第7話:再びの別れ
スーパーマンミネルヴァはここまで。
ぼくは出来るだけ穴の中で粘ることにした。いや、こうしていてもどうしようもないのは分かってるんだけど、出たら直ぐにやられちゃうからね。
「オラオラ、隠れても無駄だぜ?」
「へっへっへっ、逃げられねぇよ、てめぇはよ!」
「観念するこったな。まあ痛いのは一瞬だと思うぜ、知らんけどよ」
本当に殺す気満々でぼくを待ち構えている。このままだと外に出られなくてアウトだ。穴の中に草でも生えてたら持久戦に持ち込めるんだろうけど……いや、ダメだ。あいつらは交代で見張ることが出来る。
「うおっ、なんだ!?」
外からハイエナの切羽詰まった声が聞こえた。なんだろう、新手の肉食獣かな?
【side草原(第三者視点)】
ハイエナが巣穴に群がって吠えたてていると、その頭上を影が覆いました。
「こんなところで何をしているのかね?」
「ひっ、も、森の」
「落ち着けよ、ここは森じゃねえ。オレらは餌を捕らえているところだ。あんたにゃあ関係ねえだろ?」
「お主らが追っておるのは子うさぎ、それも角の生えた奴じゃろ?」
「なんだァ? 獲物の横取りは許さねえぞ」
シルバーがフクロウを睨みつけます。フクロウは大きく笑いました。
「そのうさぎには私が風切羽を渡したのです。むしろ横取りしているのはキミたちの方ですよ」
「戯言を。森の中じゃねえなら隠れる場所もねえ。あんたに負けるとでも思うか?」
「そうだそうだ、アニキ、やっちゃえ!」
「オレがこいつを抑える。お前らは逃げられねえように穴見張っとけ」
シルバーはぐるると吠えるとフクロウに飛びかかります。鋭い爪がフクロウを襲います。ズバッと羽根を切り裂いて、シルバーは着地しました。
「アニキ!」
「ああいう空飛んでるやつは先ずは羽根を狙うんだぜ。大きさが大きい方が狙う的が大きくていい。飛べなくなったら勝ちだ。ビビんじゃねえよ」
「ほう、狙いは悪くない。だが、相手が悪かったんですよ」
フクロウはシルバーの爪の一撃を意にも介さずという感じで羽ばたきを始めた。
「森の中なら隠れることが出来ない? 確かにそうですな。だが、キミたち相手にそもそも隠れる必要なんかないのですよ」
フクロウは空に舞い上がると、ものすごいスピードでシルバーの背中を捕え、そして空へと上っていきます。
「なっ、なんだこりゃ!? お、おい、放せ、放しやがれ!」
シルバーが上空でもがき始めました。カッパーもブロンズも呆然と見ています。
「望み通り放してやる。心配するな」
フクロウは足で捕らえていたシルバーを上空で放した。そのまま落下していくシルバー。
「ちっ!」
シルバーは咄嗟に背中から落ちて衝撃を和らげました。
「ほう、上手く生き残ったか。だがこれは序の口だがな」
横になって上手く動けないでいるシルバー目掛けて、上空から数多の水の弾丸が降り注ぎます。シルバーは避ける事も出来ず、まともにその弾をくらい続けました。
「あ、アニキぃ!」
「ばか、やめろ。お前までまきこまれるだろうがよ」
「だってだってちい兄貴」
「どれ、こんなもんじゃろう」
叩きつける水弾が止むと、そこにはボロボロになったシルバーが横たわっていた。
「アニキ……」
「キミたちもこんな風になりたいかい?」
「なりたかねえ、だけど、アニキの仇は取らなきゃだろ?」
次はカッパーが立ち塞がった。その足はブルブルと震えている。
「やめ、ろ、カッパー、ダメだ。戦うな」
シルバーが息も絶え絶えにカッパーを止めた。戦力的には正しいのだろう。
「フクロウの、旦那、すまなかった、もう、そこのうさぎは、狙わねえ」
「そうかい。ならばキミたちと敵対する理由もなくなったな。さあ、立ち去りなさい」
カッパーとブロンズに両側から支えられ、シルバーは森へと消えた。
【sideラビ】
外の喧騒が消えた。どうなったのかと恐る恐る顔を穴蔵の外に出してみると、ギョロリとした目玉が覗いていた。ぼくはこの目玉をよく知っている。
「ミネルヴァさん」
「無事だったようで何よりだ」
「また、助けられましたね」
「無論だ。守ると約束したからな」
そうして、ぼくはミネルヴァさんの羽根に抱かれてぐっすりと眠った。
翌朝、再びの別れだ。もう会えないと思っていたのが会えたから少し気恥しかったし、心強かった。
「ここから先は滅多に来れんからな。もう助けてはやれんぞ。あと、街はきちんと迂回する様に」
「はい。色々ありがとうございました!」
ぼくは街を迂回するように走り出した。走る前にぼくの身体を水魔法で洗って風魔法で乾かしてくれた。どうやらハイエナたちには臭いを辿られたらしい。ぼく、そんなに臭うかな?
ミネルヴァさんは太陽を避けるように森の中へと飛び入って行った。また会えるかなあ?