第64話:御宇(ぎょう)の街
勧善懲悪。小さい頃は「完全」「超」「悪」だと思ってました。
多少低めの市壁を通り、門をくぐるとそこは街だった。まず目に入ってきたのは宿屋通り。旅してきて真っ先にここに入るからそこで旅人を確保するためらしい。旅人の方も、長い滞在ならば一旦腰を落ち着けて街に繰り出した方がいいに決まってる。
一緒に来た商人さんは「何かあったら」と自分の店を教えてくれた。モンドさんや晶龍君が強いから確保しておきたいと思ったのかもしれない。
宿屋通りの両端にあるのは普通の宿屋。奥に行くほど立派になってきている。その中に一つ、ぽつんと建っている宿があった。
あばら家、などと言ったら的確だろうか。今にも崩れそうなほどの外見をしている。なんか大変だなって思っていたら、そっちからガシャンと音がした。
視線が一斉にあばら家の方に向く。見ると姉妹なのか母娘なのか分からないが、小さい女の子を小柄な女性が庇っている。周りにいるのはゴロツキども。顔からしてモブトループって感じ。
「オラァ! さっさと出て行け!」
「い、嫌です。ここはお父さんの残してくれた大事なお店、あなた方に渡す訳には」
「なんだと? 痛い目に合わないといけないみたいだな」
モブトループの内の一人がニヤリと笑って手に持った棍棒を女の人の背中に振り下ろそうとした。
瞬間、ぼくの隣に居たモンドさんの身体がブレた。あっという間にモブトループたちのところに立っていて、刀を抜き放っていた。ゴトリと音がして棍棒が切り落とされていた。
「ひっ!?」
棍棒持っていたモブトループは腰が抜けたのかその場にしりもちをついていた。他の奴らも一歩も動けない。
「すまぬなぁ、この様な真似は嫌いなのでなぁ。ついつい手を出してしまったようだよ」
「ひっ、ひっ、ひぃ〜〜〜〜〜〜〜!」
「おい、お前さんら、こいつが動けんみたいだから運んでやんなよぉ。なんなら運びやすいようにしてやってもいいけどねぇ」
「おっ、覚えてろ!」
モブトループは綺麗な捨て台詞を残してしりもちついた男を抱えて去っていった。
「大丈夫かい?」
「え? ああ、はい、ありがとうございます。でも……」
「なんか理由があるのかい?」
「ええ、まあ。ここだと」
「よぉし、じゃああんたのところの旅籠に泊まらせてもらうよ。なぁに、こう見えても金がない訳じゃあない」
あの人なんか勝手に決めてるけどいいの、晶龍君?
「やっちまったもんは仕方ないし、それにオレもいきさつが気になるからな。まあ宿なんてどこでもいいけど」
まあ晶龍君が居るなら大丈夫かなあ? ぼくらは案内されて宿屋に……あっ、ぼくは持ち込み可なのかな? 大丈夫? 他に泊まってる人も居ないから? そうですか。
宿の中は意外と小綺麗にされていた。表からは破れかけ、潰れかけかと思っていたけど室内の手入れはじゅうぶん行き届いている。きっと奴らのせいで客も入らないんだろう。
「こちらのお部屋をお使いください」
通されたのはこぢんまりとした小部屋である。やたら豪華な部屋に通されるのかなって思ってた。ベッドは二つ。まあぼくは床でもいいよ。
「さてと、それじゃあ何があったのか話してくれねえか?」
晶龍君に促され、姉妹は話し始める。そう、姉妹だった。姉の方はパイリン、妹の方はリンファ。家族四人で宿屋を経営していたそうな。
で、ある時、母親が病気になり、それを治す為に父親が借金をした。ところが薬は効かず、母親は帰らぬ人になってしまい、父親の借金はあっという間に膨れ上がったそう。まあよくある話なのかな?
で、父親はどうしたかと言うと、返せるはずがない!などとブツブツ言っていたかと思えば突然ある日失踪してしまった様だ。酷い話である。
「それからは妹と二人でなんとかこの宿を切り盛りしてきたんだけど、借金が返しても返しても無くならなくて。むしろ増えるばかりなの」
「お姉ちゃんは返してるのにおかしいって言ったけど、利子がつくから当たり前なんだって」
つまり、暴利で苦しめてる訳ですね。もしかしたらその薬も効かないのを分かっていたのかも? いや、悪く考えれば考えられるだけに本当に酷い。
「借金の証文はあるかなぁ?」
「それが、証文を持ってるのはお金を貸してる人たちだけだそうで」
んん? 契約って両方の合意がなくちゃダメなんだよね? ぼくとグレンが契約した時もグレンなら使役されてもいいって思ったからだし。破棄の時は……止められなかったけど。
「そいつぁ、おかしいねぇ。よし、じゃあオジサンたちが何とかしてあげよう」
「おい」
「いやいや、ショウ君だって憤り感じてるじゃないですか」
「そうだけど、お前が決めるなよ!」
「よぉし、優しい雇い主様からのおっけーも出たので張り切ってやっちゃいましょうかねぇ」
「いつ了承したよ!」
顔に書いてたよ、晶龍君?




