第99話:論功行賞
ワザリアの民から話を聞いたの晶龍君なんだよなあ。どうしよう(笑)
「すまなんだ、そんな役目を押し付けてしまったようでござる」
宴席でモンドさんが篝火さんに頭を下げていた。宴席、と言っても立食パーティみたいなのじゃなくて、部屋に何やらお膳が運ばれて、見た目にも味にも妥協してない芸術品のごとき食事が運ばれてきたのだ。
ぼくの分? 目の前に膳を運び込まれそうだったけど、そのまま逃げたよ。いやだなあ、人間の料理は食べられなくはないけど好んで食べるものでもないんだよ。刺激が強すぎるんだよね。塩辛いから草たくさん食べて水たくさん飲みたくなるんだもん。
「あの、元信とかいう小僧はぬしの敵かや?」
「共に上様を支える家臣でござる。敵だのなんだの言うつもりはござらん」
「船頭するにも同じ方向を向いておらんと、山に船を登らせる気かや?」
「むっ……」
渋々といった感じでモンドさんはそいつの事を話してくれた。名前は宇多元信。大名という地方領主の息子で、次期家督を継ぐことも決まっている。ちなみにモンドさんは旗本と言って上様の直属の部下なんだとか。
で、この元信、急進派と呼ばれる勢力なんだとか。国の版図を広げようと草原や砂漠の方まで手を伸ばしているんだと。そうかあ、あの巫女姫のところか。アシュリーちゃんだっけ? なんか晶龍君とボソボソやってたと思うんだけど。
で、この急進派が招いたのがジョーカーだったらしい。なにやってんのさ。アホかな? まあ流れの魔法使いって事で、一つ二つ魔法見せたら信用してたとか言ってたらしい。モンドさんは江戸から離れてた時期なんだけど。
だから今回の件できゅは勢いをなくしているらしい。その間に調和派と呼ばれるモンドさんたちが周りと仲良くやっていこうって路線で進めてんだって。
上様は温厚な方でどっちかと言うと調和派なんだけど、上様のお母上が急進派らしい。いつの世も母というのは強いものだ。まあぼくに母の記憶はないんだけどね。
夜空を見ながら星の瞬きに晶龍君の顔を思い浮かべる。元気でやっているだろうか? あの旅籠はそれなりに繁盛しそうだし、きっとてんてこ舞いになってるよね。晶龍君に会いたくなったわけじゃないけど、アシュリーちゃんと話していた事が気になる。
一度モンドさんやマリエさんを連れてアシュリーちゃんのところに行った方がいいのかもしれない。まあぼくは故郷の森に帰らなくちゃいけないんだけど。
帰らなくちゃいけない、本当に? いや、わかってる。帰って誰が待ってるというのだろう。グレンは居ない。親も兄弟もきっと居ない。懐かしい寝床はあるのかもしれないが、それがなんだというのだろう。
あの頃から比べたら身体だって大きくなった。ぼくは、グレンのところを追い出されたら他に行く場所なんてないんだ。グレンが故郷に帰れって言うからぼくは。
ともかく大阪だ。そこに行くまでに決めておこう。この旅をどうするのかを。
次の日、ぼくらは再び将軍様に呼ばれた。なんか話があるのかな?
「そちらに褒美を取らせたい。なんなりと申してみよ」
あ、なるほどね。褒賞のお時間でしたか。まずはモンドさんからだね。
「拙者は幕臣として当然の職務を遂行した迄。日頃の食い扶持以外のものは必要ござらん」
モンドさんは辞退するのか。まあお仕事の一環となればそれも分からなくもない。
「だが、それを差し引いても恩賞は与えねばならんのだ。なんなりと申してみよ」
「左様でございますか。でしたら我が息子、幸太郎の為に刀を一振り拝領したく」
「おお、あの元気な和子だな。よかろう。いくつか見繕っておこう」
「ははっ!」
どうやら幸太郎君の刀を貰うらしい。いや、幸太郎君まだ三つでしょ? 刀なんか貰っても仕方なくない?
「次にマリエ殿」
「はい。私はテイムに適した魔獣が出る場所を教えていただきたいのですが」
「そのような事か。それならば褒美でなくとも教えよう。他にないか?」
「そうですね。旅に役立つ何かあれば助かります」
「宝物庫から出しておこう」
マリエさんはテイムしたいらしい。篝火さんもクロさんも居るよねって思ったけど、テイムの練習はしないといけないんだって。まあグレンもやってたよなあ。テイムの練習。
「篝火殿もどうじゃ?」
「わっちはマリエがもろうたなら特に必要ありんせん。どうしても、と言うなら美味い酒でも寄越してくりゃれ」
「よかろう」
これで全員かな。やれやれ将軍様ってのも大変だね。
「なんじゃ? ラビにはなんもやらんのか?」
「ラビ殿?」
「そうじゃ。通訳ならしてやるぞ?」
ちょっと篝火さん! 何言ってるんですか。ぼくに褒美とかある訳が。
『ラビよ。ジョーカーを倒したのは実質ぬしじゃ。その立役者が遠慮をするものでは無いぞ』
そう言われるならアシュリーちゃんの事を聞いてみようかな。




