第86話:猿猴は遠攻がお得意?
城で敵が待ってました!
ぼくらはモンドさん、待てよ? 幸之助さんって言った方がいいのかな? いやまあぼくは発声しても篝火さん以外には分からないんだし、どっちでもいいか。そのモンドさんの説明を聞き終えたんだ。
「帰り道を忘れるだなんて、そんな事ある者でしょうか?」
「恐らくは人払いの結界か何かが張ってあるのかもしれんなあ。かなり高度な幻覚の術なのじゃがなあ」
マリエさんの疑問に篝火さんが答える。まあこの霧自体が幻覚の術な気もしないでもないんだけど。
「門が開いたのはなんでだろうね?」
「これも推測なんじゃが、ラビが言ったのが開門の呪文だったのではないかや?」
ええー! やっぱりなのか。あれはグレンに教えてもらった呪文だもんな。なんでゴマなのかは分からないんだけど。
「これからどうするのだ?」
「決まっている。邯鄲なね赴き、元凶を探し出して、元に戻させる。もしくは成敗するでござる」
モンドさんはやる気だね。でも何の考えも無しに出向いても仕方ないと思うんだよね。何か手がかりになるものを探さないと。
『ラビには何か考えがあるのかや?』
『考えっていうか、まだあの一番大きい場所とか調べてないからさあ』
『ふむ、確かに。一考の余地はあるの』
「二人で何話してるの?」
篝火さんに気になった事を話していたらマリエさんが話し掛けてきた。マリエさん、ぼくと言葉が通じないはずなのに、ぼくのことを「一人」って数えてるんだよね。多分テイマーとしてとてもいい子だと思うんだよ。
「なんということはない。まだあの大きい建物を調べとらんなあって言うとったところじゃ」
「一番大きい……江戸城ですな。公方様がいらっしゃるはずでござる。恐れ多い」
モンドさんが汗をかきながら答えるが篝火さんは気にしない。
「あんなあ、ここの街に誰もおりゃんせんのやから城におるとも限らんし、もしおるなら報告するか救助するかはせんとあかんのやない?」
「はっ! そ、そうか。お助けせねばならん。皆、手を貸してくれ!」
なんかモンドさんのやる気が戻った様で良かった。なんかモンドさん見てると公方様とかいう人とモンドさんの関係ってぼくとグレンとの関係に似てるかもね。ぼくの方は絆は失われちゃったけど。
モンドさんはそれからすごい勢いで城へと駆け出した。まあぼくほどではないけどマリエさんがひーこら言ってたから途中からクロさんを呼び出して背中に乗っけて貰ってた。
堀にはちゃんと橋がかけてあった。まあ当然なんだけど、モンドさん曰く夜には橋を上げてるんだって。そういうのは街の周りに作らないかな?
橋を渡って迷いそうな城内を迷うこと無く進んでいくモンドさん。さすがに自分の勤め先の事はちゃんと分かるんだね。いくつもの階段を上ったり下りたりして広い廊下を床をきいきい鳴らしながら進んでいくと広い部屋に着いた。
広い部屋には一段高くなっている場所があり、その場所に誰もいないのを確認してモンドさんはガクリと崩れ落ちた。
「やはり、居られぬか」
「あそこに居たんですか?」
「ああ、上様が御成あそばされていたのはあちらでござる」
なんか敬語がすごいことになってるけど、それだけ身分が上だったんだな。さっきは公方様で今度は上様って二人いたのかな? まあ説明してもらうだけ時間の無駄だね。
「まさかここまで来るものが居ようとはな」
その時、奥の方から異様な男が出てきた。腕が異様に長い。背はそこまで高くないのだが、腕の長さがかなり変だ。どう見ても普通の人間では無い。
「何者だ?!」
「お主らこそ何者よ? ここは我がジョーカー様より賜った城ぞ」
「江戸をこんな風にしたのはお主らか? ならば、ここの住民がどうなったのか知っているだろうな!」
「無論。ジョーカー様の命令だったからな」
「貴様! 住民の居場所を吐いてもらうぞ!」
完全に殺る気モードのモンドさん。あ、殺ったら情報聞き出せないね。落ち着いて欲しいけどこいつがどれだけ強いか分からないもんね。こんな時晶龍君が居てくれたらなあ。
「私も、許しません! いくよ、篝火、クロ!」
「やれやれ仕方ないのう」
「をん!」
みんなでやる気だからぼくはゆっくりしとくよ。いや、ぼくだって憤ってるよ? でもぼくに戦闘能力なんて皆無なんだから。
「我が名は猿猴。前の住民は生かしとかなきゃいかんかったから喰ろうてないが、お主らは何も言われとらんで喰ろうても構わんよなァ!」
きしゃーと名乗りと同時に奇声をあげる。なんだよ、うるさいな。えっと、耳塞ぎたいけど無理だからせめて耳は倒しておこう。
「がっぐっ」
「身体が……動か……」
モンドさんとマリエさんが動けなくなってるみたい。あれ? もしかしてピンチなの?




