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第79話:長いお別れ(未遂)

五行相克バトルが始まってしまった。

 一週間目が翌日に迫った日の夜、ぼくは晶龍君に呼び出された。


『話って何?』

「あのさ、ラビ、オレさ、出発を遅らせたいんだけど」

『遅らせる? ここに留まるの間違いじゃなくて?』

「ラビ! いや、その、そうしたいのはやまやまだけど」

『やまやまなんだ』


 ぼくはここぞとばかりに晶龍君をからかう。いや、悪意でやってるんじゃない。晶龍君の本音を聞き出す為だよ! 面白いだなんて……ごめん、だいぶ思ってた。


「うるせぇよ! とにかくあの怪しい男が出発するまで延ばしたい」


 怪しい男? ああ、一週間分の滞在費渡してたやつね。まあ普通の旅客には見えないよねえ。


「嫌な予感がするんだよ。それがなんなのか分かるまで、いや、分からなくても奴がこの旅籠から消えたらそれでいい」


 晶龍君は申し訳なさそうな目でぼくを見る。いや、別に寂しくないよ? ぼく一人だって故郷に辿り着いてみせるさ!


「そうか……すぐに追いつく。なんだったら邯鄲かんたんでゆっくりしててくれよ」

『あのさあ、晶龍君。ぼくは晶龍君が居なかったら単なるホーンラビットだよ? 街に入れる訳ないじゃない。せいぜい横を通り過ぎるくらいが関の山さ』


 どうも晶龍君はぼくがホーンラビットという事実を時々忘れてる気がするよ。こんな事で大丈夫なの?


『だから、ぼくは頑張って走って南へ行くよ。故郷の森を目指して』

「そうか。気をつけてな」


 どうやら腹は決まった様だ。晶龍君は残る。ぼくは往く。今生の別れとなるかは分からないけど、ぼく、晶龍君ほど長生きじゃないからなあ。


 うさぎの平均寿命は八年くらいらしい。……あれ? 過ぎてるなあ。ま、まあ、ホーンラビットはうさぎと違うからきっと寿命も違うんだよ、うん。


 その夜は今までにあったことを晶龍君と語り合ったよ。思えば遠くに来たもんだ。


 翌日、店の前でぼくは晶龍君と別れようとしていた。男の別れに言葉は要らない。黙って背中を向けるのが礼儀ってもんだ。


「あー、ここにいたんだね、ラビちゃん!」


 あ、ちょっと、リンファさん? ぼくはあの、今日ここから旅立つ予定で。


「みんな忙しいんだから外に出ちゃダメよ。わたしと遊びましょ!」


 ぎゃああああ! 別れ、男の別れが!


 そんなこんながありました。再びぼくは旅籠に連れ戻されたわけです。晶龍君とは気まずい感じになってます。まあ晶龍君のテイムモンスターみたいなフリしてたんだからこの状況は甘んじて受け止めるしかありません。


 で、ここんところずっとリンファさんと遊んでる訳なんですが、別に変なもの食わされる以外はそんなに不快でもありません。変なもの、っていうのはご飯のあまりのお肉なんですけど。


 いや、だってね、いっぱい食べてね!ってままごとで出してくるんだもん。なんで草にしないのかと問い詰めたかったけど、リンファさん的には一緒に食べたそうにしてたのでそういうことなんだろうなと。まあ肉の味もだいぶ覚えてきましたよ。そこまで不快ではないよね。


 旅籠に長逗留してるお客さんが出掛けるんだって。ここに来て何度か出掛けるのは見掛けてるけど何をしてるのかは知らない。街を見回ってる気がしてるんだけど。


 で、モンドさんがそれを尾行らしき事をしてるんだけど、やっぱり怪しいって思ってるのかな? モンドさんもぼくと一緒に行くと思ったのに晶龍君が留まるって聞いたら「しからば」とか言って自分も留まるって言い出したんだもん。邯鄲の方がお好みのムチムチ未亡人とか居ると思うよ?


 で、その日は長逗留のお客さんが出発する日になった。パイリンさんと晶龍君は夫婦めおとの様に見送りに出てる。


「最後まで出て来んか」


 男はそう言ったかと思うと手の内にあったものを晶龍君に投げつけた。いや、見た感じ手を広げたようにしか見えなかったと思う。でもぼくには見えたよ。なんか細い針の様なものを飛ばしたのは。


 もちろん晶龍君にもそれは見えてる。晶龍君はそれを無造作に掴んだ。


「なっ!?」

「やっとしっぽを見せやがったな!」


 晶龍君はそのままそいつに殴り掛かる。男は咄嗟に後ろに下がった。


「いつからだ? いつから私が怪しいと思われていた?」

「いつから? 最初からだよ! 探るような目付きをしやがって」

「くっ、気付かれていたか。では、死ね」


 今度は懐から紙を取り出した。表には何か難しい字が書いてある。いや、ぼくは字が読めないんじゃないよ! 難しすぎてよく分からないだけだ。それに必要も無いしね。


「符術!?」

「ちっ、やはり知っておるか!」


 どうやら晶龍君も知ってるもののようだ。


「炎よ燃え盛れ、火生符!」

「ちっ、水剋火、水気に命じて火気を禁ず!」


 符から火が出ようとした時、晶龍君は符に水をぶっかけた。あ、なるほど。字が読めなくなるほど滲んじゃえば術が発動しなくなるってことか!

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