第98話:将軍謁見
モンドさんを将軍にする案もありましたが、武家屋敷で幸せに暮らしてもらいます。
江戸城。誰もいないタイミングでなら上まで昇って一番偉い人が居たであろう部屋にまで到達もしたのだが、今回は多数の侍に囲まれている。
モンドさんから上様がお呼びであるという風に言われて城に向かったら、門の前に紋付袴というのだろうか。えらい肩幅の大きな服を着た足元をブカブカにさせた集団が待っていた。
いや、正式な着物かもしれないけど、戦闘しにくくない? それともなんかばっと脱いで戦闘に備えるとか変身要素があるの?
そんな集団に連れられてぼくらはあの猿猴と出会った部屋に通された。一段高くなってる場所に誰か居るんだけど、御簾っていうのかな? 影しか見えない。
部屋に入り、真ん中の辺りまで行くとモンドさんがどっかりと座って頭を下げた。
「三芳野幸之助、まかりこしました」
ぼくらはポカーンとしていたが、これは頭を下げた方がいいんだろうなってのは何となくわかる。
マリエさんと篝火さんが頭を下げた。ぼく? いや、頭を下げてもいいけど、ホーンラビットだからね。ツノが王様に向いちゃうんだよね。クロさんはちゃんと頭を下げていた。
「一同のもの、面を上げよ」
横にいる偉そうな人がぼくらに声を掛けた。どうやら頭を上げていいよって言われたらしい。まずモンドさんが、それに合わせてマリエさんと篝火さんが続けて頭を上げた。
「第三十三代将軍、松平家蔵である」
ここでモンドさんが改めて頭を下げる。それに倣ってマリエさんと篝火さんも下げる。うわっ、めんどくさい。
「公儀隠密並びに八州廻組組頭、三芳野幸之助、御前に戻りましてございます」
「ふむ、大儀であった」
「はっ!」
普通にただいま、おかえりで良くない? ぼくとグレンはいつもそんな感じだったよ。めんどくさい事ばかりだなあ。息が詰まるよ。
「して、そのもの達は?」
いやいや、ぼくらを認識して呼んだよね? なんで今更知らないフリするの? それとも本当にこの人は知らない側なの?
「はっ、此度の異変の解決に尽力したもの達にございます」
「左様であるか。許す。名乗るが良い」
すごい偉そう。いやまあモンドさんの態度見たら偉いんだろうけど。
「はい、私はテイマーのマリエと言います。こちらは私の配下の篝火、クロ、ラビです」
「ふむ。そこな化生はお主の配下と申すか?」
「はい、その通りです」
「貴様もか、女」
「篝火と申します」
篝火さんはすごいにっこりとした顔で将軍とやらを見ている。あの顔は相当頭にきてる顔だ。
「なかなかな器量よ。許す。そのものを献上せい」
横から偉そうなデブが口を挟んできた。えっ、話すの上様のターンじゃないの?
「元信! 貴様に発言を許した覚えはないぞ!」
「控えよ、この元信、貴様のような旗本風情と対等に扱われるいわれはないぞ!」
「ぐっ」
どうやらこのデブの元信とかいう人はモンドさんよりも偉いようだ。
「控えるのはお主だ、元信。勝手をするでない。大人しく出来んならこの場から去るが良い」
「上様……申し訳ござらん」
更にそれより偉い、というか一番偉い上様の一声で元信はさがった。最初からそうしろよ。
「臣下の心無い言い様、申し訳ない。この度は我らを救っていただき心より感謝しておる」
将軍が上から頭を下げた。臣下たちはびっくりしてたなあ。モンドさんも含めて。それでも篝火さんは納得してないみたい。
「あんなあ、そんな高いとこから言う礼に何の価値があるんや? わっちらをコケにしとるのかや、人の王?」
「な!? 貴様、上様に向かってなんという口を!」
「人の理なんぞ知ったこっちゃありんせん。わっちらはの、おんしらの恩人じゃ。それともおんしらは恩知らず、と呼ばれたいのかや?」
「篝火!」
「マリエ、こやつらはの、わっちらを舐め腐っとるのよ。わっちがコケにされるのは構わん。けど、マリエがコケにされるんは我慢ならん」
しーんとその場が凍りついた。モンドさんなんかどうしていいのかあわあわしている。なんか慌ててる感じは可愛いものだ。
「確かにそうであるな」
そう言うと将軍はすっくと立ち上がって段差をおりた。臣下たちは慌てて止めようとする。だが、それに構わず、マリエさんの目の前に座り頭を下げた。
「すまなんだ。お主らが助けてくれなんだらあのジョーカーとかいう男にこの八州の国を良いようにされておったであろう。かたじけない」
「えっ? あ、あの、その、ご無事で、良かったです」
将軍様はどうやら悪い人では無さそうだ。で、この後に酒宴が準備されてるんだって。いや、あのさ、ぼくはまあ良いんだけどマリエさんはお酒飲めないのでは? 篝火さんが飲む気満々? いやまあ良いけどね。




