第91話:首おいてけ
落とせなかったのにも魔法が発動しなかったのにも理由があります。次回解説出来るかなあ?
「よく来たな、貴様ら」
回廊を抜けたぼくたちを待っていたのは怪しい格好のジョーカーと、片腕が復活している猿猴である。よくまあ再生出来たものだ。
「ここまで来た貴様らに敬意を表して、私自らが御相手しよう」
ジョーカーはバサリ、とマントを翻すとそのまま空中へと舞い踊った。猿猴は何やらデカい槍みたいな武器をだしてきた。
「むむっ、偃月刀でござるな」
「知ってるんですか? モンドさん」
「かつて師に聞いたことがある。槍のように突くことも刀のように斬ることも出来る遠近両用の武器だと」
見るからにデカくて近くで戦うの辛そうだと思うんだけど、ぼくが間違ってるのかな? まあモンドさんの方が上手だもんね。
「猿猴、貴様はあのホーンラビットを片付けろ。残りは私がやる。出来るな?」
「あんなホーンラビットですかい? いえ、油断ならん相手でした。ジョーカー様の幻覚が効きませんでしたから」
「そうだ。だから肉弾戦で切り刻め!」
いや、ちょっと、ぼくに完全にターゲッティングしてない? そんな話聞いてないよ!
「では、始めようか。絶望を教えてやる!」
ジョーカーはバサリとマントを脱ぎ捨てた。下にも黒い服着てる。マント外す意味あったのか分からない。印象は変わらないよね。あ、防寒具?
「余所見してんじゃねえ!」
などと思ってたら猿猴がかかってきた。上から下に、ぼくを目掛けて斬撃を叩き込む。
「うひぃ!」
ぼくは慌てて跳び退きながら斬撃の軌跡を見る。そこにあったはずの椅子が真っ二つに割れている。ひょえええ。
「ちょこまかと!」
いや、ちょこまかもしますよ。あんな大きいので殴られたらぼくなんて一刀両断でずんばらりんだよ。
ジョーカーの方はどうなってるだろう。みんな動いてない。いや、動けないのだろう。ジョーカーの幻覚の中に囚われてるんだ。もしかしてこれは絶体絶命のピンチというやつでは?
「ふははははは、動けまい。貴様らなどこの私にかかれば赤子の手をひねるかのように処理出来るのだ」
「ぐっ、身体が動かん。動け、動けでござる」
「無駄無駄無駄。貴様の仲間共も為す術なく囚われていったのだ。貴様だけ抗うなど出来るはずがないではないか」
「そうか、仲間たちは無事なんでござるな? ならば安心でござる」
仲間が死んでなかったみたいでモンドさんの顔に安堵の色が浮かぶ。それがジョーカーに一層気に入らなかったらしい。
「アカツキ! 帰ってきているな?」
「はっ、ここに」
アカツキと呼ばれた鎧武者の男が反対側の通路の方から歩いてきていた。恐らくこいつも部下なんだろう。
「断罪せよ! こやつらの首をはね飛ばせ!」
「御意」
アカツキはモンドさんのところに立つとすうっと刀を抜き、首を落とそうとする。
「やめろ!」
「きゃあああ!」
篝火さんとマリエさんが悲鳴をあげる。クロさんはマリエさんを守るように前に立っている。みんな動くことは出来ないみたいだ。
「順番に首を落としてやる。待っていろ! そして真っ先に貴様が死ね、ホーンラビット!」
ジョーカーの合図でぼくの首に偃月刀が振り下ろされた。ああ、故郷にも帰れずにこんなところで死んじゃうんだな。皆様お世話になりました。
ぎいん、と音がした。どうやらぼくの首が落ちた音なのだろう。あれ? でも痛くなかったよ? あれかな? 綺麗に殺すと魚は自分が死んだことに気付かないとかそういう。いやいや、さすがにぼくでも首落とされたら死んじゃうってわかるよ?
「何をやっている、猿猴!」
「申し訳ありません、ジョーカー様。手が滑ってしまい」
「全く。猿猴ではダメか? ではアカツキが殺せ!」
「御意」
アカツキはゆっくりとこっちに歩いてくるとそのままぼくの首に刀を振り下ろそうとした。また、ぎいん、と音がする。やっぱり痛くない。
「バカな!」
なんかアカツキさん、震えてんだけど。この人処刑人とかそういう異名持ってるとかないよね?
「猿猴もあかつきも不甲斐ない。どけ、私がやる!」
みんなを動けなくしたまま、ぼくのところに降りてきた。つかつかと歩いてくる。他のみんなはまだ動けない。動け動け、今動かなきゃいつ動くっていうんだ!
「断頭台!」
どうやら魔法のようだ。きっと天秤に魂を載せて……あ、いや、違うな。そのままぼくが断頭台にかけられるだけなんだろう。さあ、まずはぼくからなんだろう? 早く一思いにやってくれ!
シーンとした静寂が辺りを包む。何も起こらない。あら? ぼく、また何かやっちゃいました? って言うんだっけ? こういう時は。
「ジョーカー様?」
「何故だ! なぜ発動せん! なんなのだ、お前は一体何なのだ!」
ジョーカーが発狂したように頭を抱える。そして自分を取り戻したように元に戻る。
「猿猴、アカツキ。こいつは無視だ。先にあいつらから片付けるぞ」
そう言ってつかつかとぼくから去っていった。このままだとダメだ。何とか、何とかしないと……




