第71話:可愛いしっぽが見えてるよ
天空狐は天狐+仙狐+空狐ぐらいですね。九尾の事を天狐と呼ぶ説もありますがここでは別物にしています。
パイリンさんが旅籠に戻ったという事で、二手に分かれて迎えに行く。迎えに行くのはモンドさんに任せた。ぼくらはこのまま街の外へ。マリエさんは馬を操るのに必要だし、晶龍君は万一の時のボディガードだよ。
「では、行ってくるよぉ」
モンドさんはひらりと跳び降りて、そのまま走っていった。かなり速いな。ま、ぼくほどじゃないけどね。でもなかなかいい線いってるよ?
「この辺りか?」
「そうですね。少し開けてますし、川もありますから水が飲めます」
「じゃが水場には先客がおったりするのよなあ」
そうこうしているとのしのしと大きめのクマが歩いてきた。ある日、森の中、くまさんに、であった。こういう時どつするんだっけ? 木に登る? 死んだふり? 背中を見せて一目散に逃げる?
『キサマラ、ココハ、オレサマノナワバリダ』
「な、なんか怒ってません?」
「縄張りだから出て行けみたいに言ってんなあ」
「ひっ、早く逃げましょう!」
マリエさんはオドオドしながら後ずさっている。ええと、どう考えてもこの場でこのクマは晶龍君、首輪を外した篝火さん、クロちゃんさん、よりも弱いよね。
『くっ、首輪さえ外れておれば!』
「篝火、さがってて。危ないから」
『マリエこそさがらんか。この中でやられて死ぬ可能性があるのはお主だけじゃぞ?』
いやいや、篝火さん? ぼくはホーンラビットだからあんな大きなクマにやられたら一溜りもないですよ?
『チャバンハオワリカ?』
クマは後ろ足を地面に突き立て、上体を起こした。これは威嚇しているのだろうか? 確かに後ろ足で立ち上がったクマは大きいよ。三メートルはゆうに超えている。あの鋭い爪で振り下ろしの右なんかかまされたら上半身が無くなっちゃうよ。ラ/ビ、だね。
「ちっ、じゃあねえなあ。オレがやるよ」
「えっ? ショウ君危ないよ!」
『良いんじゃよ。あやつなら大丈夫じゃ』
「大丈夫って、そんな」
晶龍君がクマの前に出た。振り下ろしが来る。晶龍君は容易くそれを受け止めるとクマの右腕はビクともしない。
『バカナ!? コンナチビニ?!』
「それは余計だ、馬鹿野郎!」
晶龍君は殴ってきたクマのてを握り潰して無理やり跪かせた。
『グルルル、ナニモノダ?』
『古龍が一族、ティアマトの息子、
晶龍だ』
『ナッ!? 古龍ニ喧嘩ヲ売ッテオッタカ』
マリエさんはポカーンとしている。まあそうだ。自分と同い歳くらいの男の子がとても強かったのだ。それも自分のテイムしてる子たちよりも。
『イイダロウ。殺スガイイ』
『いやいや、殺しゃあしないよ。ちょっと休んだら出て行くから』
『ソウカ。自由ニ使ッテクレ』
そう言うとクマはゆっくりと去ろうとした。
「待って! あの、あたしのお友達になってください!」
マリエさんがクマに向かって叫んだ。
『悪イナ。妻ト子ガイル』
どうやら妻帯者だったみたいだ。そりゃあ威嚇して倒そうとしてくるわな。例え勝てなさそうでも。
「なあ、とりあえずどうすんだ?」
「出来ればわっちの首輪を外して欲しいんじゃがなあ」
「無理無理。母上とか親父なら何とかなるかもしれないけど」
ヴリトラは力尽くで壊しそう。いや、魔力がこもってるみたいだから下手に壊すと篝火さんの身体が傷付いちゃったりすんじゃないかな?
『口惜しい。この程度の首輪で手も足も出んようなるとは』
「篝火……」
『マリエ、わっちを捨てるがいい』
「え?」
『今後の旅にはわっちはついていけぬよ』
「いやだ! 篝火と一緒がいい!」
マリエさんはわんわん泣き始め、篝火さんは困った顔をしている。ああ、こんな時誰かがサッと来て助けてくれたりしないかなあ?
シャンシャンと鈴が鳴る音がする。どこかで聞いたことある様な。空間がぐにゃりと歪んでそこから巫女服姿のナイスバディな女性が現れた。頭の上には耳が生えていて、しっぽは九本。開いてるのか開いてないのか分からない細目のニヤケ顔。足元は下駄を履いていて、そこに鈴がついていた。
「いややわあ、そないな時は誰でもええから、やのうて、うちに助けを求めるもんやで。なあ、ラビ」
『葛葉ぁ!?』
「せやせや。ラビ、あんじょうお利口さんにしとったか?」
そう言うと葛葉はぼくを抱え上げて、その豊満な胸の谷間にぼくの顔を押し付けた。いや、それ、窒息するから!
『く、くくくくく、葛葉様ぁ!?』
「篝火やったな。えらい大きゅうなったねえ」
「あ、あの、お姉さんは篝火のお知り合いですか?」
マリエさんが恐る恐る聞いてくる。葛葉は楽しそうに微笑んだ。
『そらなあ。天空狐の秘蔵っ子って言われとった俊英がこないなところおったら声もかけとうなるよ』
いや、答えになってないよ? というかその天空狐とかいう人は葛葉のなんなのさ。あ、それとグレンはほっといていいの?




