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リーナリリーとアルチーノとラーナララー

作者: 瀬崎遊

「アルチーノがお姉様ごときを好きだとでも思ったの?」

「私、に・・・毒を、盛ったの・・・?」

「お姉様がアルチーノと結婚する前に殺さないと、アルチーノが私のものにならないでしょう?」


「ラーナララー・・・私、を、殺さなく・・・ても、婚、約、解消・・したのに・・・ゴフッ・・・」

 リーナリリーが嫌な咳をして、胃からせり上がってくるのだろう。咳とともに血反吐(ちへど)が口からこぼれている。


 リーナリリーは立っていられなくなって、崩れ落ちて横たわる。

「ふっふふふふっ。お姉様、私のために死んでね。アルチーノは私を愛しているから、お姉様が死ねば喜ぶわ。本当にいい気味。長い間アルチーノを縛り付けて!本当に許せないっ!」


 リーナリリーは首を持ち上げる力も気力ももうないのだろう。視線を動かすだけでラーナララーを見る。

 床に寝転がったまま首を横に向けゴボゴボと咳をして血を吐き出し続けている。

 ラーナララーは姉であるリーナリリーが苦しみ死にゆく姿が嬉しいのだろう。嫌らしい笑顔を顔に貼り付けリーナリリーを見下している。


 ノックもなくカチャリと音がしてドアが開く。

 二人の視線が音のしたドアに向く。

 アルチーノは二人の姿を見て何が起こったか瞬時に理解した。

「ラーナ!!リーナに何をしたんだっ!!」





 アルチーノは幼い頃以外、今までリーナリリーに心を配ったことがなかった。

 子供の頃からの婚約で、幼い頃は仲が良かった。

 アルチーノとリーナリリーが一緒にいる席にラーナララーが交ざるようになってから、二人の関係はおかしくなっていった。


 ラーナララーはアルチーノと二人になりたがり、リーナリリーにお菓子を取られたとか、宝物を壊されたなどと小さな嘘をアルチーノに伝え始めた。

 アルチーノとラーナララーが会う回数が増える度に、アルチーノがリーナリリーを(うと)んじるようになり、学園に入る頃にはリーナリリーの存在そのものを(いと)うようになった。


