第89話:妖縛陣の罠(無効)
ザボラエはジョーカー四天王でも上の方です。
江戸の街を出て、南へ一週間。そこに邯鄲と呼ばれる都市が存在した。うん、存在してるはずなんだよ。
『あるの? ここに?』
「ラビ、おんし、この都市が見えないのかえ?」
「え? まことでござるか?」
そんな事言ったって見えるわけが無いんだよなあ。見渡す限り、ここは単なる草原にしか見えない。
「ラビはここで待つかや?」
『さすがにそういうのは。役に立たないかもだけど、ぼくもみんなと一緒に頑張るよ!』
篝火さんは待ってもいいみたいなことを言ってくれたけど、挑戦状を叩きつけられたからね。たけし? 何の話?
「では、わっちらと手を繋いで行こうかや」
そう言うと篝火さんがぼくの手をギュッと握ってくれた。ぼくは握り返せないけどさ。
篝火さんに手というか前足を引かれて歩いていくと、突然目の前が暗くなった。そしてどこからともなく街並みがぼくの前に現れたんだ。
『ここがラピュ……邯鄲か』
「せやな。恐らくジョーカーとやらはあの一番大きい建物に居るんやろなあ」
見上げるは巨大な城。紫色に染まった皇城。紫というのは高貴な色を示すと誰かが言っていた。天帝の住まうのが紫微垣という場所らしい。葛葉に教えてもらった。四獣ならもっと詳しいとは言ってたけど、あったことないもんなあ。
「行くでござる」
巨大な城を前に動きが止まっていたぼくらをモンドさんが急かした。まあ奥さんと子どもを助けないといけないもんね。
城の中はやたら大きい廊下があった。恐らくは集団で歩いてたんじゃないかなと思う。ぼくらも横に並んで歩いてたら進めなくなってたしね。
ブリジットかエリンか葛葉がグレンの横に行こうとしなければ普通に通れるんだけど。
マリー? マリーはぼくを胸ですりおろしながら少し後ろを歩いてたよ。地味にすり減るよね、精神も骨も。
そんなこんなで進んでいると向こうの方から無表情な筋肉マッチョな奴らがどしどし進んで来た。手には思い思いの武器を持っている。
「むっ、面妖な!」
「やだ、なんだか暑苦しい」
「油断するでない、あれは黄巾力士と呼ばれる兵器じゃ。まあゴーレムみたいなものよ」
ゴーレム、なの? ぼくが昔見たゴーレムはもっとこう、優しそうな顔してたよ? いや、ぼくらに敵意がなかったからなんだろうけど。
「……」
黄巾力士たちはぼくらを見つけると武器を掲げて襲いかかってくる。
「やむを得ん。応戦するでござる」
モンドさんが刀を抜いて斬りかかる。そこまで強くないのか、一刀のもとに切り捨てられる黄巾力士たち。これなら勝てる!
「をん!」
次に飛び出したのはクロさん。頭をぶつけて黄巾力士を押し戻すと、固まったところに電撃が走る。バチン、と音がして黄巾力士は数十体単位で行動しなくなった。
「が、がんばれー」
マリエさんは一生懸命みんなを応援している。まあ戦闘能力無さそうだもんね。その代わりに篝火さんか縦横無尽に飛び回り、次々と倒していく。みんな頑張って!
え? ぼく? ぼくに戦闘能力なんかある訳ない。いや、危ないとなれば蹴り飛ばす気はあるけど、効くのかどうかは分からない。
いつまでこの襲撃が続くのかと思っていたら徐々にその姿を減らしていった。モンドさんも篝火さんも肩で息をしている。回復とか使えればいいんだけと。あ、みんな怪我は大してなかったよ。
更に進むと今度は潰れたアンパンみたいな顔の杖を持った奴がいた。
「ほほう? あの黄巾力士を全て倒したか」
「貴様は何者でござるか?」
「ワシはジョーカー様配下の妖術師、ザボラエよ」
なるほど、妖術師……それって魔術師と何が違うの?
「試してやろう。まずは一番弱そうな貴様からだ! 妖縛陣!」
ザボラエは手のひらから凄い細い魔力の糸みたいなのをぼくに向かって飛ばしてきた。糸はぼくの身体に到達して、そのまま絡みついてくる。
「掛かったな! よし、そこのホーンラビットよ、貴様らの仲間を攻撃してやれい!」
『えっ? 嫌だよそんなの』
少しの間静寂が辺りを支配した。何も起こらない。ぼくの身体に巻きついた魔力の糸はそのまま絡まったままである。まあ動けなくは無いからとりあえず急いで解く必要も無い。
「何故だ!? ワシの妖縛陣が効いてないだと!?」
なんか右腕を上げたり、左腕を引っ張ったりしてるけどなんか踊ってるみたいでおかしいよね。
「な、なんなんだ、貴様は!」
『ええと、ただのホーンラビットだよ』
まあ言っても分からないだろえけど、キュキューと鳴いておいた。
「隙あり、でござる!」
「バカなぁ!」
呆然となったあとに正気に戻ったのかモンドさんがザボラエを一刀両断してくれた。やられキャラだったんだなあ、きっと。四天王の中でも最弱とか言われてたんだろうね。




