第8話:sideグレン その1
今回は書き漏れないかなって思ったらセラフとドライアドが空気に。
「ラビは行ったかな?」
「一目散に駆けて行きましたにゃ」
「臭いが遠ざかってるから間違いなく言ってますね」
「そうか」
ぼくはテイムした皆を前にほっと一息吐いてラビが去って行った方を眺めた。と言ってもここは洞窟の中だから外まで光は届かない。
「そんなにガックリ来るならお別れせんでも良かったんちゃいます?」
葛葉がしなだれかかってくる。巨乳を押し付けるんじゃない。
「女狐、そんな形でマスターを誘惑でもするつもり?」
「ごめんなあ、あんさんには出来んことで誘惑してもうて」
「この、調子に乗るんじゃ」
「やめんか、騒騒しい。主殿がゆっくり考えられんではないか」
葛葉とブリジットの言い合いをヴリトラが鎮めてくれる。ありがたいけど、別に考えることは無いよ。
「主よ、私をテイムせずにラビを連れて行っても良かったのではないか?」
フレイが諭すようにぼくに言う。確かにラビが居てくれたら心強い。ずっと初めから一緒にいた分身みたいなやつだから。
「ダメだ。ラビを連れて行くわけにはいかない。これからの旅は過酷になるんだから」
あの日、王都から使いが来て、ぼくが勇者として魔王と戦う事になった。正直言えばあまり受けたくない。でも、受けないと故郷の村が焼かれてしまうかもしれない。あの王様はそれをやる奴だ。自分の村だけではなく、旅した間に出会った人々にも迷惑がかかるかもしれない。
「だいたい、召喚したはずの勇者が魔王を倒してくれれば良かったのに」
確かに勇者召喚の儀が行われて、異世界から勇者が降り立ったはずだが、その勇者は旅に出て魔王軍と対峙したものの、四天王最弱の奴に負けて這う這うの体で逃げ出したらしい。
「魔王軍四天王のウェアウルフ、ガロンに負けるとはな。あの程度なら我が食いちぎれるぞ」
フェンリルのブランが勇ましげに吠える。うん、確かに魔王軍の四天王、まとめて相手にしてもぼくのパーティならなんとでもなるだろう。でも、ラビは連れて行けない。
「まあ、そうなんだけど、旅の間に何があるか分からないし、それに、ラビは元々戦闘の為のやつじゃないから」
「にゃんだかんだで斥候には役立ちましたけどね、あの子」
「そういやノワールと組んで斥候してくれてたな。これからは斥候役は頼むぞ」
「いや、別にいいんだけど、出来たらそこのフェニックスさんにも手伝ってもらいたいですにゃ」
ノワールがフェザーに水を向ける。フェザーは面倒くさそうに答えた。
「偵察とか性にあわねえけどよ、ご主人様がやれっつーならやってやるよ、なあ、ご主人様?」
「ちょっと新入り、離れなさい。マスターが迷惑してるのが分からないの!?」
「おお、怖い。そんなにツンケンしてると目元にシワがよるぜ?」
「妾のお肌は何時でもピチピチなのよ!」
フェザーとブリジットの言い合いがはじまった。喧嘩するほど仲がいいとも言うし、このままにしておこう。
「のう、主殿。ラビのやつはこのまま故郷に辿り着けるかの?」
「分からない。でもその辺の森で暮らせるならそれでもいいと思うし、帰りたいなら帰ればいいと思う」
本当はぼくが自ら故郷まで連れて帰って、故郷で放してやりたかったが、そういう訳にもいかない。魔王軍の侵攻は未だに続いており、今から前線に行かなくてはいけないのだ。そんな事、シルバー爺に言われなくても分かっている。
「やれやれ、このまま放っておくのもどうかと思うでな。息子にでも守らせるか」
「息子、ああ、あの子か」
「まあ不詳の息子ではあるが、それなりに鍛えてやった。ワシの願いを反故にはせんだろうて」
「ヴリトラ、頼めるか?」
「なんの、主殿は命令すれば良いのだ」
ヴリトラの言葉にぼくは苦笑した。何しろ命令することなんて慣れてない。テイマーらしくないと言ってしまえばそれまでだ。お願いは何度したけど、頭ごなしに突きつけるのは言う方も気分が良くない。
「さあ、少し休んだら旅立とう。ラビとは反対方向だ。北へ。魔王軍が待ってる前線に」
「無論お供する」
「ついて行きますにゃ」
「あの、私の影が薄いんですけど」
「私もです。背景に同化するかと思いました。植物はツタしか生えてないのに」
「もちろん妾は共にあるぞ」
「うちもやねえ。まあうち一人で十分やと思いますけど」
「もちろんワシも従おう」
「この爺も及ばずながら」
「オレの身体はご主人様のモンだ。好きに使っていいぜ?」
「ふむ、この身が燃え尽きるまで従おう」
全員それぞれから答えが返ってくる。今からぼくらが行くのは魔王軍の居る戦場。これまでは避けてきたところだ。本当は戦いたくない。みんなとのんびり暮らしていたい。でも、それは許されない。だからこそ、せめて、ラビだけでも平和に静かに暮らして欲しい。それだけがぼくの願いだ。