第75話:効かぬ、効かぬのだ!
商人さんは全身マジックアイテムで身を固めています。
ハゲ頭。そして海賊らしいゴテゴテな服。あんなの着ててよく動けるもんだ。まあ海の貴族っていう言葉もある事だし、身だしなみには気をつけてるのかも。
口には葉巻タバコ。いや、船の中で吸うなよ。火事になっても逃げ場ないよ? 左手には手のひらが無くて鉤爪になってる。ワニにでも食われたんだろうか? いや、海にワニは居ないか。じゃあサメかなあ。
右手には何やら細い筒状の物を持っている。あれから火薬の臭いがする。爆発物?
ハゲ頭。でっぷりしたお腹。両手に指輪をギラギラと光らせている。足も遅そうで戦力になるのかは疑問点。ということは三対一だね! いいの、ぼくも戦力なの!
「ヒャッハー、とりあえず、てめぇから死んどけ!」
海賊は筒を晶龍君に向けた。何か出てくるの? パァンという音がして、筒からは煙が。そして晶龍君は蹲っている。な、何をしたんだ?
「早撃ちキッド様の手にかかりゃこれくらい朝飯前だ。さて、残るはお前だけだな」
そう言って海賊はモンドさんの方を向いた。あれ? ぼく戦力としてカウントされてない?
パァンパァンと爆発音が響く。モンドさんはまだ無事そうだ。なんだろう、攻撃してるのかは分からないけどモンドさんは前に出れないみたいだ。
「くぁ〜、痛ってぇ」
晶龍君がのんびりした声を出しながら立ち上がった。やられた訳じゃなかったんだね! まあそりゃあそうか。
「バカな! 銃弾を受けて立ち上がるなどと!」
なんかびっくりしてる海賊。商人はただオロオロしている。晶龍君がずいっと一歩踏み出した。
「聞くかよ、そんなおもちゃ!」
いや、おもちゃって、攻撃見えなかったし、晶龍君蹲ってたじゃん。まあ強がりは大事だから特に突っ込んだりはしないよ。
「死ね、死ね、死ね!」
海賊が晶龍君に向かって何やらカチカチパンパンしている。晶龍君はどうやら避けてるみたい。見えないのによく避けられるね。
「銃って言うんだろ? 筒の中で鉄を加速して撃ち出すやつ。筒を見てりゃどこに攻撃来るかなんて楽勝で分かるぜ!」
「な、なんだと!? ば、バケモノかっ!」
「誰がバケモノだ! ぶっ殺す!」
晶龍君は更に海賊に近付いていった。まあこのままにしておけば、隠し玉でもない限りは晶龍君の勝ちだね。
「あんたの相手は私が務めるよぉ」
モンドさんが商人さんの目の前に躍り出た。あ、これは本当にぼくの出番がないやつだ。全く。二人とも仕方ないなあ。
「大人しくお縄につかれよ!」
そう言って剣を振り上げたモンドさん。その身体がピクンとなってそのまま倒れてしまった。えっ、何事?
「バカめ! このポンド・ルードがそう簡単にやられるものかよ。この指輪は単なる装飾品では無い。魔道具よ!」
商人はつかつかとモンドさんの所に歩いていき、靴の裏をモンドさんの顔に踏んで押し付けた。
「ぐううううう」
「いい悲鳴だ。もっと聞かせてもらおうか。おっと、先にあっちを片付けてからの方がいいですかね?」
すうっと商人が右手の人差し指を晶龍君に伸ばす。味方に当たることは考えてないのか、それとも巻き込んでも構わないと思っているのか。
「くたばれ!」
止めなきゃ! 晶龍君があれを食らったら隙を晒しちゃう。そしてあのかわしてる筒みたいなやつで殺されちゃうかもしれないんだ。
ぼくは走った。何としてもあの攻撃を当てさせないように。ぼくが代わりに受けてやる!
指輪から雷撃の様なものがほとばしる。ぼくは懸命に走った。光の速さで、とはいかないまでも音の速さくらいなら拮抗できるはず。いや主観でだけど。
ぐぎゃっ、当たった! くうう、我慢だ、我慢。痛くても負けないぞ。男は我慢だ。度胸だ。ハードボイルドだ。あ、半熟卵とかあります?
あれ? なんか痛くないんだけど? 何事かな? それどころかなんか力が漲ってきた。もしかして船長にかける強化魔法をぼくに掛けたのかな?
「バカな! なぜ、雷撃の直撃を受けておいてピンピンしておるのだ!」
あ、雷撃だったんですね。まあ雷に打たれるのって初体験なんでまさか自分が効かない体質だなんて思いませんでしたよ。
「ならばこっちだ! 炎よ!」
今度は中指から燃え盛る火球がぼくに放たれた。当たったら熱いよね。燃えちゃうかも。炎上するのは苦手なんだよ。熱いし。
とか考えてたら火球が目の前に迫ってて、ぼくは避ける事も出来ず直撃……したはずだった。なんともないんですよ。さすがに火はやばいかなって思ってたけど思ったより熱くないし、またなんか回復した感じ。
「ひいい、風よ、氷よ、光よ!」
その後も商人はぼくに手を突き出して来るけど全部ぼくには効いてない。海賊も晶龍君もポカンとなって眺めている。仲良いんだね! じゃあ反撃、ぼくのばんだよる




