第68話:いそいそと移送するのに忙しい
脱出する前に連れ出されました。魔力は不発です。
ぼくが篝火さんから魔力の使い方を習ったんだけど、見えないものが見えないとダメらしい。見えないもの、魔力だ。篝火さんの言うことには魔力を使える魔物はみんな見えるんだとか。
『む? 丁度いい、見えんなら見えんなりにやり方はあるもんじゃて』
篝火さんがそう言ったらカツンカツンと誰かが降りてくる音がした。恐らく食事を運ぶために奴らの仲間が来たのだろう。
『わっちはこの通り、首輪を嵌められておるでな。お主なら警戒されておらんから何とか出来よう』
ぼくも一応足に鎖を付けられているんだけどね。魔力を阻害するようなものは無いみたい。まあホーンラビットだもんね。
「オラァ、ガキども! 食い物だ。しっかり食っとけよ」
こいつはご飯はちゃんとくれる。嫌がらせみたいに泥まみれとかにしたりしない。人数分かは分からないがパンを運んでくれるんだ。品質保持のためとか何とか言ってたけど。
『今じゃ!』
『ええっ? ええと、ええいっ!』
ぼくは去っていこうとする男の後頭部目掛けて、思いっきり両前足を突き出した。何も起こらない。
『ダメなようじゃな』
『ごめんなさい』
『謝る必要などない。さてと、腹ごしらえしてから脱出の手段を練るかの』
そう言うと子どもたちが手に取った後のパンを篝火さんも食べ始めた。ぼくはパンとか苦手なんだよね。元が小麦だから食べられないことはないんだけど、どうも歯ごたえというか葉脈が足りなくて。
ぼくはご飯を食べないでゆっくりしていたらなんかみんながこっくりこっくりし出した。あ、もしかして今のパンに眠り薬が!? おなかいっぱいで眠くなるのは分かるけどおなかいっぱいになるほどなかったもんね。これは、ぼくも寝たフリしないと!
しばらくすると再びカツンカツンと降りてくる音。しかも今度は複数だ。
「薬が効いたみたいだな」
「そうっすね。これで運びやすくなりましたね」
「ああ、嗅ぎ回ってるやつがいるみてえだからな。他の街に移送した方がいいだろう。出荷の手配は出来てっか?」
「はいっす。バッチリっす」
「よぉし、じゃあ積み込め。なるべく丁寧にな。商品なんだから傷付けたらお前らに損失補填してもらうぜ」
頭の禿げ上がった男がキョトンとした顔をしていた。
「おやびん、そんしつほてんってなんですか?」
「……弁償ってことだ。その分はお前が金払え」
「金払ったらもらっていいんですかい?」
「バカか? 損切りで売るに決まってんだろ。じゃねえと気に入ったやつをわざと傷付けようとするだろうがよ」
「うへぇ」
ハゲ頭は渋々と女の子を選んで運んで行った。こいつ、ロリコンか? いや。男の子の数は少ないからなあ。ぼくともう一人ぐらいしか居ない。
運ばれて外に出ると商人の乗ってる馬車が用意されていた。後ろがカーテンで閉じれる様になってるやつ。ここから飛び出せば脱出は出来るけどぼくの足には未だに鎖が巻かれたままだ。
「止まれ!」
門のところで衛兵が馬車を止めて来た。やった! これでぼくらは解放される。悪人どもめ、やはり悪は滅びるんだ!
「これはこれはお役人様。いつもご苦労さまです」
「お前らは?」
「ポンド商会のものですよ。今から仕入れでしてね。中には何も入ってねえです」
「本当だろうな? 調べさせてもらうぞ」
よし、これで大丈夫だ。きっと見つけてくれて捕らえてくれる。
「どれどれ?」
中をのぞき込む衛兵さん。ぼくが見つかっても言い逃れされちゃうかもだから子どもたちが見つかった方がいいよね。引っ張り出しておこう。
「おっ、ふむ、異常なしだな」
えっ!? あの、ちょっと? 今明らかに動いたでしょ? というか中に入って荷物一つ一つ調べたりしないの?
「そうですか、へへっ、ご苦労さまです」
チャリンチャリンと音がした。もしかして賄賂? はじめからこいつらとグルだったのか? ということはこれは誰かに見られた時用の茶番なのかな? 街の外に出られたら手出し出来なくなる。
「ちょいと待ちなぁ!」
誰かが馬車の前に立ったみたいだ。あれ? この声は……
「荷を改めさせてもらえんかねぇ」
「はあ? なんの権利があってそんな事を言ってんだ? こっちはちゃんと門番のチェック受けてんだぞ? ポンド商会に逆らう気か?」
「間違いないです、篝火はこの中に居ます!」
別の女の子の声が聞こえた。篝火さんの事を呼び捨てにしてるからきっとこの子がマリエさんとかいう人なんだろう。
「そうかい。拒否するなら力尽くでも改めさせてもらおうかねぇ」
「てめぇ、たかが一人とガキどもだけでオレたちの前に立ち塞がろうってのか?」
「うるせえ! オレのトモダチを返しやがれ!」
晶龍君だ。あの、ショウ君の丁寧な喋り方はもう放棄したの? すぐバレるのどうかと思うよ?




