が地面に沈み込む。
「やめろォォ!!」
血を吐きながら、壬生郎が立ち上がる。
そして、再び槍を突き立てる。
「無駄だよぉ!!」
ワロドンは嗤い、さらに力を込める。
(……このままじゃ、俺も野助も死ぬ)
(どうする……どうすれば……)
壬生郎の脳裏に、ひとつの記憶が浮かぶ。
――曇天の下、泥まみれで戻ったギルドマスター、ケンジ。
「上妖はな、再生する。だが“再生途中の肉”を食わせると、妖力の循環が乱れる」
――荒唐無稽な話だと思った。
だが、今は。
賭けるしかない。
壬生郎は、歯を食いしばった。
(どうせ死ぬなら……足掻いてやる)
「野助!! もう少しだけ、抑えてくれ!!」
「任せろォ!!」
野助が全力で踏ん張り、鉄槌を受け止める。
その隙に、壬生郎は駆ける。
「ポップタウンに――手を出すな!!」
[『水妖術』五月雨突き]
激流のような連続突きが、脇腹を貫く。
「だから無駄だって――」
「――これなら、どうだ!!」
壬生郎は槍を伝って飛び込み、
再生を始める傷口に歯を突き立てた。
肉を噛みちぎり、妖力ごと喰らう。
「ギ……ギギャァァァァァァ!!」
ワロドンの絶叫が、戦場を揺らす。
「野助!! 今だ!!」
「応よォォォ!!」
野助は鉞に大量の土を纏わせ、振り上げる。
[『土妖術』土塊の斧]
「貰ったぜぇぇ!!」
一閃。
断ち切られた脇腹から、妖力が霧散する。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「……ゲケケ……なん、で……オイ……ら……」
巨体が崩れ落ち、
ワロドンの身体は妖力と共に消滅した。
「……終わった」
「勝ったぞォォ!!」
歓声が上がる。
――だが。
誰一人、安堵はしなかった。
この勝利は、
次に待つ“本当の地獄”の、始まりに過ぎない。
ミレと玲の戦場では、
これまでの人生を塗り替える試練が、
すでに牙を剥いていた。




