第73話:ポンド商会を追って
ラビ君はマスコット
その五本のしっぽを持った美女と言って差し支えない人はぼくを見ると跪いてきた。
「ラビ様におかれましては、葛葉様のご友人であられたのですね。最前迄の無礼、平にご容赦を」
いやいや、あの、ぼくはなんにも偉くないから! 葛葉がどれだけ偉いのかは分からないけどそんなの関係ないから。
『あの、篝火さん、顔をあげてください。ぼくは、ぼく自身は大した魔物ではないので。ホーンラビットですし』
「いえ、ただのホーンラビットでは無いと思っておりました」
困ったなあ。ねえ、晶龍君。あれ? 晶龍君?
「あん時はわかんなかったけど、あんなに化け物だったのか……」
呆然としてる晶龍君。葛葉がなんかご迷惑をかけたみたいで。いや、ぼくは保護者じゃないんだけどさ。
「ラビ君、ありがとね。篝火を助けてくれただけじゃなくてしっぽまで増やしてもらって」
へっ? しっぽ? そういえば五本に増えてるとかそんな事もあったっけ。
「わっちら妖狐の一族はの、格があがるほどしっぽが増えていく、いきます」
無理に敬語とか遣わなくていいから! しかし成長と共にしっぽが生えるの?
「本来なら厳しい修行と魔力補充がないと増えへんのんやけど、葛葉様の術の余波で増えるとはねえ」
しみじみ言っているが葛葉の術って歩いただけだよね? そんなんで解除出来たのも不思議な話だ。
「ラビはんには見えへんかったんかもしれへんのやけど、葛葉様の魔力は荒れ狂うとったよ?」
えつ、うそ。ほくなんにも感じなかったよ。うーん、やっぱりぼくには魔法は無理だというのは自然なことなのかなあ。篝火さん、ありがとうございました。
「礼はええよ。こっちが一方的にお世話になったんやからな。それよりも誘拐犯何とかせんとあかんやろ」
そうか、誘拐犯。ぼくとリンファさんは誘拐犯に攫われたんだっけか。
そうこうしてたらモンドさんがパイリンさんを連れて帰ってきた。
「リンファ!」
「お姉ちゃん!」
二人はお互いを抱きしめてわんわんと泣いていた。感動の再会というやつだ。
「もう少し遅れていれば攫われていたねぇ」
「はい、モンドさんにはとてもお世話になって」
「いいよぉ、そんなの。可愛い女の子を助けるのはオジサンの使命だからねぇ」
しかしまあパイリンさんも攫いに来てたのか。これはいよいよもって撤収準備かな?
「急がねえとあいつら別の街に逃げちまうぞ」
いや、ぼくは別にその辺はどうでも。でもまああいつらにお返しはしたい。という事で、いざ、ポンド商会へ!
マリエさんはパイリンさんやリンファさんと一緒に森の中で攫われた子供たちのお世話をする事に。食料は晶龍君がデカいイノシシ狩ってきてくれたから大丈夫。解体はマリエはんもパイリンさんも出来るんだって。
ぼく、晶龍君、モンドさんが殴り込み班。ぼくは留守番したら?ってみんなに引き止められたんだけど、晶龍君が一緒に行くって言ってくれたので同行。
ポンド商会は街中のそこそこ大きい商会だ。食料品だけでなく嗜好品、骨董品まで取り扱っている。食料品と言っても一般的な穀物ではなく、珍しい食い物だ。
「邪魔するぞ!」
モンドさんが乱暴に店に入る。晶龍君はぼくを抱っこして後に続く。店の奥から雑魚共たちがどんどんと出てくる。中にはぼくらにご飯を持ってきた人もいた。
「誘拐の容疑でお縄だよぉ」
「いや、ぶちのめしに来ただけだから」
モンドさんと晶龍君のやり取りにぽかんとしながらもそのまま襲いかかってくる。尺の都合で省くけど、戦闘は殆ど時間がかからなかったよ。
「おい、首謀者はどこにいる?」
「し、知らねえっ」
「じゃあこいつは首落として次に行こうかぁ」
「まっ、待ってくれ! そ、その、主は船に積荷を載せる為に港へ」
御宇の街には港は無い。少し離れたところに小さな漁村があるのだが、そこを根城にしてるらしい。
「今から出て間に合うか? まあやってみるしかねえな!」
晶龍君はそう言うと港に向かって走り出した。あ、抱えなくていいからね。ぼくも速いんだから。
日が暮れる頃になっても港は見えない。このまま走り続けるべき? 休むべき?
「当然走るぜ! ラビ、待ってていいぞ」
「なんならオジサンが運ぼうか?」
いや、晶龍君が行くって言うなら暗くなったあとも進もうじゃないか。夜闇に紛れた方が夜襲とかできそうだし。
暗い中を走っていったら波の音がした。きっとここがその漁村の隠し港なんだ。よく見ると沖合に一隻、大きい船があり、灯りが煌々とついている。
「くそ。あそこまで行かなきゃ」
「やはりボートですかな?」
そう言うと二人はこっそりとボートに近づいて乗る順番待ってた雑魚共をぶちのめした。夜の海に船を出す。ところで誰かボート漕げるの?




