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第87話:猿猴の秘技

ラビ君に、その手の咆哮は効きません。

「ククク、我を見るなり肉弾戦しか出来ぬ脳筋と思われる事が多いのでな。我の咆哮は恐怖を呼び起こす。全員動けまい!」

「ぐっ、身体が」

「うご、かない!?」

「くぅーん」

「な、なんのこの程度で!」


 モンドさん、マリエさん、クロさんは撃沈、篝火かがりびさんはギリギリ動けてるみたい。でも動きは鈍くなっている。


「ほほう? まだ動けるか。我の咆哮を食らって動けるとは大したものよ。褒めてやろう」


 猿猴えんこうは尊大に笑っている。ぼくも真似して笑うかな。まあ、きゅーとしか聞こえないかもだけど。


「ん? なんだ? ホーンラビット? な、なぜ、貴様は動けるのだ!?」


 あれ? 猿猴が凄く慌ててる。そんな事言ったって、うるさかったから耳を倒してただけだよ。


「バカな! 初動で耳を塞げなくなる様に魔力まで載せているんだぞ? それなのに、なぜ、貴様は動けなくなってないのだ!」


 いやぁまあ、よく分からないんだけど、元々戦力外のぼくが居たところで大して役にも立たないんだから特に問題ないでしょ?


「くそ。無意識のうちに範囲外に出ていたのか? いや、声は届いたはずだ。それなのに。ええい! 今度は貴様だけに恐怖を味あわせてやる。覚悟しろ!」


 猿猴はそう言うと思いっきり息を吸い込んで、更にうるさい音をぼくにぶつけてきた。だーかーらー、ぼくは大きい音が嫌いなんだってば!


「ていっ」

「ごぼぉ!?」


 あまりにうるさいから口を閉ざさせようと顎に蹴りをお見舞いする。猿猴は咆哮に夢中で避けることも出来ずにそのまま後ろにひっくり返った。


「おお、動ける!」

「これで大丈夫そう」

「をん!」

「やれやれ、大したやつよのう」


 皆の状態も回復したみたい。篝火さんがなんかやったんだろう。


「ちい、なんてこった。こんな事がバレたらジョーカー様に殺される。今ここで始末しないと!」


 そう言うと猿猴は大きく息を吸い込んで、口から火の玉を吐いた。大きい火の玉はモンドさんの直撃コースだ。


「この程度のモンでわっちらがやられるわけないでしょありんす」


 篝火さんが懐から紙切れを取り出し、それを前にばらまく。ばらまかれた紙に火の玉が当たると、火の勢いが弱まっていく。


「モンドの旦はん!」

「おうよ! はあ!」


 モンドさんが裂帛れっぱくの気合いを込めて剣を振り下ろす。こっちはこっちでうるさいね。声が甲高いんだよ。あ、火の玉はじき飛ばした。なんの術も掛かってない剣なのにすごいね!


「バカな!」


 さっきからあの猿助、バカな!、しか言ってないと思うんだけど。バカなのかな? あれだ。バカって言うやつは自分がバカっての。ぼくは言ったことないからバカじゃないよ?


「貴様ら、どうやらこの我を本気で怒らせたようだな!」


 いや、さっきから割と怒りっぱなしだったと思うんだけど。もしかして巨大化したり金色の気に包まれたりするの? ぼく、包まれるなら優しさがいいなあ。


「大仙術奥義、千軍万馬!」


 猿猴は自分の毛をむしり取ると、ふぅーっと息をふきかけた。すると毛がみるみるうちに無数の軍隊へと変わっていく。うん、変わっていくのはいいんだけど、ここ、室内だよ? 動きづらくならない?


「ふはっはっはっはっ! これで我がどこにいるのか分かるまい! さあ、者共、やれい!」


 なんか高らかに叫んでるんだけど、どこにいるのかなんてすぐわかったよ。他のやつはぼんやりしてるもんね、輪郭が。これならみんなも直ぐに気づく……あれ?


「くっ、こうなったら片っ端から始末するでござるよ!」

「きゃー、ダメ!」

「マリエ! クソ、せめてどれが本体か分かれば戦いようも」


 あれ? みんな分かってないのかな? これへ仕方ない。ぼくの出番だね。ぼくは幻覚に決まってる分身たちは無視しながら猿猴に近付く。スルスルと近寄れるのは警戒してなかったから?


『みぃーつっけた』

「なっ!? バカな!」


 だからバカな、ばっかり言ってないでよ。ようし、ぼくのツノアタックをくらえ!


「ぐぎゃ!?」


 ツノは手のひらに刺さったよ。咄嗟に防ごうとして手を前に突き出したからそこを刺したんだ。あとはよろしく!


「貴様か! 覚悟!」

「手伝いまひょ。炎刀」


 モンドさんが斬りかかり、その剣が炎に包まれる。熱くないのかな? そのまま気にせずモンドさんが猿猴を斬る。猿猴は必死で身体をずらして避けようとするが、左の肩口に刃が入り、そしてそのまま斬り落とした。


「ぐおおおおおおお! 痛ぇ痛ぇ、痛えよぉ!」


 猿猴は血を噴き出しながら転がり回る。痛さにそのまま転がるだけだから治療もしてない。出来るのかは分からないけど。猿猴の血で辺り一面が血の海になってきている。


 モンドさんが少し顔を曇らせたのはこの部屋が汚れるからか、それともトドメをさしそこなったからか。

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