 アルチーノとリーナリリーは顔を合わせることがなくなり、学園ではアルチーノの婚約者はラーナララーだと思われている。

 リーナリリーは両親にアルチーノと上手く行っていないこと、ラーナララーとアルチーノが恋仲であることを伝えた。


 両親はそんな事になっているとは思わなかったとリーナリリーに謝罪して、ラーナララーを叱りつけた。

 両親はアルチーノを呼んで、幼い頃はあんなに仲が良かったのにどうしてリーナリリーと不仲になったのか聞いた。


 アルチーノはラーナララーに聞かされてきたリーナリリーの非道の限りを両親に訴えた。両親はアルチーノの話に驚き、それはラーナララーの嘘だと伝えた。

 アルチーノは両親の言う事の方が嘘だと決めつけ、ラーナララーは両親にも迫害されているのだと決めつけ、両親とリーナリリーを攻め立てた。


 両親はアルチーノの説得は諦め「リーナと婚約解消してラーナと婚約するか?」と尋ねた。

 アルチーノは「ラーナララーと婚約がしたいです」と返事して、両親はそれを了承した。

 ただアルチーノの父親には自分でリーナリリーとの婚約解消の話をして、婚約解消の書類にサインを貰って持ってくるようにと伝えた。


 アルチーノにそう伝えてから一ヶ月が経ってもアルチーノは婚約解消の書類を持ってこず、リーナリリーは婚約者のままだった。

 両親もリーナリリーもアルチーノに婚約解消の書類を早く持ってくるように伝えたが、アルチーノは返事を濁すだけで書類を持参することはなかった。



 アルチーノは父親に婚約者を変更したいなどと言うと酷く怒られると思っていたので、父に伝えることができないでいた。 

 心からリーナリリーと婚約解消したかったけれど、父への恐怖心の方が勝ってしまっていた。

 ラーナララーに「お姉様と何故婚約解消できないの?」と尋ねられた時、つい「リーナが婚約解消を嫌がっていて婚約解消を認めてくれないんだ」とつい答えてしまった。


 それを鵜呑(うの)みにしたラーナララーはリーナリリーが婚約解消を嫌がってズルズルと婚約解消を引き延ばしているのだと思いこんでしまった。

 学園を卒業するまでになんとかアルチーノと婚約したかったラーナララーは、リーナリリーに毒を盛る決意して……そしてそれを実行してしまった。




***



 アルチーノはリーナリリーのことを極悪非道だと思い込んでいたがその実、リーナリリーは人を疑うことも知らないような性格で、人と争うのがとても嫌いな子だった。

 ラーナララーに嫌われていることを知っていても、妹が自分に毒を盛るなんて考えつかないような子だった。


 だから、差し出されたジュースをリーナリリーは疑うことなく口にした。

 味が変だと感じたけれど、せっかくラーナララーから歩み寄ってくれたのだからとジュースを全て飲み干してしまった。




***



 アルチーノはリーナリリーが血を吐きながら倒れているのに、手もかさずに見下ろして笑っているラーナララーのことを信じられない気持ちで見た。

 そして、リーナリリーが血を吐く原因はラーナララーにあるのだと言わずもがな理解した。


「ラーナ!! 早く医者を呼べ!!」

「アルチーノ。今から医者を呼んでももう間に合わないわ。お姉様が死ねば私とアルチーノが婚約できるじゃない。それにこの家も私が継ぐことになるわ。リーナさえ死ねば全てが解決するのよ。だから私はリーナに早く死んでほしいわっ!!」


「馬鹿なことをいうな!! 私はリーナが死んだらラーナとは結婚しないからなっ!!」

「えっ!?それは駄目よっ!! リーナはもう何をしても助からないわ。死ぬ運命にあるのよ……」

「リーナがラーナを虐めるっていう話は嘘だったんだ……」

 アルチーノの小さな(つぶや)きはラーナララーには聞こえなかった。


 リーナリリーは咳をする度に体が震えていた。

 咳をする力ももうないのか、浅い呼吸の度に血を吐いていた。

「リーナ! 死なないでくれっ!! これからはちゃんと婚約者らしいことをするから!!」

「アルチーノ!! どういうつもり?! 結婚は私とするんでしょう?!」


「姉を殺すような女と結婚なんか出来るわけ無いだろうっ!!」

 アルチーノの腕の中でリーナリリーから命という何かが抜け出ていくのを感じる。

「リーナ!! ごめん。本当にごめん!! 死なないでっ!!」

 アルチーノがリーナリリーを初めて抱いた瞬間だった。

 なのにどれほど生きて欲しいと願ってもリーナリリーは浅い息すらしなくなってしまった。


「リーナ・・・」

「ふっふふっ。やっと死んだのね。結構時間がかかったので毒が効かないのかと心配しちゃったわ。これで私たちを邪魔しているお姉様はいなくなったわね」

「さっき私が言ったことを聞いていなかったのか? リーナが死んだらラーナと結婚なんかしないって言っただろうっ! いつ殺されるか解らない相手と結婚なんてできるわけがないだろう!!」


 リーナリリーを抱きしめたままアルチーノは涙を流してラーナララーを攻め立てる。

「アルチーノも私との結婚を夢見ていたでしょう?」

「リーナがお前に殺されるまでの話だっ!!」

「だって仕方ないじゃないっ! リーナがいつまでも婚約解消しないんだからっ!!」


「……ちがうっ!! リーナは私と婚約解消したいと半年以上前からご両親と私に言っていた! 私が婚約解消したいと父上に言えなかっただけだっ!」

「そんな嘘を言わなくてもいいのよ。今の状況は全てリーナの責任なんだからっ!!」


「だから違うって言ってるだろう!! 私が父に婚約解消したいと言っていればこんな事にならなかったのか? ……いや、私がラーナの嘘を信じなければ……リーナが誰かを虐めるような子じゃないこと、知っていたのに……僕が全てを招いたんだ……」


「もうリーナはいないんだから、過去のことは綺麗に忘れて私と幸せになればいいじゃない」

「お断りだ! もうどうでもいいから! 早く小父さんたちを呼んでこいよっ!!」

「リーナが死んだ途端偉そうな態度になるのね! 関白亭主を狙っているの?」

 アルチーノはラーナララーに何を話しても無駄だと悟った。

 ラーナララーはこんな子じゃないと思っていたのに、すべて自分の思い違いだった。




 アルチーノはリーナリリーの葬式が終わったら、ラーナララーにはもう関わらないと心に決めた。

 早く警察を呼びたかったけれど、リーナリリーを一人この場所に残していくのが嫌で、リーナリリーを抱きしめたまま、リーナリリーの両親が来るのを待った。


 ラーナララーは両親になんと伝えたのか?

