第92話:内なるもの。その名は……
という事でラビ君の正体判明です。あ、知ってた?
本体の切羽詰まった叫びがオレを呼び覚ます。全く、仕方ないやつだ。お前はオレなんだからこんなザコくらい片付けてくれないと困るんだがな。
えーと、状況的にはジョーカーとかいうザコと猿猴とかアカツキとかいうザコ以下のモブがいる訳だな。で、モンドとか呼んでる三芳野幸之助って侍。テイマーのマリエ。そのテイムしてる奴らの篝火って化け狐とクロっていうブラックハウンド。
って、ブラックハウンドなら身体を雷光化したらバインドには掛からないんじゃねえの? あー、テイマーのマリエに攻撃いかないように受け止める気かよ。そういうの嫌いじゃないぜ。
「ラ、ラビ? お主……」
あーまあ篝火は普通に気付くか。あのメンバーの中で一番にオレの事気付かれたの葛葉の姐さんだもんな。
『心配すんなよ。全部片付けてやる。黙って見てろ』
そう言うとオレはジョーカーにむきなおった。なんかプルプルしてるけど大丈夫か?
「さっきからなんなのだ、貴様は! 夜の王たるこの私の術が全く効かんではないか!」
夜の王だとよ。恥ずかしいやつだ。そんな名前のやつは割と沢山居たよな。グレンと旅してた時なんか歓楽街毎に夜の王とかいたもんな。
まあそれを言ったらブリジットに睨まれたけどな。いや、別にブリジットがビッチとかそういう事は言ってなかったんだが。
「私を吸血種なんかと一緒にするなよ? 私は夢魔の一族の俊英、幻覚魔法を極めし者!」
あー、そういう事なのか。そりゃあ悪いな。オレにゃ幻覚の類は効かねえんだよ。あと、性欲のコントロールも完璧だ。年中発情してる普通のうさぎと一緒にしてもらっちゃあ困る。
「アカツキ! 猿猴! 奴をぶち殺せ!」
そう言うとジョーカーは二人に何か魔法を掛けたみたいだ。二人の身体が膨れ上がっていく。これは催眠暗示による潜在能力の解放だろうか。
「ウキイイイイイイイイイイ!」
「ぐおおおおおおおおおおお!」
常人には到底見切れないほどのスピードで迫ってくる。だが、大したスピードではなく感じる。マリーがオレを抱き上げるまでの時間に比べたらな。あいつ、熾天使の力をオレを抱くのに無駄遣いしてんだよな。あれで豊満なら何も問題ないんだよ、痛くねえならな!
とか考えてたら攻撃が来た。仕方ない。見え見えだから同士討ちする様に動いてみる。どうやら味方には当たらないようにしてるみたいだな。仕方ねえ。オレがやるか。
『赤き恐慌のオーラ』
オレの身体から赤い気が迸る。その気はまとわりつくようにアカツキと猿猴を縛り付ける。動けねえだろ? 力で引きちぎるのも無理だぜ? その赤いのはお前らの恐怖だ。
このオレを誰だと思ってるのだ? 単なるホーンラビット? 違う違う。こんな赤くて強い、通常の三倍の速度を持つホーンラビットなんか居るかよ。
オレはアルミラージ。龍をも喰らい、オレを見た奴は恐怖で動けなくなるという伝説の獣だ。身体の色が黄色いひよっこなら逃げ出す事くらいは出来るがな。
『動けねえんだろ? そのままくたばれ』
オレは指一本動かさずに二匹の心臓を潰した。えっ? 指なんかあるのかって? ほっとけよ! それにちゃんとあるっての!
「お、おい、アカツキ? 猿猴? 何をやっている! 立ち上がってこいつを始末しろ!」
『もう死んでんだってーの』
「ひいっ!?」
頭の中に直接話し掛けてやった。オレの言葉がキューキューとしか聞こえねえのは締まらねえからな。
「なんなんだ、なんなんだお前は! 私は、魔王軍の四天王で、夜の王で、邯鄲の支配者で」
『心配すんな。指一本動かせねえのはお前の落ち度じゃねえよ。悪ぃな。オレが強過ぎて』
「貴様、貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様きさ」
『うるせえよ、色情魔。あっ、違ったっけ?』
夢魔ってやつは普通の物理攻撃だと大してダメージは与えられねえ。むしろ精神攻撃の方がよく効くんだよな。まあ幻覚が効かなくて精神攻撃も得意なオレが居たのが運の尽きってやつだ。このまま生きてても何の得にもならんから、じゃあな。
プツンと糸が切れた様にジョーカーの身体が崩れ落ちる。幸之助やマリエ、篝火、クロはちゃんと動けるようになった様だ。
なるべくなら出てきたくなかったよ。でもやらねえとラビの大事な人たちが死んじゃうもんな。全く、こういう時は晶龍辺りが何故か駆け付けるものじゃないのかよ。お楽しみ中? まあしゃあないか。波長の合う同類にたまたま会えたんだもんな。
「ラビ殿!」
「ラビ君!」
「ラビ!」
「をん!」
全員無事で良かったぜ。全く。あー、肉食いてえなあ。あのヨロイはともかく猿は食えねえかな? まあ腹ごしらえはラビに任せるか。クソ、エネルギー足りねえから眠いぜ…… そしてオレは意識を手放した。




