第77話:裏切り者はだ〜れだ!
疑心暗鬼を生ず
そうして運ばれてきたのは薄暗い部屋。ぼくは晶龍君と一緒の部屋だ。周りには五人ほどの人員がいる。
「まずは名前からだ」
「……ショウです」
「出身地は?」
「こっから大分北のところだから国も違う」
「ふむ、お前はあの商人共の仲間か?」
「なんでだよ!」
「仲間なのか、と聞いている。はいかいいえで答えろ」
「いいえ」
晶龍君は不服そうな顔で話した。取り調べをしているおじさんは部下に何か合図を送っていて、二人の間だけで何かをやり取りしてるみたいだ。あの、そういう愛の交歓はぼくらの居ないところでやって貰えますか? ええ、男同士でもぼく達は別に偏見を持ったりしないので。
「なるほど、嘘はないようだ。よし、解け」
おや、おじさんが晶龍君にかけられた縄を解いた。自由になった晶龍君。その晶龍君に向かって、代表者のおじさんが頭を下げた。
「手荒な真似をしてしまい済まなかった。我々警備隊の中にもポンド商会と繋がってた奴がいて、誰が味方なのかわからんのだ」
「それとオレを取り調べるのとどういう関係あるんだよ」
晶龍君、地が出てるよ。いやもういいのかな?
「名前が偽名だと言うのは分かるが、そもそも歳も若そうだし、それならば偽名を使うこともあるだろうと思ってな」
「よく嘘だってわかったよな」
「ああ、こいつのおかげでな」
そう言って警備隊の隊員の一人が取り出したのは崩れスライムの進化系……ではなく、青く光る宝珠だった。
「疑心の宝珠。嘘に反応して赤く光る様になる。赤の濃さで嘘の度合いが分かるらしい。例えばショウ君、君の名前は恐らく元の名前にもある言葉をもじったものだろう。赤は薄かったからな」
そこまで分かるのか! びっくりだよね、晶龍君。ん? 晶龍君? なんで脂汗ダラダラ垂らしてるの?
『ラビ、あの宝珠、元々うちの宝物庫にあったもんだ。昔父上が地上で遊ぶ際に売ったとか言ってたやつだ』
えっ? あれ、ヴリトラが売ったの? あー、まあ、ヴリトラが成人の儀で諸国回る時に売ったのかもね。ろくな事しないなあ。
「まあ悪党に渡ってなくて良かった。取り戻せるように覚えとくか」
「今取り戻さないでいいの?」
「今だとラビとの旅を中断して持って帰らなきゃだから今度でいいよ。あと百年後とかでもいいんじゃね?」
長命種ってのはのんびりしてるものだね。その頃にはぼくは墓の下だよ。埋葬してくれる人が居ればだけど。
「それでオレたちの疑いは晴れたんだろ?」
「ああ勿論だ。次はあんたの仲間に質問させてもらう。同席するかね?」
「勿論だ」
モンドさんは隣の部屋に閉じ込められていた。いや、閉じ込められていたというのだろうか。呑気に丼メシを食べている。あれが古より伝わるカツ・ドゥーンなのだろうか?
「おお、ショウ殿にラビ殿。ご無事でしたかぁ。心配で飯も喉を通りませんでしたよぉ」
ちなみに丼もの三杯目である。お茶まで呑気に飲んでいるんだからたまったもんじゃない。
「では取り調べを始めよう。構わないかね?」
「もちろんだよぉ。オジサンか弱いからお手柔らかにねぇ」
この時点で宝珠がピカピカと赤く光っている。うん、まあ、知ってた。
「まずは名前からだ」
「モンドだよぉ」
赤く光る。えっ、偽名なの?
「出身地は?」
「いやあ風の向くまま気の向くまま。もう覚えてないねぇ」
また赤く光ってる。
「……お前はあの商人共の仲間か?」
「いんや。仲間じゃないねぇ」
青く光ったままだ。これは、商人と仲間というの以外は出身地も名前も嘘なのだ。
「こんなもんでいいかねぇ?」
「……怪しい点はあるが、商人の仲間では無いようだしな。しかし、本当の事を話していただく訳には」
「実はオジサンは某国の王子様なんだよぉ」
赤く光った。でも光り方が弱い? 嘘では無いけどまるっきり本当でもないやつだ。
「まあこの国の人間ではないねえ。これでいいかい?」
そこは青く光っていた。一体モンドさんは何者なんだろうか?
「あなた方は釈放させていただこう。今後大捕物になるから速やかに街から出て欲しい」
「なあ、あの旅籠はどうなるんだ?」
「商人が狙う何かがあるんだと思います。一度調べた方がいいかもしれません」
旅籠を調べる、となればその間は営業できないだろう。ここはぼくの必殺奥義、招きうさぎが火を噴くかな?
「まあ出来ればあの子たちにも取り調べを受けて欲しいんだが」
さすがに誘拐されてやっと姉妹水入らずになったのにいかつい男たちに囲まれて取り調べとか嫌だよね。
あ、警備隊の調べによると門番は半分が裏切り者だったらしい。裏切り者と言っても鼻薬を嗅がされて黙認する程度のやつばかりだったが。
なんだかんだあって、ぼくらは釈放されて旅籠に帰ることにした。