 リーナリリーの名を呼びながら両親が部屋に入ってきて、リーナリリーが死んだことを受け止められないのか、アルチーノとリーナリリーを見つめてその場で立ち止まったまま足が動かないようだった。


「小父さん! 小母さん!! ラーナが毒を盛ってリーナを殺したんだっ!!」

「ラーナが?!」

 二人がラーナララーを見る。

 ラーナララーは「だってアルチーノと結婚しようと思ったらリーナリリーが邪魔なんだものっ!! 仕方ないじゃないっ」と答えた。


 両親は暫くリーナリリーを抱きしめて、ラーナララーには何も言わず警察を呼んだ。

 そしてリーナリリーがラーナララーに殺されたと伝えた。

 警察は「貴族屋敷の中のことなので、無かったことにできますがどうしますか?」と聞いた。


「逮捕してください。貴族とか平民とか関係なく正しく法の下で裁いてください」

「本当によろしいのですか?」

「よろしくお願いします」


「ねぇ! どうして? 私はお父様たちの子供なのよ!! 貴族だから裁かれないと言ってくれているのにどうして私が裁かれないといけないのよっ!!」

「自分の犯した罪はちゃんと償ってきなさい」


 両親は激高(げっこう)するでもなく淡々とラーナララーに告げた。

 ラーナララーは手錠をかけられ警察に連れて行かれた。




 リーナリリーの葬儀はとても小さなものだった。

 ラーナララーがリーナリリーの嘘ばかりを吹聴していたので、友人と呼べる人がリーナリリーにはいなかった。

 中には事件後でも、リーナリリーが死んで良かったと言う人までいた。


 ラーナララーが逮捕されたのは不当だと申し立てる者も少なからずいた。

 警察はラーナララーだけでなくリーナリリーの調査も念入りにした。

 どれだけ調べてもリーナリリーがラーナララーを虐めた証拠も、見た人もどこにもなかった。

 それでもリーナリリーを悪く言う人はいなくならなかった。



 ラーナララーは取り調べでは聞かれたことに素直に答えているらしい。

 警察もラーナララーの自分勝手な言い分に呆れていると聞いた。

 連日新聞にも取り上げられ、アルチーノは連日連夜記者に(まと)わりつかれた。


 アルチーノも警察に呼ばれ、事情聴取された。

 聞かれたことはなんでも素直に答えた。

 ラーナララーがしたこと全部話した。


「リーナリリーにしたことを後悔している」と告げると「それは神に告白するべきだ」と警官に言われた。

 アルチーノは警官に言われた通り、神に懺悔するために教会に立ち寄った。

 深く深く後悔していると涙を流して懺悔した。

 長い時間教会で懺悔してアルチーノは少しだけ気持ちが軽くなり、前を向いて生きようと思えた。




 ラーナララーの刑罰が決まった。

 北にある犯罪者を収監する修道院で死ぬまで出られないことに決まった。

「リーナリリーに謝罪して祈り続けるように」と判決がおりた。

 人一人を殺したのにあまりにも軽い罪で驚いたが、貴族という身分があるとこんなものなのかもしれない。


 リーナリリーを殺さなかったらアルチーノはラーナララーと結婚していたかもしれないと思うとブルリと寒気を覚えた。


 ラーナララーが北の小さな修道院に移送されると両親の元に手紙が届いた。

『たすけて』と。

 両親はその手紙を送り返し、修道院に二度と手紙を送ってこないようにと伝えた。



 そして両親は爵位を返上して、誰にも行き先を告げずにどこかに行ってしまった。

 アルチーノは一人になってしまった心細さを感じた。

 アルチーノは教会に通い続けた。

 何度も懺悔して、それでも足りずにリーナリリーに謝り続ける。


 アルチーノはいつの頃からか聖職者となっていた。

 毎日リーナリリーの冥福を祈り続ける。

 リーナリリーのために。自分のために。誰かのために。

 人々の幸せのために今日も祈り続ける。




本当はリーナリリーが加害者で、ラーナララーが被害者でした。

それが何故かしっくりこなくて加害者と被害者が逆転してしまいました。


修正入れました。3/14 19:03

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