第72話:葛葉降臨
北斗七星の異名の読み方についてはネーミング辞典を参考にしました。廉貞は「れんてい」だと思ってたんだけどなあ。
改めて、糸目のデカ胸狐こと、葛葉……痛っ、いたたたたたた! なんで握る力を強めてんの?!
「ラビ? いけず言うたらあかんよ?」
怖い怖い! 笑ってるのに目が笑ってない! 細くて見えないけど、絶対笑ってない!
『く、葛葉様におかれましては』
「ええよええよ。しかし篝火が主を得るとはねえ。おもろいことになりそうやわ」
『おもろい?』
「天空狐が拗ねよるやろうなあ。ああ、顔見に行きたいけど、うち今テイムされとるから自由がないんよねえ」
そうだよ、葛葉はグレンと一緒なんでしょ? なんでここにいるのさ。大変なんじゃないの?
「せやなあ、なんや四天王がどうとか言うとったからなあ」
やっぱり大変なんじゃないか。まあ他の人もいるし大丈夫とは思うけど。
「かまへんよ。前の四天王とかいうのもブランが噛み殺した言うとったしなあ」
まあブランならそれくらいは出来るでしょ。いや、四天王ってそこまで弱いの?
「さて、お話は後からでも出来るからね。ちゃちゃっと篝火の首輪外そうか」
『! お、お願いします!』
「その前に約束しい」
『なんでしょうか?』
「主に自分を捨てろなんぞ言わん事や。簡単やろ?」
葛葉はニヤリと笑った。一体いつから話を聞いてたんだろう? 篝火さんだって捨てて欲しくて言ったわけじゃないって分かってる。
「その考え方はいずれ自己犠牲に繋がるんよ。ピンチの時に自分が犠牲になればいうて安易に考えよる。それがあかんのんや」
ああ、そうだ。自分を捨てて逃げて欲しいと思ったことなんて何度もあった。だけど、グレンはそれをことごとく乗り越えてきた。
「諦めたらそこでゲームオーバーなんよ。足掻きい。生きるための方策を思考しい」
『承知!』
葛葉は満足そうに頷くと、地面に何やら星の様な図形を描き始めた。なんだろう、落書き?
「さあ、篝火。中入りい」
『は、はい!』
中央部分に座る篝火さん。葛葉はその周りをなんだか変な歩き方で回っている。なんか酔っ払いの千鳥足みたい。
「貪狼、巨門、禄在、文曲、廉貞、武曲、破軍!」
歩きながらよく分からない単語を言ってる。葛葉って時々よく分からないことやるよね。
「七星歩法、反閇!」
ビシッと葛葉がポーズを決めると星型の中央に座っていた篝火の首輪がパキンと割れて地面に落ちた。
『おお、おおお』
「篝火、主様はええの?」
篝火さんが呆然とした顔を葛葉に向けると篝火さんは首をマリエさんの方に回した。マリエさんは目に涙を溜めながら、篝火さんに走っていって思いっきり抱き締めた。えっ、入ってもいいの? この魔法陣みたいなの?
「あれはな、歩法に意味があるんよ。魔法陣はそれを集約させる為の目印やねえ。まあ何でも良かったんやけどそれっぽいやろ?」
得意げにドヤ顔をキメる葛葉。まあわざわざ来てくれたのは感謝するよ。
『葛葉、それよりもグレンの所に戻らなくていいの?』
「ええんよ。しばらくは空中戦みたいやからなあ」
『葛葉飛べるよね?』
「せやけど飛行戦力ぎょうさんおるやん?」
空飛べるのはマリー、ブリジット、ヴリトラ、シルバー爺、イフリートのおじちゃん、それと新しく入ったフェニックスの人。半分が飛べるや。なるほど。ってまたエリンはお留守番なんだね。
「そのうちエリンも来たいって言うとったよ」
『あの、ぼく、パーティ抜けたよね?』
「せやなあ。グレンにテイムされとらんでも、みなラビが好きなんよ」
『だったらぼくも一緒に』
「それは、あかんのよねえ。それよりも魔法、使いたいんやて?」
何がダメなのかは分からないけど葛葉は間違ったこと言わないからきっと弱いぼくが悪いんだろう。だから魔法を覚えればもう一度グレンの所に戻れるかなって。
「まあ、正直言うたら今のあんたやったら無理やね」
『ずぱって言うね!』
「ハッキリ言うたらんと変な望み持ってまうやろ?」
『ううっ、それはそうだけど』
「まあ、「目覚め」たら分からんけどなあ」
『目覚めたら? ぼく寝てないよ?』
こうやって時々訳の分からないことを言う。ミステリアスなのは女の魅力とか言うけど、正直、怖いだけだからね。きっとグレンもそう思ってる。
「ほな、そろそろ名残惜しいけど、帰りますわ。ラビ、元気でやるんやで」
『ありがとう。グレンに、いや、いいや。頑張ってね』
「ほなな」
葛葉はぐりんと手で円を描くとそこがぐにゃりと歪んで、その中にゆっくりと鈴の音を響かせながら歩いていった。
ぱっと辺りを見回すと、終始ポカンとした晶龍君と、マリエさんと抱き合ってる大人の女性。あれ? でもしっぽが五本生えてる。もしかして篝火さん?




