第94話:sideグレン その3
グレンサイドです。新しい四天王の情報はまだ出ません。
巨体になった四天王ガロンが膝から崩れ落ちた。
「最強のウェアウルフたるこの俺が、勇者さえも退けた俺が!」
「諦めろ。確かに以前よりは強くなっていたがそれでも足りんぞ」
「クソ、フェンリルごときが」
「ごときとは大きく出たものだ。お前はこのスピードについてこれなかったではないか」
ウェアウルフのガロン。魔王軍四天王にして、疾風の称号を持つ者。相手が何人であろうが、その影さえ捉えることは出来ず、その鋭い爪や牙でただ四方八方から切り刻まれて死んでいく。
ハズなのだが、フェンリルの方がスピードが速かったようだ。ぼくもこんなにブランのスピードが速いなんて知らなかった。以前に言ってた食いちぎれるというのは誇張でも何でもなかったようだ。
いや、別にブランが嘘をついてるとかじゃなくてね、ほら、ビッグマウスってやつ。ついつい気が大きくなって言っちゃうやつ。ぼくとしてはみんなが力を合わせれば魔王軍恐るるに足らずってつもりだったんだけど。
「これで魔王軍の四天王も残りは二人ね」
今まで討伐したのはウェアウルフのガロンの他に天空の王、ジズというやつらしい。こっちは討伐というより話し合いだった。何でもノワールやシルバー爺の古い知り合いなんだって。と言うことはノワールってシルバー爺と同じくらい年寄りってことか? 怖くなってきたから考えるのはやめておこう。
後は夢魔の王、ジョーカーと氷雪の王、サスカッチぐらいだ。残りの四天王二人は手強い。特に力押しではどうにもならなそうなジョーカーだ。ぼくみたいに精神耐性のない人間は幻にやられてしまうかもしれない。
テイマーの弱点はテイマー本人だ。どんなに強い魔物を連れていても本人が弱ければあまり意味が無い。みんなはぼくの命令を聞くからね。日頃は命令じゃなくてお願いに留めているけど、本気で命令したら誰も逆らえないと思うんだ。
だからぼくは負けないように剣も魔法も磨いた。そんじょそこらのやつには負けなくなったよ。多分勇者よりかは強くなってると思う。あの勇者は大して強くないのに全然鍛錬をしなかったらしいから。
ジョーカーは後回しにしてサスカッチから倒そうか、なんて考えてる時、葛葉が素っ頓狂な声で「あぁら、まあ、いややわあ」なんて事を言い出した。
「なんだよ、葛葉。びっくりするだろ」
「びっくりも何も元・四天王のジョーカーが倒されたんやさかい。しゃあないやろ」
ジョーカーが倒された? それに元・四天王? なんか情報が入り乱れてて混乱してきたよ。
「ジョーカーが倒された、と聞いたけどそんな偉業を成し遂げたのは誰だい?」
「まず、江戸の侍、三芳野幸之助、新米テイマーのマリエとそのパートナーの篝火、これはうちと同族やねえ。それからペットのクロっちゅうブラックドッグ」
江戸の侍は聞いた事がある。剣士として一流ばかりで、武器は刀と呼ばれる曲刀。盾を持たずに攻撃を交わしながら必殺の斬撃を決める。
また、新米テイマーは分からなくもないし、篝火というのが葛葉の同族ならばまあ分かる。実力がどの程度か分からないけど。
クロ、というブラックドッグ。これは雷の化身と呼ばれる犬の形をした幻獣だろう。ぼくのそばには居ないけどぼくにはブランが居るからね。
「それだけかい?」
「この子らが観戦者や」
観戦者? それじゃあまるで倒したやつは別にいるって言ってるようなものじゃないか。という事は江戸に潜むと言われている上忍? それともテイマーの子が誰か隠し玉でも連れていたのだろうか?
「倒したんはな、ラビや」
「………………は?」
今葛葉はなんと言った? ラビ? なんでラビが、あのホーンラビットの、戦闘なんてできっこないって思ってたラビが? どうやって?
「ほぉら、やっぱりなあ。あいつバケモンだもんな」
「フェザー、茶化したらあかんよ」
「いやいや、葛葉よぉ。ご主人様にそろそろちゃんと話した方が良くねえか?」
「ええやん、別に」
どうやら葛葉は前に言ってたようにラビが何者かを知っていたみたいだ。ぼくは何か間違って居たんだろうか?
「主よ、申し訳ない。我が愚息がラビから離れてしまったようだ」
ヴリトラが申し訳なさそうに顔を出してきた。そういえば彼とその奥さんであるティアマトの子ども、晶龍君とかいう子がラビを故郷に送り届ける手筈になっていたはずだ。それなのになんで。
「どうやら、旅先で近親種の娘に惚れ込んだらしくてな」
という事は龍族同士の話らしい。何でもそれで相手の親のところに行かないといけないとか。親ってのは大変だね。
「ワシが居らんでも大丈夫だと思うが、少しの間抜けさせてもらうが構わんかね?」
「ああ、構わないよ。ぼく達にも休息は必要だからね」
しばらくは魔王軍の侵攻に備えて準備をしておこうと思う。今よりも強くならなくては。




