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第85話:幸之助という男(モンドさん視点)

幸太郎の年齢が三つなのは、しとしとぴっちゃんなガトリング乳母車に乗ってる大〇郎と同じにしたからです。ちゃーん!

 拙者の名前は三芳野幸之助。幕府に席を置く公儀の隠密でござる。これでも席次は上の方をいただいているのでござる。


 席次、というのは幕府の隠密内での序列の様なもので、剣しか使えぬ拙者はそこまで高いものではござらん。まあ後は変装術もなかなかに得意で、遊び人の振りは拙者の十八番おはこでござる。


 ある日、拙者は江戸こうと周辺に度々起こる異変の調査に辺りの都市を回っておった。こう見えて妻帯者でござる。早く終わらせて妻と子の待つ家に帰るつもりであった。


 ところが、ある日突然、江戸こうとへの帰り方を忘れてしまったのでござる。実際に行ってみるとその場所には何も無く、ウロウロ歩いていると巨大な都市に着いた。


 その巨大な都市は邯鄲かんたんというらしく、中では何人、何十人、いや、何百人か何千人か。とにかくすごい数の人がそこで暮らしていたのでござる。


 江戸こうとよりい出て、周りの地理には詳しいはずの拙者が見たことの無い都市。怪しさに頭を抱えながら、その邯鄲とかいう都市に潜入してみたのであった。


 住民にこの街はいつからできたのかと聞いても、昔からだと答えられる。そんなバカな! こんな巨大な都市が今まで気づかれることがなかったというのか?


 拙者は色々嗅ぎ回ったがどうやらあの王城が怪しいらしい。王城といっても江戸こうとにあるものとは違う。天守閣もないし、堀もない。軍事的な手段には使えない、煌びやかな建物だ。


 拙者はそこに忍び込もうとして、失敗した。拙者に隠密の心得なぞなかったのだから。だから、拙者はふらふらと協力者を求めて彷徨いていたのだ。


 そんな折、一人の少年とホーンラビットに出会った。少年は利口そうだがやんちゃな感じの子だった。武芸の心得はあるみたいだが。


 ホーンラビットの方はこれがまた珍しい赤くて少し大きい。柔らかそうであった。もふもふしてみたいものだ。


 その二人?はチンピラ冒険者に絡まれていた。断れなかったら助けてやるか、などと思っていたが少年は意に介していないようだ。


 チンピラ冒険者の前に立って抜き手も見せずに抜刀する。居合、と呼ばれる技法だ。そこまで得意では無いのだが。少年がチンピラ冒険者に目をつけられたらその年齢で色々不利になるかもしれぬからな。


 助けた少年はショウ君というらしい。拙者は咄嗟に偽名であるモンド、を名乗った。昔、我が家が朝廷に勤めていた時にご先祖さまが着いていた役職なんだとか。水を扱う部署らしい。いや、今はどうでもいいのだが。


 それからは色々あった。次から次に問題が向こうから襲ってくる。拙者はついて行くので精一杯であった。


 特に旅籠を出立する時に出会った煙鬼。恐らく邯鄲からの刺客であろう。運良く、というか何故か付与がかかって倒せたものの、なければ旅籠ごと無くなっていたと思う。


 ショウ君はパイリン殿に惚れたらしく宿に残るのだそうな。それだというのにどうやらラビ君は旅を続けるらしい。彼らは主従関係では無いのだろうか?


 しかし、ここで拙者がラビ君の面倒を見れば、あの付与が使えるやもしれん。それはこの先の旅において重宝するに違いない。


 なし崩し的だが、マリエ殿の助力が得られそうだ。彼女はテイマーなのだが、彼女のテイムしている篝火かがりび殿はかなりな高位の化生けしょうであろう。あるいは拙者が江戸こうとに帰還する手がかりとなるやもしれん。


 そんな中であった。どうやらラビ君が霧の向こうに江戸こうとを見たと言うのだ。そうだ、霧だ。何故拙者はこの霧を避けていたのだろうか?


 ラビ君に連れられて辿り着いたのは江戸こうとの城門。霧には覆われていたが威容は前のままだ。開門を叫んだが誰からも返事は無い。これはダメかと思った時、静かに門が開いた。


「幸奈! 幸太郎!」


 拙者は走り出していた。一目散に門の中へ。長屋通りを抜けて商業街へ。人の気配はしていない。拙者はそのまま通り抜けた。確認など後でいい。早く、早く!


 拙者は「みよしの」と書かれた表札の家に着いた。扉は簡単に開いた。拙者はドタドタと家に駆け込む。囲炉裏のところには誰もいない。奥の部屋だろうか。妻は、幸奈は台所かもしれない。


「幸奈!」


 台所を覗く。人の気配は無い。食事の支度をしていたのだろうか、ジャガタライモの煮っころがしが作ってあった。口に放り込む。いつものように美味い。頬を何やら水が伝った感覚があった。


 寝室に入る。恐らく幸太郎はここに寝ているのだろう。無理もない、まだ三つだ。ガラッと襖を開ける。中には布団が二組、敷かれているだけだった。


「幸奈……幸太郎……」


 拙者はあまりの絶望にもうこの命が絶えてもいいとさえ思った。そこに辿り着くマリエ殿たち。拙者は事の次第を打ち明ける事にしたのでござる。もう、どうでも良いのだ。

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