第90話:四天王筆頭ジョーカーという男(ジョーカー視点)
ジョーカーさん。四天王から脱落してます。ええ。入れ替えられました。左遷です。
私はジョーカー。魔王軍四天王の筆頭にして、この邯鄲の都を支配するもの。
この都は私がこの地に住まう住民の生気や魔力を効率よく、吸いすぎずに吸い上げるために作った都。それ故、住民は各地から連れて来た奴らだ。
そもそもこの都は幻であり、私の魔力によって維持されている。それ程までに苦労をしてまでこの都を維持しているのもひとえに魔王軍の為。
こうしていればやがて魔王様も私を四天王に戻してくれる……い、いや、違う! 私は四天王だ! 筆頭だ! 例え五人目であろうと私は四天王なのだ! それにあんな若造よりも私の方が先に四天王だったのだから奴の方が五人目なのだ。そうに違いない! はぁはぁはぁ。
そうこうしていると異変が起こった。江戸という都市に配していた猿猴がやられそうなのだ。猿猴は頭は悪いが実力はそこまで悪くない。江戸を治めるには不足はなかったはずだ。
相手は……侍と呼ばれる戦闘民族が一人、テイマーらしき少女が一人……いい。いいぞ。是非ともうちに招待したいものだ。ふふふ。それにブラックドッグらしきモンスターとやたら獣臭い女が一人。あとはホーンラビット。なんか赤いがホーンラビットだから特に気にしなくてもいいだろう。
やれやれ、猿猴がピンチだ。助けてやらねばな。私は江戸城まで転移をする。
「困っているようだねえ、猿猴」
「ジョ、ジョーカー様!?」
バカか? 私の名前を私が自己紹介する前に呼ぶとは。清らかなる乙女に警戒されてしまうでは無いか。
「私の名を呼ぶなんて隠す気あるのかい?」
「ひいっ、すいません」
「まあいい、そこの男」
「拙者でござるか?」
「住民は生きてるよ。まあ私の膝元でね。邯鄲。この世に出現した楽園の名前だよ」
侍の男に真実を教えてやる。ちょうどいい。取りこぼした侍が自ら出てきたのだ。征服の時にも侍が束になってかかってきたが大したこともなかった。きっとこいつもそうなのだろう。それでいて生気は他の人種よりも多いからな。呼び寄せて糧としてやろう。
「そこの女」
「わっちかえ?」
「貴様じゃあない。獣臭い。清らかなる女よ。邯鄲にきたあかつきにはそなたを側妃として迎えよう。どうだ?」
「お、お断りします。そういうのはわたしは、まだ」
清らかなる乙女に声をかけたら獣風情が返事をしてきた。貴様じゃあない! まだ、ということは時が来れば大丈夫ということだな? ならば邯鄲にて簡単に、ではなく、念入りに出迎えの準備をしようではないか。
「では、邯鄲へ来るがいい。待っているぞ。猿猴、お前も邯鄲まで退くのだ」
「ははっ! ありがとうございます。では、我はこれで」
私は獣風情の放ったであろう拘束を解く。私にかかればこの程度の解呪は造作もない。何やら悔しそうな顔をしているなあ。愉悦愉悦。私はそういう顔が見たいのだよ。
「猿猴、先に行け。私は一人二人導いてからいくよ」
少なくともあの獣風情は私の都に入れたくは無い。猿猴も獣だって? いやまああいつは私のペットみたいなものだからな。
「さて、何人耐え切れるかな? 空間歪曲」
あの清らかなる乙女を攫うのには全員気絶させた方がいい。それならばこの幻覚で意識を失わせれば……あれ?
「ほほう? そこのホーンラビット、なにものだい? 私の幻覚が効いてないみたいだし」
なんなんだ、あのホーンラビットは! 見たことないぞ? いや、焦るな。所詮はホーンラビット。
「持ち帰って解剖するのも面白そうだ。どっちみち貴様らは私の研究材にならざるを得んがな」
少し強がってみた。この場合は強気の姿勢を崩さないことが大切なのだ。魔王様もそう言っておられた。ぐっ、な、なんだ? ま、眩しい!?
「な、なんだ、この光は!? う、うわぁ!」
気付いたら私は邯鄲の皇城に居た。私の飛ばした影が消されたのか? なんということだ。
「猿猴、ザボラエ、アカツキ、居るか?」
「ここに」
「呼ばれましたかな?」
「控えております」
私の三人の将軍。腹心の部下だ。魔王様が四人しか腹心を作っていないのに私がそれ以上を作る訳にはいかないからな。いや、違うぞ、五人目は私ではないんだ!
「ザボラエは右の回廊を、アカツキは左の回廊を守護せよ。猿猴は私のそばに。腕は再生してやる」
「はっ!」
部下たちを配置につかせる。出来ればザボラエルートに来てくれれば黄巾力士の数で押せるのだがな。アカツキだと侍と一騎打ちでも始めそうだからな。それはそれで足留めができるか。
なっ!? ザボラエの右の回廊が抜かれただと!? こ、これは、左に行ったアカツキを呼び戻さねば。間に合わんか。くっ、それならば私が迎え撃とう。猿猴、再生中だろうが緊急事態だ。準備をせよ!




