第66話:ああ、明日の今頃はぼくは檻の中
ひとつの牢屋に入れられています。部屋数はないので。まあ入れていたものが大きかったので檻はデカいんですけど。
騒ぐリンファさんが気絶させられて、男たちの魔の手はぼくにも伸びてきた。ぼくは助けを呼ぶべくきゅーきゅーと一生懸命叫んだが、その声は外に届くほどではなかったらしい。うさぎは大声出さないからね。苦手なんだよ!
「大人しくしろ! さもないとぶっ殺すぞ!」
「まあ待てよ。赤いホーンラビットなんて希少じゃねえか。売っちまおうぜ」
「それもそうか。よし、大人しくさせるために二三発殴りつけるか」
痛いのは良くないと思います。暴力反対! というかリンファさんが捕まってるのにぼく一人逃げるのはどうかと思うよね。ここは大人しく息を潜め、機会を待つ!
「おっ、大人しくなりやがったようだぜ。まるで人の言葉が分かるみたいだ」
「ばーか、ホーンラビットにそんな知能ねえだろうがよ」
散々バカにしてくれてるけど、ホーンラビットだってそれくらいの脳はあるんだよ、多分。
こうしてぼくはリンファさんと一緒に攫われてしまった。きっと大丈夫。直ぐに晶龍君とモンドさんが助け出してくれるさ!
そうして運ばれてきたのは郊外にある貴族の別荘跡。建物は崩れかけている。元々は貴族が狩猟とかそういう目的の為に建てたんだろう。持ち主がどうしてるかは知らないが、こいつらがここにいるというなら所有権は放棄してるんだろう。
「おら、入ってろ!」
ぼくとリンファさんが連れてこられて入れられたのは地下の牢屋。って貴族の別荘に牢屋なんかあるの? 実はここは貴族の別荘なんかじゃなくて監獄? でもそれなら地上部分が屋敷なのは不思議すぎる。
ふと周りを見るとぐすぐすと泣いている子どもが数人いる。足には鎖が付けられていて、あれでは動けないだろう。首輪を嵌められている犬や猫もいる。おまけに狐までいる。ん? 狐?
『あの、お話し出来ますか?』
『なんじゃお主、赤いホーンラビットとは面妖な。しかもわっちの言葉が分かるじゃと?』
『ああ、はい。知り合いにも居たので』
『なんじゃと!? お主は妖狐の一族の知り合いがおるのか?』
『ええ、まあ離れて久しいですけど。あ、ぼくはラビって言います』
『そうか。わっちは篝火という。まあこんな場所でなければ喜べた出会いじゃろうが』
妙に偉そうな狐。どうやら妖狐の一族なんだそうな。どことなく葛葉と似てるかな。まあしっぽの数は違うんだけど。あれは強くなると増えていくのかな?
『篝火さんはどうして捕まったの?』
『祠の供え物を食ったら腐っておって腹痛で苦しんどる所を捕まったんじゃ』
案外アホな理由だった。食い意地張りすぎてない? いやまあお腹空くのは苦しいからわかるけど、葛葉は特になんも食べなくても平気そうだったよね。……お酒はすごい飲んでたし、油揚げは引くほど食べてたけど。
『お主は?』
『旅籠? 宿屋で留守番してたら捕まって』
『なんと、押し込みまでやりよったか。こりゃあそろそろ別の国に逃亡するつもりかもしれぬなあ』
別の国? それって晶龍君と離れ離れになっちゃうって感じ? いやだなあ。なんとかここから抜け出さないと。
『のう、ラビよ。お主、首輪はつけられておらんのか?』
『首輪? ああ、うん、まあぼくにつけても仕方ないんじゃない?』
『なんと愚かな……わっちよりもかなり多い魔力を持っておるのに』
その言葉にぼくはとてもびっくりした。ぼくに、魔力? 単なるホーンラビットのぼくに?
『あの、篝火さん』
『なんじゃ?』
『ぼくに魔力の使い方を教えて貰えないかな?』
『ふむ?』
ぼくは真剣につぶらな瞳で篝火さんをみた。これぞ愛FULL拳奥義!
『そうじゃな。牢屋の中でわっちの出来ることなど知れとるし、それもええかもしれんな』
あんまり効いてる気がしないでもないが、要求は通ったので結果オーライだ。
ふと檻の中の子どもたちを眺めていると、ぼくと篝火さんが話しているのを興味深そうに見ているようだ。姿を見ればぼろを纏っている。奴隷なんだろうか?
地下にあるからかここは少し冷える。毛皮のない人間には寒さは堪えるだろう。ぼくは篝火さんと相談して子どもたちを一箇所にまとめて、ぼくと篝火さんの毛皮であっためた。
それを見ていた犬や猫たちも身を寄せに来たみたい。まとまれば暖かさは増すのだ。
『さて、魔力を使うには体内の魔力を感知せねばならん。どれくらいの魔力量を保持しておるかは何となくで分かるもんじゃ。わっちが実演出来んのが歯がゆいところじゃが』
篝火さんに言われるがままに体内の魔力を感じ取るように頑張ってみる。ふおおー、燃えろぼくのコスモよ! ……コスモって何だ? アフロヘアー?
体内にあるものは分からない。血液なら流れてるのわかるんだけどな。早々にぼくは諦めざるを得なかった。具体的に何をどうやったらいいのか分からなかったんだもん。




